名機「PENTAX K-1 Mark II」が描き出す唯一無二の光と世界観
唯一無二の一眼レフ
「PENTAX K-1 Mark II」
皆さんはこのカメラをご存知だろうか。
私という写真家が最も愛してやまないカメラであり、なくてはならない存在だ。技術が発展し、デジタルカメラの認識がミラーレスカメラが主体となっている現代に於いて、その時代を逆行するような存在だ。
ミラーレスに対し、このPENTAX K-1 Mark IIはAF(オートフォーカス)や連写は決して速いとは言えない。機材として重量を考えた際に、一眼レフ(ミラー有り)のためやはり重みを感じてしまう。
ではなぜ私はこのカメラを愛しているのか。
それは、このカメラが描き出す唯一無二の光と色の世界があまりにも美しいからだ。
私は深い森の中、淡くゆらめく光の世界を撮影している。
繊細で常に変わり続ける光景の数々。
その一つ一つが心に触れ、感情を揺らす。
今目の前に広がる光景を、心が動くままに切り取りたい。
そんな一瞬一瞬の想いに応えてくれるカメラなのだ。
魅力的なパラメータ調整
さて、ここからは少し難しい話をしていこうと思う。
「撮って出し」という手法があるが、この手法はカメラの性能や色作りの影響を大きく受ける。PENTAXはこの「撮って出し」という部分に於いて比類なき可能性と実力を秘めている。
一般的なカメラには「コントラスト」「ハイライト」「シャドー」「WB」「シャープネス」等の機能が備わっている。この項目をしっかりと計算し、操る事により作品をある程度仕上げることができる。
だがしかし、PENTAXにはそれ以外に大きな特徴がある。
それは「キー」というパラメーターだ。この「キー」は中間光量を担っており、画作りの要(かなめ)と言っても過言ではない。「コントラスト・ハイライト・シャドー」は基本的に局所的な濃度を調整するだけになってしまうため、光を際立たせるとなると骨が折れる。しかし、この「キー」がその全てを解決してくれる。
例えば露出補正を0にし、ハイライトを固定しつつ「キー」を下げる事により、光が際立って浮かび上がってくる。
「シャドー」が潰れそうであればそのパラメーターをプラス(明るく)に振る事により潰れを抑えることができる。
要するに光は際立っているがシャドーは潰さずに、且つコントラストが乗っている作品を撮って出しで写すことができる。
その逆も然り、「露出補正」を下げて「ハイライト」の最大値を下げて白飛びを抑えつつ「キー」で中間を持ち上げて「コントラストとシャドー」で最後に整えるといったことも可能だ。
このように、自身が表現したい光のイメージを現場でしっかりと作品に落とし込むことができる。
■状況に合わせた使い方の例
【1】明るい時は「露出補正」を下げて「キー」を上げて、白飛びを抑えつつ光を底上げする。
【2】暗い時は「露出補正」を上げて「キー」を下げて、光を際立たせることもできる。
同じシチュエーションで【1】と【2】のどちらを適用しても、ちゃんと計算すれば同じような画を出すこともできる。
画質とシャッタースピードを稼ぎたいなら【1】を適用するといったことも出来る。このPENTAX特有の「キー」というパラメーターひとつで、撮影の幅が大きく増えるのだ。必要があれば上記にプラスして、レタッチで多少の光量調整等を行うだけで作品が整ってしまう。
PENTAXの色味
色味についても特徴がある。
PENTAXは、深く印象的な特別な色を描き出してくれる。
さまざまな表現を得るための工房となるカメラ内の「カスタムイメージ」には、シチュエーションや表現に合わせて使い分けることのできる様々な種類のキットのようなものがあるのだが、その中でも「ほのか」と「銀残し」には「調色」という項目が存在する。
これは単に色の偏りを補正するといったものでも、フィルターをかけるといったものでもない。
この調色は、ハイライトとシャドウを含めた全体に指定した色を美しく乗せることができるのだ。
例えば、「調色」でブルーを入れるとしよう。そうすると全体が引き締り、作品により深い印象を与えることができる。
しかし、ブルーはマゼンタを引っ張ってきてしまうという厄介な性質があるため(フォトショップ等のカラーバランスでブルーを上げると分かる)、そこへWBのKで色温度を指定した後にG(グリーン)・B(ブルー)・M(マゼンタ)・A(アンバー)の調整パラメーターにてGを入れることによりマゼンタを相殺するといった裏技もできる。
難しいことを書いているが、要するに撮影する時点においてしっかりと追い込んだ画作りが可能ということだ。慣れると瞬時に設定を終わらせるといったことも出来るようになる。それに、RAWで撮影しておけばカメラ内現像もできる為安心だ。
私の作品は基本的にこの機能を駆使し、目の前にある光景をその時の心の動きに合わせて撮影し、作品として完成させるといった撮り方をしている。当記事の作例から、その光の深さを感じていただきたい。
私の場合は森の光を中心に撮影をしているのだが、もちろん様々なジャンルにてPENTAXは活躍してくれる。ストリートスナップもポートレートも、カスタムイメージの使い方ひとつで幅広い表現が可能になる。
ちなみに冒頭でカメラは重めと書いたが、重心がしっかりしているため安定した撮影が可能。グリップも深いため、構えた時のバランスは最高である。
是非とも一度このPENTAX K-1 Mark IIというカメラを手に取って試してみてほしい。初めのうちは使い方がわからず難しいこともあるだろうが、東京・四谷にあるPENTAXクラブハウスに行けばスタッフの皆さんが優しく且つ丁寧に使い方を教えてくれる。PENTAXだからこそ描き出すことの出来る繊細な表現をお楽しみいただきたい。
まとめ
PENTAX K-1 Mark IIは、AFの速さや機材の軽さを重視する今の時代でのカメラのあり方とは相反する存在ではあるが、それらを補ってあまりある魅力が詰まっている素晴らしいカメラなのだ。
ひとまず今回は作例を多めに見ていただき、PENTAX K-1 Mark IIが描き出すその世界観を知っていただきたい。
下記の動画では、実際に森の中でどのようにカメラを用いているかを映像にしているので、併せてご覧いただければ幸いだ。
▼PENTAX K-1 Mark II撮って出し作品
あえてナチュラルなイメージで落ち着いたトーンにて撮影。繊細な光の表現を描き出すことができている。
■写真家:瀬尾拓慶
神奈川県川崎市生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科卒。東横線日吉駅前にてImaging Gallery GLEAMを運営。主な被写体である森の光を、ジムニーにて車中泊をしながら追いかけている。独特な光の使い方で構成する作品性は国内外より多大な評価を受けており、日本における写真の芸術的価値の向上を目的に、写真ブランド「TAKUMICHI SEO」を運営。2022年よりIGGネイチャーフォトコンテストを設立し運営。YouTubeチャンネルにて撮影の様子などを公開、映像媒体にも力を入れている。