シグマ 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporaryで撮る旅の記録
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動画と相性の良い広角ズーム
SIGMAから待望のレンズが発売された。16-28mm F2.8 DG DN | Contemporaryである。以前レビューを行った人気のレンズ、28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryの広角側に位置する焦点距離のレンズである。このレンズの登場で、SIGMA ContemporaryラインのF2.8ズームは、16mm~70mmまでをカバーしたことになる。
このレンズの気に入ったポイントを説明すると、まずはサイズ感。パッと見の印象はF4通しのズームだと言った方が、しっくりくるほどコンパクトだ。それでいてとても軽く、重量はたったの450gしかない。この軽量コンパクトさは、アウトドアや、移動の多い撮影でとても助かる。
ズーム方式がこのレンズでは変更され、インナーズームとなったことで全長が変化しない。その恩恵は広角ズームの使用頻度が多いジンバル搭載時に、焦点距離を変えても重心の変化が殆どなく、バランスを再調整する手間から解放されることになる。
今回はいつものSIGMA fpと、同じLマウントを採用するPanasonic LUMIX S5を使って、動画と写真を思う存分撮影してきたので、まずは映像での描写力や気になる写りを、見ていただければと思う。
旅の記録を広角で残す
今回は、熊本県で最も大きなイチョウの木と呼ばれる、下城の大イチョウがある阿蘇郡南小国町へ向け車を走らせた。樹齢1000年以上といわれるこの大木を、16-28mm F2.8で撮ってみようと思ったからだ。
まず目的地について車を降りた途端、目前に立派な滝が見えた。予定していなかったが、急遽撮影場所にこの滝を加えた。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
遠くに見える滝を、28mmで少し引き寄せて撮った。28mmはこの「少しだけ寄りたい」という場合に、とても便利だと感じる。
インナーフォーカスを採用したことによって、ズームリングが滑らかになったように感じる。フォーカスやズームリングの操作感は、頻繁に操作する部分だけにとても大切だ。SIGMAはこの操作感が、とても上質で使っていて心地よい。
滝の水音を背に、大イチョウの方へ向かう。途中何気ない道端の法面、生い茂る野花に木漏れ日が当たる様子が美しい。苔のついた古い石垣はいつ頃つくられたのだろうか。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
緻密なディティールの描写は、SIGMAらしいキレのある写りで、拡大してみると細かい部分までしっかりと解像している。
開放F2.8で近づいて撮ると、合焦部分はシャープでありながら、ボケの部分はとても滑らかで画に透明感がある。太陽を上部に入れた構図はゴーストが発生しやすいが、このレンズは逆光にも強いことがわかる。演出的にフレアやゴーストをいれたいと思っても、なかなか出ないほどレンズコーティングの性能が高い。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
駐車場から少し回り込むと、下城の大イチョウへの階段があった。超広角16mmで撮影すると、両側の道まで写し込むことができた。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
超広角の画角はとても広い。超広角ズームでは17mmスタートのレンズも多いが、このレンズは16mmである。この1ミリの差は超広角域で、大きな違いを感じる。
石の階段を登って見上げると、巨大なイチョウの大木があった。広く伸びた太い枝の一本ずつが、街路樹のような大きさで圧倒される。この辺り一体が木陰で涼しいのは、この一本のイチョウの木によるものだということに驚いた。あまりの大きさに全体を収めることができなかったが、とてもダイナミックに表現することができた。画質は端までしっかりと解像している。このレンズの性能の高さが感じ取れた。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
次は28mmの開放F2.8で撮影した。前ボケも綺麗でとても自然だ。解像感のある描写と相まって、遠近感を強調した撮影でも表現力がある。
大きな幹から伸びる長い枝の隙間に、レンズを差し込んで撮影した。顔や肩に当たるひんやりとした葉が心地よい。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
縦位置でも一枚。木に近いところにしか足場がなく、引きじりがない場所でも、広い範囲を画に収めることができた。このレンズはコンパクトで軽いので、気軽に手持ちで撮影できる。旅先で気軽に使える開放F2.8通しの、超広角レンズは数少ない。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
木の周りを一周し、木陰の歩道を歩く。元いた場所へともどる。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
細い道の横に建つ木造の小屋。屋根も壁も漆黒に塗られ、うっすらと見える下見板張りの壁面がシックな印象。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
木陰の道をそのまま進むと、正面には何やら昭和のレトロな壁面看板が見えた。木造の趣ある建物、玉切りした丸太や手作りの椅子たち、飾らない雰囲気の良さが素敵だ。
屋根の水平なラインも歪みなく描写している。手持ちでの撮影で、完璧な水平が出てる訳ではないにも関わらず、レンズの歪みは感じない。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
少し近づき28mmで撮影、高倍率ではなくても、少し歩けばこれぐらいの変化を出すのは難しくない。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
建物に向かって左にしばし歩くと、川へとつながる通路があったので、下ってみることにした。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
