ペンタックス HD PENTAX-D FA★85mmF1.4ED SDM AW|クリアでコントラスト再現に優れた中望遠レンズ
はじめに
2020年6月26日 PENTAXユーザーにとって、待ちに待った最新設計の中望遠レンズが発売になりました。発売から約3か月経ち、すでにHD PENTAX-D FA★85mmF1.4ED SDM AWを手にしているユーザーも多いと思いますが、筆者は普段APS-CセンサーのPENTAX KPをメインに使用しているため、今回はHD PENTAX-D FA★85mmF1.4ED SDM AWの魅力をお伝えするべく、K1-Mark IIで撮影させていただき、身近な被写体とポートレートを撮影。PENTAX独自の色づくり「カスタムイメージ」とともに被写体の魅力を引き出してみたいと思います。
理想の画質を追求した新世代の高性能★(スター)レンズ
”新世代スターレンズ”と言われる D FA★レンズシリーズは、デジタル時代に相応しく、また、K1-Mark IIのために開発されていると言ってもいいレンズ。「イメージセンサーや画像処理に頼らないレンズの力を感じることができる製品として最高の画質を追求すること」し、K1-Mark IIの画作りが最大限に活かされる設計となっています。
今回使用したD FA★85mmF1.4ED SDM AWは、K-1 Mark IIとのサイズ・重量のバランスを考慮したデザインで、レンズ先端の大型ピントリングからマウント方向にかかる傾斜部分(くびれ)が手持ちでも支えやすくなっていて、フードの取り付け部には物理的な段差を排除したことで、フードとレンズ本体が一体化するような、なだらかなデザイン。また、フード先端には保護ラバーが施されています。フィルター径 82mm なので、当然その分フードも大きくなるのですが、デザインとしてはスッキリとした好ましい印象です。
昨今のトレンドでもある大口径の単焦点レンズ。ボディーとレンズ合わせて2kgを超える重量になるので、大きく重い。その存在感は否めません。ただ、そんな重量感を忘れてしまうくらい安定したホールド感があり、美しい描写力・解像感とボケの表現が味わえる満足度の高いレンズであることは間違いないのです。
キレの良い描写力と空気感までも包み込む優しいボケ
F1.4の開放絞りから極めて高い解像力が得られます。陽光を浴びたイチョウの葉。コントラストの高い被写体となりましたが、葉脈までシャキッとキレ良く描写しています。また、画面左下のシャドー部までしっかりと像が見えています。クリアでコントラスト再現に優れた描写とはまさにこのことではないでしょうか。
こうした光量バランスの難しいシーンで性能を発揮するのがこのレンズの特徴の一つと言えます。この一枚だけ見てもレンズのポテンシャル、解像感を損なうことなくボケを美しく再現するPENTAXの画づくりの良さを感じさてくれました。また、PENTAXならではの緑色も際立っています。
これぞ写真表現といったボケの表現。前ボケ、ピント面の描写、二線ボケ、玉ボケなど、多彩なボケの表現が可能なレンズは、撮影距離と絞りを様々に組み合わせながらボケの風合いを楽しませてくれます。背景距離を考え撮影することでピント面に在る被写体が浮き立ちます。これもこのレンズの特徴です。カスタムイメージはポップチューン。信号機の色も加わってよりカラフルになりました。
草むらのように背景が近接しているシーンでも開放F1.4であれば滑らかに溶け込むようなボケが得られ、小さな被写体もグッと引き立ちます。ファインダー内でその良質なボケを感じることをできるのがPENTAXユーザーの特権なのです。
そして、最短距離が0.85mで「これ以上近づけない」ということは、被写体との距離感を感じながら、その制限の中で自ずとフレーミングを考えるということも必要になってくるので〝写真を撮っている〟感覚が改めて呼び起こされます。
MFでの撮影時、花や風景の撮影であれば三脚を使用したいところ。フィルター径82mmによる鏡胴はかなり太いためピントリングを指で回すのは難しく感じてしまうこともあるはず。また、重量があるので支えることを優先すると、再度フレーミングしなければならなくなります。当然ながら三脚を使える場所なら使用するのが賢明な選択肢と言えます。
〝歪曲収差ほぼゼロ〟の距離をつかみ取る
