【オールドレンズ】ぐるぐるボケとソフトフォーカスで別世界を表現「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」
はじめに
今回のオールドレンズのセレクトは、ペンタックスのソフトフォーカスレンズ「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」です。
この「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」は、1986~1990年の4年間だけ作られたソフトフォーカスレンズです。写真家「秋山庄太郎」氏が花の写真を撮影する時に愛用されていたレンズで、この「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」で撮影された多くの有名な作品が残っています。
その写りは、かなり特徴的で個性あふれる表現ができるレンズ。そんな「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」の実際の写りとその魅力をお伝えします。
ペンタックス「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」 の魅力と特徴
ソフトフォーカスレンズ「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」の写りは少し個性的。ソフトフォーカスレンズはレンズの構成によって種類が分けられます。「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」のレンズの構成は1群2枚、単玉タイプに近いレンズで古典的なソフトフォーカスレンズの写りをします。
単玉タイプのソフトフォーカスレンズは周辺部の像の崩れが大きくなる傾向にあり、渦を巻いたようなぐるぐるボケが発生しやすくなります。下の写真は「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」の特長を最大限に表現してみた写真です。
背景は大きな木々からの木漏れ日を取り入れ、絞りを開放で撮影し大きくハロ(収差)ができる状態で撮影しています。ソフト効果とぐるぐるボケ、そしてハロの3つの要素を取り入れる事で、他のレンズでは表現できない独特の世界を表現する事ができるレンズです。
最新のレンズ+ソフトフィルターで撮影しても、このようなイメージは撮れません。それ故「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」は他にはない魅力的なレンズの1本とも言えると思います。
1群2枚レンズの「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」は、独特な筐体のデザインになっています。筐体の太さよりも絞りリングが太くなっていて、見た目が少々いびつな感じです。
これには理由があって「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」は、既にあったパーツの寄せ集めで作った事に起因しています。デンタルマクロレンズの光学の一部・67用レンズの絞りユニット部・ヘリコイド接写リングを組み合わせてできたのが、「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」です。専用で設計されていない寄せ集めで作られたレンズなのです。
「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」の基本的なスペックは、
焦点距離:85mm
最短撮影距離:0.57m
絞り開放:F2.5
絞り:F2.2、F2.8、F4、F5.6の4段階
レンズ構成:1群2枚
絞り羽根枚数:6枚
フィルター径:49mm
マウント:Kマウント
重量:231g
発売:1986年
発売期間が4年間のみと短命なレンズですが、「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」は中古市場ではそれなりの数が流通しているので、比較的入手もしやすく、価格も程度によりますが2万円前後で購入できる個体が多いようです。
「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」は絞りの設定でソフト量をコントロールするレンズです。絞りF2.2開放で最大のソフトフォーカス効果を得る事ができます。そして絞りを絞っていくことでソフトフォーカス効果は減少していきます。下の写真は同じ場所で、絞りをF2.2、F2.8、F4、F5.6で撮影したものになります。
絞りを絞っていくことにより、ソフトフォーカス効果はかなり減少しピントの合わせた中心部はシャープになります。
F5.6に絞るとソフトフォーカス効果はかなり減少しますが、周辺のぐるぐるボケは残るので少しバランスが悪い感じがします。撮影シーンにもよりますが絞りF2.8やF4辺りが使いやすい感じです。
今回はソニーα7R IIIに、焦点工房のマウントアダプター「K&F Concept KF-PKE.P」(ペンタックスKマウントレンズ → ソニーEマウント変換)を使用して撮影をしました。このマウントアダプターは実売価格で3,500円程度で入手できる製品です。
オールドレンズを使って撮影する場合のカメラの設定やピント合わせなどのコツは、基本的には下の記事をご参照してみてください。特にソフトフォーカスレンズのピント合わせは、少し難しくコツもいるので、必ず拡大しながらピント調整をして撮影をしましょう。
ペンタックス「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」 で花の撮影
「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」を持って花の撮影スポットを何ヵ所かまわって撮影してみました。分かっていた事ですが、やはり背景の処理をどうするかが大きな課題です。ぐるぐるボケが大きい為、基本的にはメインになる被写体は中心付近の構図になります。
白い花や明るめの花、太陽光などが強い光の場合はソフト効果の滲みが強く表現されます。反対に色の濃い花などはしっとりした少し落ち着いたソフト表現になります。
下の写真は、今回の撮影でもっとも気に入った写真の一枚です。雨上がりの麦畑で撮影したものですが、ソフト効果とぐるぐるボケの効果で、麦が風で揺れているようなイメージを作ることができました。
ソフトフォーカスレンズは、絞りを開放でのピント合わせは少し難しいので、ピント合わせの際は必ずカメラ側で拡大してピント合わせをしましょう。
ペンタックス「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」 でスナップ撮影
「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」でスナップ撮影にチャレンジしてみました。焦点距離が85mmと少し長いのと、グルグルぼけをどう対策しようか悩みながらの町並み撮影でしたが、メイン被写体に寄って撮らなければ意外になんとか許容範囲内のボケに収まった感じです。
とは言え、やはり建物などを撮影するには不向きのレンズです。メインのレンズで撮影するには難しいレンズですが、旅先などで気になった被写体などを印象的に表現するには面白いレンズだと思います。
町並みスナップは少し難しかったので、海に移動して砂浜で夏をイメージして撮影をしてみました。メインになる被写体の位置は、ぐるぐるボケの影響がでるギリギリの位置で構図を決めて撮影。
「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」はレンズに距離目盛が付いていませんが、最短撮影距離は0.57mと85mmの焦点距離のレンズとしては寄れるレンズです。砂浜にあった小さな白い貝殻にもグッと寄って撮影する事ができました。花の撮影でも大活躍してくれるレンズですが、小物のアップ撮影でも威力を発揮できるレンズです。
まとめ
このレンズ「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」を愛用した写真家・秋山庄太郎氏は、ぐるぐるボケを避けるために1.4倍のテレコンバーターを使用していたそうです。高画素のフルサイズ機を使用してクロップ撮影やAPS-C機を使用すれば、同じ様な感じでぐるぐるボケを避ける事ができそうです。
「SMC PENTAX SOFT 85mm F2.2」は癖の強いレンズですが、その分とても面白い写真を撮影する事が可能なレンズです。ソフト量の調整、ぐるぐるボケの処理など考える事が多くなりますが、撮影する楽しさが味わえるレンズです。
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■写真家:坂井田富三
写真小売業会で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。 撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ、ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。