手前の紅葉の葉は綺麗にボケている。広角ズームといえど開放F2.8である。積極的にボケを活かした撮影も、イメージしやすく使いやすい。
川の水は冷たく澄んでいる。川下へ向かって歩くと、さらに奥まで歩けることに驚く。水の音が轟音に変わってきたが、見た目には穏やかに見えるのが不思議だった。川向に遊歩道が見えたので、手前に見えた橋を渡り、行ってみることにした。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
水たまりを避けながら来た道を戻り、あの橋を渡る。16mmの広い画角は、記録写真としても使い勝手がよい。その場の情報を、一枚の写真に広く収めることで、後に見返した時も情景が細かく思い出せる。アート的な写真もよいが、飾らない記録写真を見る時間も楽しいものだ。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
橋の上から先ほどいた場所をよく見ると、どうやら滝の上だったようだ。自分が思うより危険な場所だったようで、少し怖くなったが、大きな水の音は滝の音だったのかと納得した。これから写真左手の遊歩道へ向かう事に。あちら側から滝を正面に見ることができるかもしれない。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
遊歩道の木のアーチをくぐり、滝を覗ける場所にたどり着いた。崖の淵に、熟れたナワシログミの実が見える。子供の頃食べた甘酸っぱい味を思い出す。危険な場所に美味しそうな果実が実っているのは、生存するための知恵だろうか。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
滝を横目に見ながら歩き続けると、ぽつんとベンチがあった。少し疲れたので休憩することにする。
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
ベンチに座り左側を見ると、深い谷にかかる吊り橋が見えた。この位置にベンチが置いてある意図が理解できた。とてもよい眺め、人が通る姿が見えるとさらに楽しいだろう。
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
吊り橋の方へ向かうと、目前の木々が開けた場所で、滝の正面が見えた。見事な景色、思わず時間を忘れて眺める。右の滝から流れる水が、左の谷へ流れ込む。吊り橋の方には、まだ滝があるのだろうか。谷に勢いよく水が流れ込んでいるのがわかる。
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■撮影環境:1/60 f5 ISO640
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
吊り橋にたどり着いた。近くに来てみると更に迫力がある。アングルは少し違うが、同じ場所を28mmと16mmで撮り比べてみる。見え方がかなり違うので、このレンズだけでも、色々な表現を楽しむことができる。28mmの適度に広い画角を活かして撮影したり、超広角でパースペクティブを活かしたりと、シーン毎に楽しめるレンズだ。
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
吊り橋の中心でロープの隙間から川の流れを撮る。こういった安定しない場所や高所での撮影では、落下のリスクを考えてストラップを付けて撮影するので、体の負担を考えるとコンパクトなレンズの存在はとてもありがたい。
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
吊り橋の中心から縦位置で撮影。このレンズの広い画角は、川の流れの延長線上に陽の光が差す様子も、一枚で写すことができた。
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
同じ位置から横位置で撮影。谷の両側から伸びる木々の様子や、岩肌に映る木のシルエットがアクセントになった。画面周辺の画質が素晴らしいことがわかる。
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■撮影環境:1/60 f4 ISO640
吊り橋を渡って奥の森へ。このまま進んでどこへ行くのだろうか。帰り道の距離を心配しながらも、もう少し歩いてみることにした。標準域で撮るような構図も、28mmで違和感なく撮影できた。ボケを使った撮影も森の中では案外、広角で見せたほうがよいと感じた。このレンズだけで散策や山歩きも十分こなすだろう。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
少し心配しながらも森の中を歩き続けると、木々の隙間から見覚えのある光景が見えた。小さな偶然が無性に嬉しい。お腹がすいたので車に戻ってご飯を作ろう。次はどこへ行こうかと考えながら川岸を歩いた。
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■撮影環境:1/60 f2.8 ISO640
さいごに
丸一日、動画と写真でこのレンズを堪能した。まず使って感じるコンパクトさと軽さは、SIGMAのContemporaryシリーズのイメージ通りである。レンズの質感も高く、何より各リングのスムーズな動きがよい。
昨年発売された28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryの広角側をカバーするレンズ、2本で16~70mmまでの焦点距離をF2.8でカバーするシステムは、fpでもLUMIX S5でも驚くほどコンパクトで軽い。それでいて画質にも妥協がない高いクオリティーなのだから驚きだ。8年ほど使っていたカメラバッグは、スペースが余りすぎて不釣り合いになった。それほどレンズとカメラが、洗練された証だろう。
Lマウントに新しい常識を定義するかのようなこのシリーズの今後に、期待が膨らむ。このレンズは気軽に持ち歩ける「明るく軽い超広角ズームレンズ」このレンズを持って行かないと不安になるような必携レンズだと思う。
■フォトグラファー/ ビデオグラファー:坂口正臣
雑誌の撮影を経て広告写真・建築写真・映像撮影など福岡を拠点に幅広く活動中。坂口写真事務所(SPO)を運営。
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