細部にまで魂が宿るボディ。ペンタックス K10D
2007年カメラグランプリに輝いたペンタックス K10D
2006年というと、今の大学写真部員の方がようやく生まれた頃だろうか。そんな年に発売された色褪せぬ名機が、今回取り上げるPENTAX K10D(以下K10D)だ。令和の今から見ればかなり古いデジタル一眼レフであるが、当時その眩しいスペックに憧れて何度も家電量販店に足を運び、その度に「画質革命」とシンプルに書かれたパンフレットを持ち帰って眺めていたものだ。
前回の記事で紹介したキヤノンEOS 5D Mark IIIに続き、オールドデジカメ礼賛という形で、今でも十分に通用するK10Dの魅力を紹介していきたい。当然スローな所もあるが、フィルムブームの昨今、一周回ってそういったユーザー層にピッタリな気もするのである。
細部にまで魂が宿るボディ
2006年当時、筆者がメインにしていたキャノンのEOS 10Dをはじめ、ミドルクラスのデジタル一眼レフでは600万画素あたりが主流だった。そんな中、オーバー1000万画素機が遂に来たかという印象を受けたのがこのK10Dである。その衝撃は翌年カメラグランプリに選ばれたことからも察せられるだろう。
ソニー製の23.5×15.7ミリ 1020万画のCCDセンサーを採用、特筆すべきは420万階調という高い分解能を誇る22ビットのA/Dコンバーターである。詳しくは後述するが、それによって得られる非常に階調豊かなデータこそ今でもK10Dが十分通用する点だと思う。
なお作例に当たっては、なるべく本機の色再現を伝えるためにコントラストの微調整にとどめている。
細部に感じるこだわり
ローパスフィルター上にはゴミが付きにくくするSPコーティングが施され、さらに手ブレ補正機能「SR」(Shake Reduction)機能を使いセンサーを微振動させ付着したゴミをふるい落とすといった配慮もなされている。今でこそセンサーのゴミ除去機能は当たり前になったが、デジタル一眼レフがようやく一般ユーザーにも浸透し始めた時代にこういった細部まで手を抜かないPENTAXはさすがである。
電源をいれるとカタカタとやや大袈裟にダストリムーバル機能の振動が手に伝わってきて、毎度カメラに「頑張れ!」と鼓舞されているような気になる。
ボディ内手ぶれ補正はマニュアルレンズにも適用できるのが有り難い点ではあるが、最新の手ぶれ補正を知っている方には微妙な効きかもしれない。そこら辺は2006年のカメラ、可愛いやつだと思って付き合ってあげよう。
細かい配慮でいえばさらに、防塵・防滴のために72カ所もシーリングが施されている。ハイエンドクラスならいざしらず、SDカードスロットを開けるにもロック機構があり、もはや「やりすぎ」ともいえる熱量が投入されているのは一度手にすればすぐに伝わってくるはずだ。
こんな盛りだくさんの内容で当時実売価格が12万程度だったと記憶する。それでも写真家の卵にはなかなか手が届かない存在であった。
惚れ直した優れた階調性
何も説明なしに撮っても、出てきた絵を見たら納得できるのが先述した22ビットのA/Dコンバーターによる広い階調性だろう。
センサーに届いた光というアナログなものをデジタル変換するものであるが、420万階調という高い分解能によって豊かな階調を実現し、単色の空やレンズの持つボケ味をより一層印象深いものにしている。
残念ながら背面モニタの色再現は時代を感じるものなので、ヒストグラムだけ信じて撮影するのがオススメ。こういう言い方もなんだが、撮影時にあまりピンと来なかったものでも後でパソコンで開くと「お、写っているじゃん!」となるので、ある意味お得なフィルム体験のようなものかもしれない。
プリントして見えた真の実力
画質を語るにあたって、やはり写真本来の楽しみ方であるプリントという形に落とし込んで見るべきだ。そこには数値では語れないものがある。EPSONのSC-PX1VLでA3ノビ(イメージサイズ 45cm×30cm)に印刷してみた。
その結果は予想に反していた。ここまで写るのかという期待の遥か上の描写だったのだ。決して目を見張るような解像感があるとかではなく、そこまでカリカリに写っていないのに全体のバランスが非常に良い。曖昧な言い方だが「実に写真的」なのだ。おそらく目で見て受ける印象は、実際の数値上の解像感・階調性を遥かにしのぐものだと思う。
フィルムライクというのが適切かわからないが、そういう優しさがあると言おうか。度々言うように、デジタルの画質は現像ソフトや編集アプリの向上に依存する。そういう意味ではナマモノなのだ。
冒頭の築地市場の写真は2013年に撮影したもので、拙書「築地0景」(ふげん社)に収録されている写真である。掲載したのは当時のデータであるが、やはり今回改めてRAW現像すると明らかにその違いが分かる。
K10Dの画質はプリントしてはじめてその真価が分かると言える。何度も言うが本当に驚いた。もっと大伸ばしにするならPhotoshopのスーパー解像度を用いて4000万画素のデータにすれば余裕すらあるだろう。
付け加えておくと、スーパー解像度はデータの相性があるのだが、筆者がいくつかのカットでテストしたところK10Dはかなり相性がよく、アップスケールしても元データが持っていた良さを損なうことはない。
問題の高感度やいかに・・・
当時最高感度のISO1600はよほどでない限り使えないレベルであった。今のカメラで言えばISO51200と同等といった感じであろうか。上の写真を見ればちょっと使うのを躊躇うところだ。
しかし前述の通りデジタルはナマモノ、画質は進化する。AdobeのAIによるノイズ除去を施したものを比較してみよう。
どうだろう、筆者としてはこれなら十分使えるレベルになったと感じる。K10Dのノイズは嫌味がないので多少のノイズはかえって写真らしい。ノイズの消しすぎはディテールの損失につながるのでほどほどにするのがポイントだが、まさに生き返ったという感じだ。
操作に関して
画質がよければ他のものは許せる派の筆者であるが、やはり2006年発売ということで古臭さを感じる点もあるのは否めない。メニュー画面や電源を入れてからスタンバイまでややラグがあるし、AFもやや遅く感じる。
飛行機などの動き物を撮るとなればさすがに苦しいものがあるが、今回のようなスナップだとストレスを感じるということはなかった。幸いバッテリーがかなり長持ちするので撮影中は常時電源オンにしておけば良い。
APS-C機としてはピントの山も掴みやすいのでMFレンズの活用もおすすめだ。
ボタンの割当などカスタマイズ性は少ないが、逆にその少なさが良いと感じるところがある。今回の作例ではAモードメインで撮影しているが、絞りの変更・感度の変更すべて前ダイヤルだけで行える。
この潔さがかえって写真と真摯に向き合うことができるように、今回感じた次第だ。
最後にCCD機に対する筆者の所感。CCDとCMOSに特性の違いはあるのは確かだが、デジタルデータはその他様々な要素が複合的に寄与しているのでCCDだから独特の絵があるというのは違うと考えている。
ただ自然なノイズ感はこの時代のデジカメならではといった感じなので、フィルムのテイストが好きな人から、本稿で述べたようにRAWデータから現代的なデータを楽しむ方まで幅広く使える一台だ。
これだからデジタルカメラというものは楽しいのである。
写真系ポッドキャスト『トーキョー フォットキャスト – TOKYO FOTTO CAST』のご紹介
都市風景を撮ること23年、写真家・新納翔(ニイロショウ)が気になることを深く鋭く突っ込まずに探っていく番組です。週二回定期配信。番組の感想はSNS等気軽にいただけると嬉しいです。
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■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。