遊び心を刺激する全天候型コンパクトデジカメ PENTAX WG-1000
はじめに
リコーイメージングから発売されるペンタックスブランドのフィルムカメラが注目の的ですが、コンパクトデジタルカメラの新製品も久しぶりに追加されています。コンパクト機のカテゴリーは、いわゆる高級タイプ以外の機種はほとんどがスマホカメラ高性能化の波にのまれて姿を消してしまいました。今回紹介するのは低価格でありながら、水辺でのアウトドアレジャーシーンにも活躍が期待できる全天候型タフネス仕様のペンタックスWG-1000です。
脈々と受け継がれてきた全天候型コンパクトの系譜
ペンタックスのコンパクトカメラと聞けばオプティオという製品名が頭に浮かぶ人も多いでしょう。残念ながらその名を冠した現行機種はなく、コンパクトクラスでは水中撮影も可能な防水仕様と耐衝撃性能、防塵、耐寒性能を併せ持つ全天候型タフネスモデルのWGシリーズが主軸となっています。
このWGシリーズも歴史を遡ると、カメラ本体のみで世界初(2005年3月当時)の簡易的な水中撮影(水深1.5メートルで約30分)を実現したコンパクトデジカメOptio WPから始まるペンタックス製防水カメラの流れを汲んでいます。
Optio WPシリーズは機種更新のたびに撮影機能とともに耐圧防水性能や耐衝撃性も高め、2011年には外装デザインも新たにヘビーデューティなタフネスデジタルカメラOptio WGシリーズとして本格的な水中撮影も可能なカメラへ進化しました。
2013年には機種名の冠をOptioからPENTAXへ、さらに2014年からは現在のRICOH WGシリーズへと変更。過酷な環境下での撮影を可能とする全天候型コンパクトデジタルカメラとして確固たる地位を築き現在に至ります。
WGシリーズは現行機種7種を数える豊富なラインナップで、WG-1000はその中では最も下位のエントリー機種です。撮影機能や耐圧防水の仕様を上位機種と比較するとやや控えめな印象ではありますが、近年では稀に見る手軽な価格を実現している点でも気になっているペンタックスファンは多いことでしょう。
概要・仕様
1/2.3型裏面照射型CMOSセンサー搭載で有効画素1635万。撮影レンズは35ミリカメラ換算で約27-108ミリ相当の光学4倍ズームに加え6倍のデジタルズームも可能です。シリーズの下位モデルとはいえ、水深15メートルで約1時間の撮影が可能(JIS保護等級8級(IPX8)準拠)。高さ2メートルからの落下にも耐える強固なボディは次亜塩素酸ナトリウム&エタノール、二酸化塩素水での消毒役にも対応しています。少々特殊な用途ですが、常に清潔に保たなければいけない環境での記録撮影にも使用可能です。
機能が絞られたシンプルな機能と操作系にこれほどのタフネスボディならば、水辺などでのレジャーシーンにはもちろん、カメラの扱いに慣れていない子どもにも気兼ねなく使ってもらえるのでファミリーユーザー層にもオススメと言えるでしょう。
PENTAXレンズ | 7群7枚 |
焦点距離 | 4.9~19.6mm |
35ミリ判換算値 | 約27~108mm |
開放絞り | F3.0(W)~F6.6(T) |
シャッタースピード | 1/2000~4秒 (手動30秒) |
手ブレ補正 | 静止画 電子式手ブレ軽減 |
AF方式 | シングル/マルチ(25ポイント) |
撮影距離範囲 | 標準:0.6m~∞ (WIDE) 1m~∞(TELE) マクロ:0.05m~∞(WIDE端のみ) ※花火モード時は無限遠固定 |
外形・寸法 | 約116(幅)×68.5(高)×50.5(厚)mm |
質量 | 約220g(電池、SDメモリーカード含む) |
一見するとヘビーデューティな外装デザインに感じられますが、タフネス性能以外のスペックは普段使いもしやすいベーシックなコンパクトデジカメなのです。質量は220グラムと軽量。レンズ部とその真上に設置された内蔵フラッシュ部の出っ張りが上位機種とは異なり、WGシリーズの末っ子ながらも個性を主張しているようで、カッコいいデザインがガジェット好きの物欲を刺激します。
ボディカラーは今回試用したオリーブの他に「グレー」のカラーバリエーションが用意されています。上位機種のような派手さがないぶんシックで落ち着いた印象とも言えます。ボディ両側に大きな吊環があり、付属のカラビナストラップのほか両釣りのストラップで首から提げるなど、見せながらの携行スタイルも楽しめます。
撮影モードはストロボ発光も含めて全てカメラ任せのAUTO 、撮影環境に合わせて最適な露出を自動で設定されるプログラム 、2段階の絞りと最長30秒から高速1/2000秒までのシャッター速度を任意設定できるマニュアル 、フルHD 動画録画モードなどの7種類。
これに加えて被写体や撮りたいシーンに合わせて選択可能な18種類のシーンモード(ポートレート、風景、スポーツ、ビーチ、夕日、花火、夜景、スノー、キッズ、パノラマモード、ガラス越し、手ブレ補正、流し撮り、夜景ポートレート、パーティー、室内、植物、博物館)が用意されています。
