シグマ 14mm F1.4 DG DN Art レビュー|究極の星景写真用レンズを星空写真家が5ヶ月間使用した感想
はじめに
2023年6月、シグマから究極の星景写真用レンズとも言えるレンズが発売されました。その名もSIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art。フルサイズミラーレス用の超広角レンズであり、対応マウントはソニーEマウントとライカLマウント。14mmの画角で開放f1.4は世界初※のオンリーワンレンズです。
※魚眼レンズを除く、ミラーレスカメラ用・一眼レフカメラ用交換レンズとして(2023年6月SIGMA調べ)
「14mmくらいでf1.4のレンズ、どっかのメーカーで発売してくれないかねぇ」そんなことを聞かれることはよくありました。私自身その考えに賛同しつつも「簡単に言うよなぁ。作る方の身にもなりなさいよ。そんなの作るの大変じゃん・・・何よりそれめっちゃでかいし値段も高いよ」と心の中で思っていました。というのも、それはあまりも星に特化して使用する人を絞ったもので、利益を得なければいけない企業の観点としては合理的ではないスペックだと感じたからです。実際これは今でも正しい考えであると思っています。
だからこそ、発売前にシグマさんからこのレンズのことを聞いた時は心の底から驚きました。スペック聞いただけでおおよその外観はわかってしまいますし、そんなレンズ出して大丈夫?とシグマさんのことを心配するくらいでした(笑)
ところが実際に撮影させてもらうと・・・心の底から喜んでいる私がいました。ダントツで素晴らしい描写性能。違う機材で良い写真が撮れても「このレンズでも一枚残しておきたい」とわざわざつけかえて撮影するほどです。また描写性能に加えて、これまでの星景撮影ではなかった、f1.4が生み出す設定の選択肢の広がりにも大きなメリットを感じました。ISO感度を下げるか、シャッタースピードを極端に短くするか?ということを考えるようになったのです。私はこのレンズを発売前から使用させていただき、YouTubeチャンネルに先行レビュー動画を公開させていただきました。これまでもこのレンズについてレビューや講演をする機会はありましたが、使用して約5ヶ月が経過した今回のこの記事が作例や経験値が最も豊富に反映されているものであると思います。みなさまにもこのレンズの素晴らしさが伝わると嬉しいです。
描写性能はいかに
コマ収差や色収差がどれだけ少ないかを検証してみましょう。まずは周辺の写りから。
カメラが高画素であることも影響していますが、驚くほど星が小さいです。めちゃめちゃうっとりする描写です。
画像の右上を100%拡大表示すると・・・
100%表示であれば、皆無と言っていいほど収差を感じません。もちろん、撮影条件やレンズを向ける方角よって日周運動の影響がでたり、撮影環境、機材の強度・たわみなどによっても周辺像が悪化したりすることがありますが、レンズ性能自体には描写を悪化させる要因がないと思います。このレンズは無限遠で性能が発揮されるように調整してあるということで、近くの被写体を撮影することは推奨しないといったメーカーからの情報発信があるほど、星空を撮影することに特化しているようです。恐ろしいです。
この性能が当たり前のものになってしまうと、今後のレンズ開発が大変です。くれぐれも、このレンズが特殊であることを覚えておいてくださいね!
作例
それでは実際の作例を見ていただこうと思います。星空保護区に認定されている東京都・神津島村で撮影をしてきました。
まずはシンプルに。
画像処理前、元データとの比較も掲載します。f1.4で撮影できることの恩恵は適正露出を得やすくなることです。f2.8での撮影を基準に考えると、1/4の露出で済みます。つまりシャッタースピードを短くして、赤道儀を使わずに星をバチバチの点で撮影するのか、ISO感度を下げて低ノイズ・ダイナミックレンジを確保するのか、という選択肢が生まれるのです。星景写真はとにかく適正露出を得ることが大前提でしたので設定に自由度はありませんでした。この選択肢は革命的と言っても良いでしょう。
f1.4のレンズならなんでも良いのではなく、f1.4で星景写真に適した画質が得られるレンズでないといけないことを忘れずに。また、f1.4だとf2.8と比べて2段分センサーに届く光が増えますので、単純に光をたっぷりと取り込める分ノイズレスになるという点も付け加えておきます。
次にSIGMA 14mm F1.4 DG DN | Artならではの、ちょっと面白い写真をご紹介します。
びっくりですよね。シャッタースピードはなんと2秒です!嘘だと思われるので元データも掲載します。2秒で撮影したことには理由があります。この灯台、6秒周期で光が回転していたのですが、5秒で露出をすると灯台から出る光の束が不明瞭な感じなるのが気になりました。色々試したところ2秒での撮影がベストで、少しアンダーめですが画像処理でなんとかできるレベルのデータが撮影できました。
こんな設定で撮影したこと、あります?(笑) 通常だと撮影を諦めるレベルですが、SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Artのおかげで形にすることができました!
