ペンタックス K-3 Mark III Monochrome|モノクロームの世界を切り開いてくれる、撮る楽しみを味わえるカメラ
K-3 Mark III Monochromeのデザイン
満を持して登場した K-3 Mark III Monochrome。控えめなグレーのロゴが控えめで好ましい。
カメラが目立ちすぎない、というのは私にとって非常に重要なことである。ただでさえ視線を向けられたら人は気付くものである。出典は残念ながら思い出せないが、以前雑誌をパラパラとめくっていたら、「視線は物質である」ということを綴った文章を読んだ。たしか電気信号を発しているというような内容だったと思うが、この物質がファインダーを突き抜けるのかは別の話として、レンズを向けられると不思議と人は振り返るものである。そのときに仰々しい機材だとぎょっとするものだが、背景にすんなり溶け込むような躯体であれば、嫌な気分にはならないものだ。
Limitedレンズとの相性と魅力
このカメラには断然 Limitedレンズが似合う。特に HD PENTAX-FA43mmF1.9 Limited との組み合わせが私には心地よく、開放近くではオールドレンズを思わせる描写が K-3 Mark III Monochrome と非常に合う。
このレンズは私がフィルム一眼レフを使っていた頃はじめて購入したレンズで(当時はsmcのみであったが)、現在も愛用するレンズのひとつである。他社のモノクローム専用機も使用しているので、いちど Lマウントの SMC PENTAX-L 43mmF1.9 Special を使ってみたいと購入しかけたことがあったが、待ってみるものである。画角こそ変わるが、このレンズの描写は代え難いものがあるのだ。このレビューでは HD PENTAX-FA43mmF1.9 Limited を使用しているが、モノクローム専用機である故、smc世代のレンズもフリンジに悩まされることもなく活用できるだろう、というわけだ。
茶会での撮影体験
この組み合わせで撮りたいものがあった。茶会のシーンである。数年にわたるコロナ禍により、しばらくのあいだ開催が見送られてきたが、昨年の秋より再開される場も増え、この春は恒例の横浜三溪園での茶会も催される運びとなったのだ。 和の空間をこの K-3 Mark III Monochrome と HD PENTAX-FA43mmF1.9 Limited のセットで撮ってみたい、そう思ってよく晴れたある朝、三溪園内にある鶴翔閣へ向かった。
茶室へ一歩足を踏み入れると、独特の緊張感が身を包む。たもとの衣擦れに、足袋と畳の擦れる音、部屋を包むお香の香り。「いつもの場所」へやってきたことを実感するにつれ緊張がほどけ、次第に安心感に変化してゆくのを感じつつ、まずは一枚シャッターを切る。
モノクローム専用機の独特な描写力
わずかな光のなか、お香の煙を情感豊かに描き出してくれた。その描写は現実よりさらに生々しく、香りさえもただよってきそうな気配すらある。単にカラー写真をモノクロームに変換したのではけっしてこの画は出てこないであろう。目の前に迫ってくるような立体感と緻密な描写は、なるほど、モノクローム専用機ならではのものである。
今回はスタンダード、ハード、ソフトと3つあるカスタムイメージのうち、スタンダードを基調としているが、基本に忠実なスムースなトーンは非常に好感が持てる。
明るいファインダーによるマニュアルフォーカスの使いやすさ
光の状況によってはマニュアルフォーカスを使用する場面もあったが、K-3 Mark III ゆずりのクリアな光学ファインダーによりピントの山が非常につかみやすい。私を含め、モノクローム専用のカメラでさまざまなレンズを試してみたいと企んでいる人間も少なくないはずなので、このファインダーの明るさのおかげでレンズ遊びが断然楽しくなるはずだ。
古いガラス越しに新緑に変化しつつある庭園を眺めながら、このカメラで次は何を撮ろうかと次々に想像が広がる。 K-3 Mark III Monochrome は新たなモノクロームの世界を切り開いてくれる、撮る楽しみを存分に味わうことができるカメラとなるだろう。
■写真家:大門美奈
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。