PENTAX 645Z レビュー|孤高の存在、今こそ買うべき名機

新納翔
PENTAX 645Z レビュー|孤高の存在、今こそ買うべき名機

はじめに

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/400秒 ISO250

我が愛機PENTAX 645Zは2014年発売の中判デジタルカメラ、2010年に出たPENTAX 645Dの後継機である。8年前のカメラというと非常に古く思われるかもしれないが、一般的な135判フルサイズカメラと違って中判デジタルの世界では一機種のサイクルが比較的長く、まだまだ第一線で使えるカメラである。2023年の今にしても、画質の面で645Zを超えるカメラはなかなか出でいないというのが私の見方である。当然画質のみがカメラの良し悪しを決めるわけではないが、645Zは私にとって最高の相棒、もはや第二の目となっている。

2022年12月に筆者が開催した写真展「POST PETALOPOLIS」でも、全ての作品が645Zで撮影したものであり、今では作家活動には欠かすことの出来ない機材となっている。今回は都市風景をメインに撮影している視点から改めて645Zというカメラを見ていこうと思う。

中判カメラが生み出す潤沢なデータ

645Zで撮らないのであればもはや撮らなくてよいと、どこに行くにしてもほぼこれ一台。レンズはSuper-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4、使うのはほぼこの一本である。都内だろうと海外の旅先だろうとこのセットで十分作品が撮れる。

©SHO NIIRO “PETALOPLIS”(2022)
■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/500秒 ISO200

レンズに関しては昨今流行りのオールドレンズ特有の味が欲しいというわけではなく、色々なレンズで解像度テストをした結果これがずば抜けて良かったので使用しているという具合だ。645Zのセンサーが持つポテンシャルを最大限引き出すにはそれ相応のレンズが必要なのである。

上の写真は汐留の高層ビルから築地方面を撮影したものだが、一部分を切り出してみよう。

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/500秒 ISO200

窓ガラス越しでこの解像感である。東京の密集したビル群がこれでもかというほど克明に切り取られている。645Zの生み出すデータは解像度と豊富な階調性を同時に持ちあわせている点が素晴らしく、ビッグプリントにすることで景色をそこに持ってきたのではないかと思うほどの再現性を見せてくれる。画面越しでは十分にこの点が読者に伝えられないのが残念である。

近い焦点距離で言えば、HD PENTAX-D FA645 MACRO 90mmF2.8ED AW SRも優秀なレンズなのだが、普段手持ちで撮影しているためにいささか大きいのが難点。総合的に、ここ6、7年間において105/2.4が私の中のベストレンズとなっている。

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/1000秒 ISO200

撮影データの持つ階調性の豊かさ、解像感に一番大きく関係するのがセンサーサイズである。スマートフォンでも1億画素搭載モデルが出てきているが、小さいセンサーと大きなセンサーを1億個のピクセルに分割するわけなので、単純に1ピクセルあたりのサイズに大きな違いが出るのは言うまでもない。元が大きればそれだけ1ピクセルが受け取る情報量が豊富になる。

一般的に現在最も普及しているフルサイズ機はセンサーサイズが「24mm×36mm」のものを指すが、多くの中判デジタルが採用している規格が約「33mm×44mm」で1.7倍ほどの面積がある。中判デジタルのなかにはフィルム645機と同じサイズ(60mm×45mm)の中判フルサイズやスクウェアのセンサーなど様々な機種が存在するが、いずれも1ピクセルが受け取ることのできる情報が多くなるので階調性や画質の面で優れた結果が出せるわけだ。面積比では1.7倍でも体感としてはそれ以上に潤沢なデータに感じる。

645Zが採用しているセンサーも「33mm×44mm」型であるが、そのデータから得られる絵は先述の通りすさまじいの一言である。

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/500秒 ISO200

良質なデータはただ大伸ばしに耐えられるだけでなく、ハイライトの粘りやシャドー部の表現などを含めレタッチのしやすさにつながる。このことは作品制作の広がりを意味するのだ。特にA3以上、とりわけB1あたりのビッグプリントで真価を発揮する。

フルサイズからのステップアップに

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/320秒 ISO200

フルサイズ機を使っていて何か物足りなさを感じステップアップするのであれば、私は中判デジタルを薦めたい。アウトプットされる画質が数値以上に向上するので、目で見てはっきりと違いを感じることができるからだ。また中判ならではの撮影スタイルは、違った気持ちで被写体と向き合わせてくれる。そういう新しい発見はフルサイズ機に戻った時にも必ずや何かしらのフィードバックとなる。

最近のカメラはどの機種をとっても搭載されている機能は成熟しきっている。例えばAF性能ひとつ見ても、エントリー機だからといってえらく性能が劣ることもない。正直、シビアなプロの現場に求められるレベルでなければ満足できるカメラが揃っているのが現状だろう。

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/500秒 ISO200

考えてみれば数々の名作を捉えてきた銀塩最後のフラッグシップモデル、CANON EOS-1Vが出たのがジャスト2000年、今から23年前のことである。そこから様々なメーカーの開発者によって改良が繰り返されてきたわけで、足りないはずがないのである。