ハマユリにピントを合わせて、星をぼかして撮影。意外に口径食も少ないことがわかります。夜景のイルミネーションなどにも使えるかも? 撮影データを見て「おや?」と感じた方もいらっしゃるでしょう。これはメーカー非推奨ですが、Megadap(メガダプ)というメーカーから発売されているマウントアダプター「ETZ21」を使用すると、ソニーEマウントのレンズをニコンZマウントボディで使用することができます。ボディ内の補正機能なども問題なく使用できるようで、私が試したところ画質への影響はなく、画面周辺のレンズ性能も落ちないことがわかっています。ナイス!ニコンZユーザーには朗報ですね!
周辺像のよくないレンズは、スタック処理(複数枚の写真を一枚に合成しノイズを平均化して目立たなくさせる方法。ソニーでいうところのマルチショットノイズリダクションのような処理方法)との相性が悪いですが、このレンズは全く問題ありません。ほれぼれする画質、星の小ささ、美しさです。 手前の風景部分を画像処理で明るく補正しやすくするために、少しオーバーめに露出をしました。撮影した写真を見て思うのは「気持ちいい」の一言です。隅々までつぶつぶの描写。そして撮影の快適さ。星景タイムラプスでの恩恵
通常は露出に20秒かけるところを5秒で済ませることが可能なため、タイムラプス撮影の撮影時間が1/4で済みます。例えば30fpsで10秒のタイムラプス動画を作るために300枚の写真素材を撮影すると仮定すると、露出20秒では2時間ほどかかるのが、露出5秒なら30分で終わるということになります。これは星景タイムラプスを撮影する人にとっては革命的です。
また、短い露出時間で演出するタイムラプスはとてもゆったりとした表現が可能となり、より作品の幅が広がります。通り過ぎる飛行機や人工衛星の動きもゆっくりになるため、不思議と不快感を感じないことも特筆すべき特徴です。
ゴースト特性
このレンズまでいかずとも、近い性能を実現しているレンズはいくつかあります。しかし、描写性能以外にその差を感じるのは逆光撮影時です。シグマ内にはゴーストバスターズという専門チームが存在するそうですが、このSIGMA 14mm F1.4 DG DN | Artも逆光耐性は非常に高くゴーストにも強いです(もちろんゼロではありません)。通常この手の出目金レンズはレンズフードが浅いこともありゴーストが発生しやすいのですが、そういった固定観念はこのレンズには通じないようです。
まとめ
みなさんがこれまで撮影した星景写真と、今回の作例をぜひ見比べてください。その際に「星の小ささ」にぜひ着目してみて欲しいです。使用しているカメラが高画素というのもありますが、私は過去作例と比較したときにあまりにも星のシャープさが違うので愕然としました。
レンズ描写がシャープになった分、ピント合わせもシビアになり、撮影者の技術も問われるレンズだと思います。ですが、私がどハマりしたこのレンズの魅力が1人でも多くの人に伝わると嬉しいです。歴史に残るであろうレンズに発売前から関われたことを幸運に思います。今後もシグマの商品開発から目が離せませんね!
このレンズのレビューは私のYouTubeチャンネルでも公開しています。この動画の中で私は言葉を失っていますが、実は最初、違うところを見ているのかなと思いました。周辺部というにはあまりにも鋭い描写だったためです。それが本当に周辺部だったことに気づき、無言だったためカメラを止めようかと一度考えましたが、そのまま収録しました。結局いい言葉が出てこなかったわけですが・・・あとで見返した時に、これはこれで面白いかもしれないと感じ、そのまま動画を使わせていただきました。こちらもぜひチェックしてみてください。
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員