ペンタックス smc PENTAX-DA 50mmF1.8|優しさとシャープネスを兼ね備えた軽量コンパクトな中望遠レンズ
はじめに
smc PENTAX-DA 50mmF1.8は2012年に発売されたAPS-Cフォーマット用の単焦点レンズです。ペンタックスユーザーの間では、非常に魅力的な価格から「コスパレンズ」と呼ばれ、キレの良い描写とともに一目置かれている存在のレンズ。私もお気に入りの1本です。実際にどんな写りなのか気になる方も多いのではないでしょうか。
今回はPENTAX K-3 Mark IIIとの組み合わせでスナップとポートレートを撮影してきました。
smc PENTAX-DA 50mmF1.8の特徴
smc PENTAX-DA 50mmF1.8は、35ミリ換算で76.5mmに相当する中望遠レンズになります。プラスチックボディとマウントを採用し、ボタンや絞りリングを持たない非常にシンプルなデザインで、小型軽量化を追求した設計です。手にすると質量122gの軽さ、コンパクトなサイズに驚きます。
防塵防滴、手ぶれ補正、クイックシフトフォーカスは非対応。ボディ内AFモーター方式を採用しており、オートフォーカス機能を持ったカメラと組み合わせることでオートフォーカスが作動します。レンズ内の機構を最小限にし、コストが抑えられていることで誰もが手に入れやすい価格です。
ボディ内フォーカス時の駆動音が大きいことは否めませんが、AFが遅いと思うこともなく快適に使用できます。LVモードで撮影するとコントラストAFに切り替わるため、合焦するまでにピントが迷い、かえって音を立てる原因になるので、ファインダー内でしっかりとピント合わせを行うのがこのレンズの作法ともいえるでしょう。
最短撮影距離は45cm。中望遠レンズのワーキングディスタンスとしてはかなり至近距離で、テーブルフォトにも使えるというのも特長です。
シャープネスの効いたヌケの良いクリアな描写
私自身、2017年頃からしばらくの間PENTAX KPとの組み合わせで使用してきました。絞り込んだときの中遠景の描写は、解像感が高く、シャキッと切れの良い表現が得意なレンズです。爽快感のある、とても気持ちのいい描写が気に入っており、ペンタックスDAレンズの中でも高性能の単焦点レンズとして高く評価しています。
解像ピークはF5.6あたりで、近接~中景撮影時のシャープネスは素晴らしく、輪郭の際立った描写です。PENTAX K-3 Mark IIIのボディ側の性能を活かし、明瞭度をシーンに合わせて程よく加えることにより、さらに解像感とシャープネスを高めることができます。
開放F1.8の円形絞りと美しいボケ味
明るい開放F1.8と円形絞りの採用により、木漏れ日や点光源を背景として撮影した際には美しく柔らかなボケが得られます。ごく浅い被写界深度を生かした柔らかい表現も得意で、思い切りレンズ前に配置させた被写体は、透けるように大きくぼけ、画面を構成する上で印象づける役割を担ってくれます。
近接撮影時のシャープさも素晴らしく、カメラに最初からついているキットレンズ(標準ズームレンズ)では得られない描写です。廉価版レンズとは思えない画に仕上がります。
また、手ぶれ補正の機構を持たないレンズにとって、開放F値が明るいことは、光量の少ない場所や暗所撮影時にも速いシャッタースピードを確保でき、手ぶれ軽減に貢献してくれます。
中望遠の焦点距離で切り取るスナップ撮影
スナップ撮影は、遠近感を表現するために広角~標準域のレンズで撮影することが多いですが、ほどよい圧縮効果のかかる中望遠レンズでは、距離感をつかみながら見たままを素直に切り取る楽しさがあります。周囲の風景や場の雰囲気を残しつつ、画面整理ができる画角で、広角レンズでは届かなかった3~5mほど先の被写体へのアプローチが増えるという点も中望遠レンズでのスナップ醍醐味です。レンズ自体の小ささもあり、街中での取り回しもよく、気軽に撮影できるのも大きなメリットです。
歩道から視線を送っていたら手を振ってくれました。すかさずシャッターを切ります。自分の立ち位置より数メートル先にある被写体を捉えるのにふさわしいレンズです。
軽やかで優しい表現のポートレート
コンパクトなサイズで威圧感もなく、中望遠レンズとなる焦点距離や、開放F1.8 の明るさとボケ表現からも、間違いなくポートレート撮影に有利なレンズとなるsmc PENTAX-DA 50mmF1.8。同等の焦点距離を数多くラインナップしているペンタックスのレンズ群の中で、解像感を求めるのであれば、HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWという選択肢もあると思います。
しかし、私がsmc PENTAX-DA 50mmF1.8を一番評価しているのは、他のレンズでは味わえない透明感あるフレッシュな描写と、軽やかで優しい表現が可能である点です。
瞳の中にまでしっかりと合焦し、カメラマンである私自身がハッキリと写り込みました。あごのラインにはソフトフォーカスをかけたような柔らかいボケが感じられ、細い髪の一本、一本まで繊細な描写をしながらも、肌のトーンにはしっとりとした雰囲気が感じられます。
ポートレートに不可欠な要素である、顔に立体感を与えてくれるハイライトを引き出しながら白とびせず、メリハリの効いた艶を感じる仕上がりでとても好印象です。
前回の記事でもお伝えしましたが、カスタムイメージは様々なシーンに合わせて変更しています。
今回は、淡く優しい表現にふさわしいカスタムイメージをセレクト。ポートレートでは、カスタムイメージ「人物」に限定するのではなく、モデルさんの雰囲気やファッションのテイスト、髪・瞳の色、メイク、そして光の状態に合わせて選びます。
髪の毛のツヤ、コントラストの違い、肌色の赤味の差し方など、カスタムイメージごとに変化しますので、カメラ内RAW現像で仕上がりを比べることで好みの色を探ってみるのがおすすめです。
中望遠レンズらしく被写体が際立つ背景ボケと、圧縮効果で人物が一層引き立ちます。
おわりに
正直に言って、使用当時から個人的にかなり推しのレンズです。1万円台でここまで描写する満足度の高いレンズはなかなかないと感じています。キットレンズを卒業し、単焦点スナップやポートレートに挑戦してみたいという方なら持つべき1本でしょう。高価な★(スター)レンズを購入しようか迷う前に、まず体験してもらいたいレンズです。
■モデル:もくれん @m_ok_u_ren
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。