85㎜の焦点距離は中望遠になるため、スナップ撮影では画角が狭いという感じもしますが、筆者の中では適切な焦点距離と考えております。少し距離を保つことで撮りやすい被写体もあるのです。メーカーサイトでは「被写体距離約4mで歪曲収差をほぼゼロまで補正し、無限遠から最短撮影距離まで歪みの少ない、すっきりとした描写が可能」とあり、これが撮影時にレンズ構造を活かす最大のポイントになっているからです。
日頃スナップ撮影をしている筆者にとって、非常に使いやすい焦点距離の85mmは、APS-Cセンサーで50mm前後を使う方にとっても距離感がつかみやすいと言えます。街歩きしながら少し離れた距離にあるものが目に入った時に〝サッと切り取っていく〟という撮り方です。
5~10m合焦させたいメインの被写体を置くように画面構成すると背景の雰囲気を含めて包囲できる画角となり、距離を保つことによって、深く絞り込まなくてもしっかりと描写されるのです。
停留所に滑りこむ車両をAF-C(M)で連写して撮影。コントラストの強い光を浴びた車体を色収差もなく非常にシャープに捉えています。また、車内の様子までしっかり描写されました。車体に誇張されたパースがつかないので被写体に迫った臨場感が生まれるのも中望遠の良さです。歪曲収差ゼロの威力を感じさせます。薄暮の美しい青と、車体のツヤを強調するためにカスタムイメージはポップチューンをセレクト。
地面に近いローアングルで画面中央にピントを置いて撮影しました。画面奥、木々の葉のボリューム感、質感まで絞りF4でしっかりと写し込んでいます。ここまでの素晴らしい解像感に満足しながら、〝きっと風景の撮影時にも威力を発揮してくれるだろうな〟と実感しました。
ポートレート撮影なら相性抜群
「なんと言っても人物、ポートレートを撮っていただきたいレンズ」と開発者の声もあり、この焦点距離であるならば、筆者もぜひポートレートが撮りたいと思っていたので、スタジオで実写をしてみました。
自然光の半逆光で撮影。開放F1.4のピント面はシャープで前髪一本一本もハッキリと写し出します。その上で溶け込むように柔らかくボケ、フェイスラインのハイライトが際立ち、立体感と優しさが感じられる美しい一枚となりました。
開放から1段絞るだけでレースのカーテンの細かい目(ディテール)、モデルの一瞬の表情までしっかりと写し込める上、空気感をも包み、作品としての表現力の高さを感じさせます。
自然光で撮るポートレートならナチュラルで優しい雰囲気を表現できるカスタムイメージ「ほのか」を組み合わせるのがおススメ。レンズのボケと相まってより女性らしい柔らかさを表現できます。
モデルの正面から当たる定常光。顔はもちろんのこと、手前の右腕を見ていただくとハイライトからシャドーにかけての肌の丸み、立体感あるグラデーションのつながりの良さもお分かりいただけるのではないでしょうか。
モデルとの距離約2m前後でニーアップ、椅子に座って全身の撮影が可能になり、全身を写すには3m~の距離が必要で、フレーミングで背景の分量バランスなどを考慮すると4mくらいの距離をとることになります。特に屋外撮影の場合は自分自身の立ち位置も重要になり、背景も含んだ「画になる構図」を狙うことが必須です。
マニュアルフォーカスも快適な操作感
小型のLED照明1灯のみで、自身の手元でレフ板を支えながら撮影。画面に奥行きをもたせつつ、中望遠の程よい圧縮効果を狙いました。露出をマイナスにて撮影していますが、黒つぶれすることなくしっかりと細部のディテールも写し込みます。
機動力を優先する手持ち撮影なら、こうした暗いシーンではボディー側のクイック・フォーカスシフト・システムと合わせAFモード時にピントリングを回すことでMFに切り替えるのがベスト。ファインダー内は明瞭であるため、まつ毛の先端にしっかりと合焦させることが可能になり、ピントリングを回した際の滑らかな操作感にはストレスを感じられません。
「レンズのチカラ」を感じる一本
ポートレートはもちろん、花や風景、日常の1シーンまで、様々な被写体、シーンを撮影する中で感じることは、AF/MFともにピントの合焦の良さ、巧妙な操作感、得られる画・色、キレの良さとボケの美しさ、そして、K-1 Mark IIで撮影できることの喜び。
企画も、デザインも、光学設計も、すべてを一から見直したHD PENTAX-D FA★85mmF1.4ED SDM AWは、徹底した高画質と優れた性能を持つ、まさに〝新世代スターレンズ〟。
ここぞ!という時にこそ力量を発揮してくれる「レンズのチカラ」を感じます。使い続けるほどに虜になることは間違いない、魅力ある一本です。