モノクロのススメ vol.1「モノクロは引き算」|佐々木啓太
はじめに
今回から数回にわたってモノクロ撮影のヒントについて書いていくことになりました。私自身はフィルム時代にモノクロ写真に出会わなければ、ここまで写真を続けることはなかったと考えています。そんな愛すべきモノクロへの理解を深めていただけると幸いです。
デジタル的な知識としてPhotoshopを使ったモノクロ変換の解説をしますし、ほかにもモノクロ変換に特化したソフトもあります。しかし、このシリーズではそんな変換のテクニックではなく、撮影時に意識していただきたいことを解説していきます。
使用するカメラとレンズ
カメラ:PENTAX K-3 Mark III
レンズ:HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR
変換よりシンプルにモノクロで
デジタルカメラでモノクロ写真を撮っていると聞かれるのが、設定はモノクロですか? カラーですか? そんな質問です。さらにモノクロ写真の解説で「被写体の色を意識しよう」そんな言葉も見受けます。個人的にはどちらもモノクロ愛が足りないと受け止めてしまいます。モノクロは光と影(陰影)の表現です。確かにフィルム時代からカラーをモノクロに変換することはありました。しかし、個人的にはモノクロで作品づくりをする方で、その方法を使われている方に会ったことはありません。フィルムのモノクロプリントで大事なのはネガ作りで、そのネガのためには光の見極めが必要になります。モノクロにとって光が大切なのはデジタルでも同じです。
先の答えも、モノクロ・モノトーンの設定での撮影で「意識するのは光」です。フィルム時代に自分のモノクロプリントができずに悩んでいたときにいただいたアドバイスも「モノクロで風景をみろ」という言葉でした。
色の変換で作るモノクロ
いきなりモノクロ愛全開で突っ走っていますが、そんなに敷居を高くするつもりはないのでお付き合いください。まずはデジタルの画像処理を使ったモノクロ変換の話を基本的な知識として解説します。解説で使ったのは、Photoshopの【カメラRAW】の【HSL/グレースケール】の【彩度・輝度】のタブです。まずは彩度を全ての色で-100にしてモノトーンに変換してから輝度を調節しています。
彩度は、色の鮮やかさを調整する設定で、全て-100にするとモノトーンになります。
輝度は、明るさを調整する設定で、対応する色の黒のトーンが変わります。
同じ写真でもポイントになる色の輝度を変えることでトーンが変わります。こんなことができるのはデジタル変換の利点です。撮影時も色によって光の反射率が違うので厳密にいえばトーンの違いはあります。そして、それをコントロールするのがデジタルのモノクロという解説をされていることがあります。確かに理論的にはわかります。ただ、個人的には色がどう変換されるか考えていたら、意識することが増えすぎてモノクロの撮影は進まないと思います。
色を引き算する
次は実際に色を意識している撮影とそうでない撮影を比較します。
今回の変換は前で解説したPhotoshopの【カメラRAW】の【HSL/グレースケール】のタブで、グレースケールを使っています。その方がシンプルにモノクロ化できます。
カラーで見れば上の写真の方がこの自転車の魅力が伝わります。モノクロにしたときは下の方が暗部の締まりが良くモノクロらしい雰囲気が上がっています。この違いが色を意識するか、光を意識するかの違いです。
撮影のときに下のように光を意識できるようになるのが「モノクロで風景をみろ」の答えですが、そうなるためには少し時間がかかるので「色を引き算する」ことから始めましょう。
画面の中の要素を引き算する
モノクロ写真では形を意識した方が良いと言われます。色がないので、より形が浮かび上がってくるからです。前の自転車の解説でも、その形に立体感があるのが大きな違いでした。立体感の話はもう少し先で詳しく解説しようと思っているので、今回は形を意識して、画面の中をシンプルにすることを覚えてください。
形に集中することは自分の狙いを明確にすることです。形は画面の中の要素を引き算すればわかりやすくなります。
まとめ
やっぱりモノクロは難しい。そんなことを感じられたかもしれません。これは私たちがいつもカラーで風景を見て色を意識しているからです。その色を引き算するのは、はじめのうちは抵抗があります。しかし、慣れてくればそれはとてもシンプルで、目で見ている世界とは違う写真ならではの世界になります。そのシンプルな世界には引き算があっています。
■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」という
フィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。