ペンタックス HD PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8ED AWレビュー|並木隆が撮る100ミリマクロの世界
はじめに
定番ともいえる中望遠マクロレンズが光学系を一新してリニューアルし、HD PENTAX‐D FA MACRO 100mmF2.8ED AWとして生まれ変わった。
このレンズは35mm判フルサイズに対応するマクロレンズで、APS-Cフォーマットのカメラに装着した際の焦点距離は35mm判換算で153mm相当。EDガラスと異常低分散ガラスを採用した8群10枚のレンズ構成となり、諸収差の補正だけでなく前モデルで出やすかったパープルフリンジの発生を大幅に低減している。
また、可視光域における平均反射率を従来比約50%以下に抑えた「HDコーティング」の採用によりゴーストやフレアを抑制し、どんな撮影条件でもハイレベルな描写性能を実現している。さらに前モデルの簡易防滴構造 “WR(Weather Resistant)”から、フォーカス群も含めた6カ所にシーリングを施した防塵防滴構造 “AW(All Weather)”にグレードアップ。より厳しい環境でも撮影を楽しむことができるようになった。
サイズ感は前モデルを踏襲した小型軽量設計
前モデルとなるsmc PENTAX‐D FA MACRO 100mmF2.8 WR(左)と並べてみても、全長が若干伸びた程度でほぼ同等サイズ。機動性に優れた小型軽量設計を継承しながらも、光学系の一新で描写性能は大幅に向上している。また、シーリングを増やすことで防塵・防滴性能も強化。外装はアルミ削り出しを採用し、質感だけでなくマニュアルフォーカス時のピントリング剛性感も得ている。繊細なピント調整を求められるマクロレンズには必須の部分。最大径×全長は約65×80.5mm。重量は約348g(フード付き:約387g)。レンズフードは付属。
高倍率時でも操作感の変わらないフード
最大撮影倍率は1倍(等倍)で最短撮影距離は0.303m。等倍撮影時のワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)は13cmとなる。インナーフォーカスを採用するマクロレンズが多勢の中で、倍率が上がるほど鏡筒の伸びる方式も前モデルを踏襲している。倍率が変わってもレンズの全長が変わらない方が使いやすいイメージがあるが、フードをレンズ先端ではなく本体外側に装着する構造を採用しているため、まさにフードを装着したまま倍率が変化してもレンズの全長変化を感じることはない。
また、インナーフォーカスではフードを装着するとワーキングディスタンスが短くなるため、高倍率時に前ボケなどを入れたいときはフードを外すこともある(前ボケになる被写体がフードの中に入ってしまうときがあるため)が、この方式ならそういう手間も必要ない。ここは前モデルから、とてもよく考えられている部分。
滑らかなボケ味
前モデルは色のりの良さがお気に入りだったが、その傾向はしっかりと引き継がれている。開放絞りでの画質も解像力の低下は感じられず「さすがマクロレンズ!」といえる納得の描写性能。木漏れ日などの点光源も非常に美しい。
ガウラの茎のボケをご覧頂きたい。奥にいくほどムラなくじわじわとボケが大きくなっていくのは、滑らかなボケ味を持ったレンズだからこそ。光学系を一新しながらも解像力だけではなく、ボケ味を含めたトータルでのバランスをちゃんと考えられているレンズだということがよくわかる。サイズを変えずに頑張って作りましたねって開発者を褒めてあげたい!
パープルフリンジ発生の大幅な低減
リニューアル一番の目玉がパープルフリンジの大幅な低減だったので、かなりいやらしい条件ではあるが太陽とキバナコスモスの種を重ねてみた。前モデルであれば種の縁の反射している部分に確実に出ていたであろう、かなりキツイ条件であったが、しっかり抑えられている。他にも松の葉や水面の反射など前モデルで出ていたのと同じ条件でいろいろ試した。100%というのは無理だったが、気になるような部分は皆無で、前モデルを知っているだけに言葉通りの大幅な低減を実感することができた。
フード設計のありがたさを実感する条件
等倍でシュウメイギクの花芯部分にピントを合わせる。レンズの先端から花芯までのワーキングディスタンスは13cm。その間に前ボケとなる花がある条件だが、インナーフォーカスやレンズの先端にフードを装着するレンズなら、フードを外さないと前ボケがフードで隠れて暗くなってしまうところを、しっかりとらえられた。
アングルやピント位置を変えて変化を出す
イワシャジンというホタルブクロを少し小さくしたような花を真下から覗き込むアングルで狙ってみた。マクロレンズでクローズアップするときは、普段レンズを向けることのないアングルや、花であれば花芯以外にピントを合わせてどんな被写体かわからないように撮ると、これまでと違った作品に仕上げることができる。
遠景撮影もOK!
クローズアップだけじゃなくもちろん遠景だって撮影できる。100mmという焦点距離は望遠レンズのカテゴリーに入るのでどうしても被写界深度が浅くなる。遠景から近景までを取り込むと中途半端なボケができてしまうので、遠景だけを切り取ることが画面全体にビシッとピントを合わせるポイント。
おわりに
マクロレンズというとクローズアップ専用というイメージが強いが、通常のレンズにクローズアップ性能をプラスしたというのが、このレンズの正しい認識。100mmの単焦点レンズとして風景はもちろん、キレイなボケ味を生かしてポートレートにも使える万能レンズである。HD PENTAX‐D FA MACRO 100mmF2.8ED AWは軽量コンパクトで持ち運びにも便利なので、是非常用レンズとしていろいろなシチュエーションや被写体で使い倒してほしい。
■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。