デジタルバックの先駆者であるPhase OneやLeafといったメーカーの初期モデルと違って、中判カメラだからといって特に新しいことを覚える必要もない。PENTAXの中判カメラというとネイチャー向けと思われがちではあるが、私が長年使ってきた経験から言えばポートレートやネイチャー、ストリートスナップなど全く問題なく使える。さすがにスポーツなどの動きものや高感度を活かした撮影になると厳しいが、それを中判に求めるのも酷なはなしである。

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F8 1/500秒 ISO200

銀塩時代はバケペン(PENTAX67)やハッセルブラッド、ローライ、ブロニカ・・・挙げればキリがないほど多くの作家が中判カメラを使ってきた。ジャンルも多岐にわたる。

最近はカメラが高性能になりすぎて、自分が撮っているのかカメラが撮っているのか分からなくなることが多々ある。仕事で確実に撮れていることを求められているのでなければ、中判ならではの新しい撮影体験も加味してカメラ選びをした方が幸せになれるというものだ。

余計な機能がついていないからこそ、撮影者が被写体と真摯に対峙し、撮影という行為にしっかりと向き合える、それが中判ならではのイデオロギーなのである。

重くてデカい、だがそれがいいのだ。

人によってはデメリットに感じる点が利点に見えてくる。中判カメラには数値で語れない部分が多く詰まっている。135では体験できない撮影経験を与えてくれるのは間違いない。

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/500秒 ISO200

中判ならではの落とし穴

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/320秒 ISO200

ただ万人にとって最高のカメラかといえば答えはNOである。645Zだけでなく中判カメラ全般に言えることだが、A4までしかプリントしないユーザーにはそこまで大きな差は感じられないだろうし、オーバースペックになってしまう。また撮影対象や撮影リズムなど様々なことを考慮すればその人にあったカメラこそがベストカメラである。常に平均点以上の結果を出すというよりも、そのカメラが1番ポテンシャルを発揮したマックスの値に重きを置くと645Zは必ずやこちらの声に答えてくれる。

また、誤解なきように言うと画質はセンサーのみで決まるものではない。レンズ、受光データを処理するエンジン、RAWデータから画像処理レタッチするスキル、それらが総合的に組み合わさって最終的なアウトプットデータとなる。解像度に関していえば印刷するプリンタ、用紙によっても最終的な解像感は変わってくる。

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F8 1/250秒 ISO250

またセンサーサイズが大きくなればなるほど、レンズに求められる解像度が上がっていく。一ピクセルにしっかりと結像するためのレンズ性能が求められアラが目立つようになる。当然ブレにも慎重にならなければいけない。

同じPENTAXの中判機である645Dでは問題なく使えたレンズでも、解像度が足りず645Zでは厳しく感じるものもある。私はブレ対策として手持ちの場合、通常1/500以下のシャッタースピードでは極力切らないようにしている。

故障対応の点を無視すれば、あえて中古の645Dを使うのもアリかもしれない。背面モニタ表示に時間がかかることとバリアングルが使えないことをのぞけば今見てもさすがは中判画質である。

このカットは写真集「PEELING CITY」に使ったカットで、国道1号線馬込付近にて645Dと105ミリの組み合わせで撮影したものだ。空のなんともいえないトーンが見事に出ている。実際B0まで伸ばしたが隅々まで細かく写っていて気持ちが良い。

■撮影機材:PENTAX 645D + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F11 1/400秒 ISO200

この記事を読んで645Zデビューする方のために私のオススメレンズを書いておこう。中望遠が好きなのでその点はご了承を。

・Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
・HD PENTAX-D FA645 MACRO 90mmF2.8ED AW SR
・smc PENTAX-FA645 Macro 120mmF4
・smc PENTAX-FA645 45-85mmF4.5
・smc PENTAX-FA645 75mmF2.8
・smc PENTAX-FA645 35mmF3.5AL[IF]

今だからオススメする645Z

■撮影機材:PENTAX 645Z + Super-Multi-Coated TAKUMAR/6X7 105mm F2.4
■撮影環境:F5.6 1/320秒 ISO400

発売から8年、645Zはまだまだ第一線のカメラである。ポテンシャルを最高に引き出すことができた時、スペック上の数値以上に素晴らしい絵が出てくる。オールマイティに優等生ではないが、ハマった時の絵は今で一級品だ。そしてまた中判ならではの撮影体験はフルサイズ機では味わえないものがある。

多くの中判デジタルを使ってきたが、光学ファインダー好きとしてはPENTAX以外で探すとなるとPhase OneのIQシリーズかデジタルバックしかない。初代PENTAX 645が発売されたのが1984年。そこからほぼ形を変えずに645Zまでつながっていることを見れば、この形状は一つの完成形とも言えるのだろう。

そしてこういう事を言う人は少ないかもしれないが、中判システムを導入することは非常に経済的なのである。なぜならフルサイズシステムへの投資が少なくなるからだ。

これは私見であるが、画質を求めるなら中判を使えば良いと135フルサイズ判の高級レンズを買うことが減ったのである。いくらフルサイズで頑張っても絶対的な壁がある事を知ってしまったからだ。

特にPENTAXの中判レンズは一部を除いて非常にリーズナブルなプライスで手に入る。新品の値段がここまで下がった今、645Zはまさに今買うべきカメラである。

 

 

■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。 2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。

 

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