写真の青カブリを補正する水中撮影モードは、シーンモードからは独立しているので頻繁に利用するユーザーには設定操作が簡単に行える点が便利です。
それでは実際にWG-1000で撮影した作例を見てみましょう。
蛍撮影にチャレンジ
マニュアルモードの撮影では、最長30秒の長時間露光まで設定できるので蛍の撮影に挑戦してみました。しかし実際にやってみるといくつかの問題に直面しました。
一つ目はピントを無限遠や任意位置に固定ができません。AF補助光はオフにもできますが、場合によっては大ボケするピント位置で露光してしまう可能性があります。
二つ目は、バッテリー消費を防ぐために電源を切るとシャッター速度30秒にしておいた設定がリセットされ、電源を入れるたびに設定し直す必要があり煩わしいこと。モバイルバッテリーからUSB給電を行えば電源を入れた状態を継続できますが、そのためにはバッテリー/メモリーカードスロット室の蓋を開放しておかねばならず、水が近い環境で防水性能が約に立たちません。
これらは、蛍以外の夜間撮影でも同じことが言えそうです。因みに花火の撮影ならばシーンモードにある「花火」を利用するのが良いでしょう。もしかすると、蛍撮影でもシーンモード「花火」が対応できたのかもしれませんが、今回は試す余裕がありませんでした。
現場で唯一良かったと感じたのは液晶モニターの輝度を抑える設定が可能なことです。
ここまでの作例写真ではカメラの色彩設定を全てデフォルトの「標準」で撮影しています。
この色彩設定には標準の他に19種類が用意されていて、シーンや撮影者の気分で自由に選び適用することでテイストの異なる写真に仕上げを楽しめるのです。19種類の中には単純に色調を変更するだけのものから、画像一部または全体のボカシ加工、周辺減光、魚眼レンズを模した歪曲効果や画面グリッドなどエフェクトフィルター機能に近い性質のものもあります。同一の被写体で全ての色彩の違いを比較できるよう撮影してみました。
気になる色彩は見つかりましたか?中にはネーミングの意味がよくわからないものもありますが、お遊びの機能なのであまり深く考える必要はないでしょう。
「反射」は水たまりに被写体が反転して映り込むリフレクション撮影に似ていますね。雨上がりの東京駅前広場にしゃがみ込んで撮影するのが流行ったアレです。因みにこの比較作例では筆者は立ったままの姿勢で撮影しています。
この色彩設定機能の何気に面白いところは撮影時の適用だけでなく、再生画面のメニュー操作で19種類の色彩を適用して新規画像ファイルとしてメモリーカードに記録可能なこと。また、例えば「日本スタイル」の画像に「フィッシュアイ」を適用するなど異なる色彩の重ねがけもできるのです。ただし、適用を繰り返すと画質は劣化していくため、過度の適用は避けたほうが賢明です。
まとめ
上位機種の高性能・多機能なスペックから必要かつ最低限に絞ったベーシックモデルということになりますが、記事の後半で紹介した様々な「色彩」など遊べる部分も多い全天候型デジカメです。何よりも魅力的なのはその価格でしょう。いまどき3万円代で買えるコンパクト機種がカメラメーカーから発売されることを想像していた人は多くないはずです。
あらゆる環境に対応できるタフネスカメラという特性もあり、この価格なら一台くらい持っておいても良いだろうと感じている人の背中はドーンと押しますよ。「ファーストカメラが欲しいけどお父さんのお古はイヤ!」なんて生意気をいう子どもにはWG-1000を与えて黙らせましょう(笑)。なんにせよ目前にせまる夏のレジャーシーンで楽しい想い出をたくさん残してください。
ただ一つ、「買った後で知った!」と後悔することがないようお伝えしなければならないことがあります。WG-1000にはwi-fiやbluetoothを利用する通信機能は非搭載です。つまり、撮影後すぐにSNS等でシェアしたい用途には向きません。もちろん無線LAN搭載のSDカードがあれば撮影画像をスマホで確認したりダウンロードすることは可能です。
だからと言って、新たに無線LAN内臓カードを購入するくらいなら、その予算を足して素直にシリーズの上位機種を購入したほうが間違いなくシアワセになれるでしょう。
逆に、筆者のように引き出しの中で眠っている無線LAN搭載SDカードの存在を思いだしてしまった人は有効利用を考えてみても良いのかもしれません。
■写真家:宇佐見健
1966年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。専門誌出版社、広告代理店を経て独立。撮影ジャンルは360度全天球、水中、旅、風景、オーロラ、ポートレート、モータースポーツ、航空機、野鳥etcと多岐に渡る。カメラ誌等では新製品機材の実写インプレッションやHOW to関連、カメラメーカー工場取材取材など多方面の記事を執筆中。