ペンタックス HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AW レビュー|優しさと繊細さを兼ね備えたスターらしいレンズ
はじめに
今回紹介するHD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWは新世代のスターレンズシリーズとして最初に発売になったレンズです。DFA★でフルサイズのセンサーに対応したイメージサークルを持っていて、マウントも電子化されています。今回はPENTAX K-1 Mark IIとPENTAX K-3 III Monochromeを使ってレビューしました。
開放絞りはF1.4、フィルター径は72mm、レンズの重さは955g(フード付き)で、牛乳1リットル(1000g)と同じぐらいです。レンズ単体で持っているとそれなりの重さを感じますが、ボディーに装着した状態での重量バランスは良い感じです。
最短撮影距離0.4mがありがたい
このレンズの最短撮影距離は0.4mです。50mmレンズの多くは最短撮影距離が0.45m〜0.5mが多く、この数センチの差が使い勝手に大いに貢献してくれます。
▼撮影距離0.4m
▼撮影距離0.5m
最短撮影距離の0.4mと0.5mの比較です。50mm標準レンズを使っているとあと一歩被写体に近づきたい。そんな思いをすることが多いので、この最短撮影距離の短さはありがたい仕様です。
ボケ味の優しさ
発売前にこのレンズの画像をweb上でみたときに一番惹かれたのは、ボケ味の自然なつながりと優しさでした。
ピント面にはさりげなく存在感があって、そこからボケへの移行は滑らかなので一段とボケに優しさを感じます。背景の玉ボケが少し楕円になっているのは絞り開放だからで、ボケの中に、にじみや線がないのも美しく感じる要因です。
少し離れた場所から小さな花を撮影しても前ボケと後ボケは共に柔らかく、風景の中に溶け込んでいくような印象です。ボケに柔らかさがあっても絞り開放からピント面が繊細に分離されているのは、このレンズの描写性能の高さを表しています。
Goldとの相性も抜群
描写に優しさがあるので、新しいカスタムイメージGoldとの相性が良いと感じました。
Goldも少しネガ調の柔さなので、その相性は抜群です。そしてハイライトの黄味がかったような、ちょっと懐かしさを感じる色調がノスタルジックな雰囲気を作ってくれます。
この組み合わせはちょっとのんびりした雰囲気でまとめたほうがあっているので、前に出るより少し後ろに下がりながらアングルも下げて、広がりを感じる視点にするのがおすすめです。
立体感と質感の再現力も高い
新世代スターレンズといわれる最大の特徴はこの立体感と質感の再現力の高さです。その再現力は絞り開放から十分に感じるので、このレンズを使うときは絞り優先で絞り開放にして、連動外の自動補正(※)という機能を使って撮影条件が明るすぎるときの対応にします。
※連動外の自動補正機能は、絞り優先オートで自分が決めた絞りで露出のコントロールができないときに、カメラが自動で絞りを変えてくれる機能です。今回のように絞り開放で使っていても明るすぎる条件では自動で絞りが絞り込まれます。【設定方法 MENU/C/4 連動外の自動補正/2 オン】
この条件では絞りはF2.5に自動補正されました。リバーサルフィルムというちょっと色が濃くなるカスタムイメージを使っていることを省いても、この距離とF2.5という開け気味の絞り値ですっきりと奥行きも感じる描写になります。
森角(モリカド・自然風景のスナップ)で使っていると、その描写性能の高さをさらに実感します。ピントを合わせたのは画面右側の木ですが、絞り解放でもその木肌は細かく再現され、画面全体からは圧倒的な存在感を感じます。
ペンタックスの緑は美しいと言われることがあります。これはあえて緑を出すことを最優先に考えているからです。そこから得られる美しさと、このレンズが持っている再現力の高さが合わさると、こんなほのかな光の中でも緑の色を表現することができます。大切なのは見た目を再現することではなく、自分が感じた光を表現することです。
トーンの再現力もかなり高いので質感と立体感のバランスがよく、自分が感じた光を追いかけるのにあっています。かなり極端に暗い露出にしても暗いところが潰れることなく、さらに色の濁りも少なく深みが再現されます。
最後はモノクロで
PENTAX K-1 Mark IIでのモノクロ撮影も、優しさを感じる描写が程よく柔らかなトーンを作ってくれるので楽しいのですが、そのトーンはモノクロ専用センサーを使ったPENTAX K-3 III Monochromeにも魅力があります(PENTAX K-3 III MonochromeはAPS-Cサイズのセンサーなので、35mm換算76.5mm相当の画角になります)。
カスタムイメージソフトで、オーバー露出にするとこんな優しさを感じるモノクロ表現ができます。背景のハイライトはとんでいますが、そこまでにつながりを感じるのがモノクロ専用センサーと、このレンズの懐の深さです。
光の弱い条件でも細かいところを分離する能力が落ちることはなく、その優しさはさらに上がっています。強さだけでなくこんな優しさや繊細さも表現してくるもの魅力です。
空の再現力の良さを信じて思い切ったシルエット描写にしたシーンです。こんな思い切った露出にするときは一眼レフのファインダーの方が悩まずにすみます。私が一番気に入っているのは空の滑らかな再現です。この再現力はモノクロ専用センサーとこのレンズの実力の高さを表しています。
まとめ
今回紹介したレンズは確かにちょっと重いです。しかし、使っているとその繊細さや再現力の高さに圧倒されて、重さを忘れてしまいます。そして、その最大の魅力は優しさにあると感じています。デジタル的な強さを少し弱めてくれる魅力が個人的にはツボです。もちろんスターレンズシリーズらしい繊細さもあります。そんな優しさと繊細さという魅力があるのは、プリントでの表現を大切にするペンタックスらしさともいえるでしょう。
■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」というフィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。