シグマ 20mm F2 DG DN | Contemporaryで撮る3500旒の鯉のぼり
超広角で記録する旅の記録
SIGMAから発売された「Iシリーズ」の新しい仲間20mm F2 DG DN | Contemporaryが2022年2月25日に発売された。小型軽量であり携帯しやすく気軽に持ち出せるレンズでありながら非常に高品位な質感、その高級感に相応しい滑らかな操作感、あらゆる点でユーザーの所有欲を満たしてくれる。
「Iシリーズ」7本目のラインナップとなるこのレンズはシリーズで最も広い20mmという画角であり超広角レンズとなる。 開放F2の明るさでありながら見事に小さな筐体に収まっている。毎度このシリーズには驚かされるのだが、このレンズも同様だ。
サイズだけではなく光学性能も妥協のない仕様となっている。オーセンティックなルックスからどことなくクラシカルな印象を受けるが、レンズの構成は最新の工学設計を基盤に、高精度グラスモールド非球面レンズを3枚、SLDガラス1枚、FLDガラス1枚を採用することで、全体にシャープで抜けの良い写りを実現しているという。
描写力の高いこの超広角レンズを使って今回の旅の記録を撮影することにした。
杖立温泉を20mmで切り取る
今回の旅は熊本県阿蘇郡小国町にある「杖立温泉」へ訪れた。弘法大師空海がこの地を訪れた際に読んだ一句「湯に入りて病治ればすがりてし杖立置いて帰る諸人」が地名の由来とされ、1800年前から湯治場として知られ親しまれてきた。ここは18年ほど前から頻繁に通う個人的にお気に入りの場所だ。
春には、3500旒の鯉のぼりが杖立川を泳ぐように飾られる有名な場所でもある。この日は鯉のぼりをあげる日で、地元の方々や学生さん達がこの見事なアートを仕上げる様子も撮影できた。
2020年7月、激しい豪雨の影響でこの街の中心を流れる杖立川が氾濫し、歴史ある旅館や商店や家屋が大きな被害を受けた。写真中央の敷地には元々風情のある建物があった。水嵩がこんなにも高いところまで上がったことや、土砂や瓦礫に覆われていた当時の状況を思うと心が痛い。今は整備が進み少しずつ修復されている。苦難にも負けず、この地へ少しでも多くの人々が足を運んでくれるように、懸命に鯉のぼりを飾る様子が感動的だった。
目前に広がる多くの情報を、ワンショットの中に詰め込める画角の広さがこのレンズの良いところ。大切な瞬間を、その周りの情景ごと一枚の写真に収める。周辺まで極めてクリアで解像感が高い。曇り空でコントラスト出ないにも関わらず、細部まで緻密に描写している。
杖立川の上流に架かる「もみじ橋」には、たくさんの絵馬ならぬ「絵鯉」が願いの数だけ掛けられている。解放F2なので超広角でも背景を綺麗にぼかすことができる。超広角でこのような表現ができるのは意外だった。22cmまで寄って撮影できることの恩恵でもある。
街の所々にある路地に入ると、細い坂道が続く。「背戸屋」と呼ばれ、古くから増改築を繰り返して出来上がった。とても風情のある通りである。この背戸屋を散策する時にも、94.5度の広い画角がとてもフィットする。坂の下から手前で折り返し、さらにその先へと続く様子を、1枚の写真に収めることができた。絞り解放からとてもシャープな描写をするレンズだが、少し絞って撮るとさらに解像感が増す。
勾配のついた細く長く続く複雑に入り組んだ細道を、建物の隙間から照らす曇り空の柔らかい光。どこからともなく微かに聞こえるJazzが昭和の時代にタイムスリップしたかのように錯覚する。
背戸屋を抜けた先にある杖立薬師堂。椿と七分咲きの桜が、ほんの少し肌寒い心地の良い温度まで伝えてくれる。
苔むした石灯籠の屋根、何年前のものだろうか。手で削り出したような造形が時代を感じさせる。職人の手仕事を感じるものは、時代を経てもなお人を惹きつける魅力がある。Iシリーズのレンズにもその「手しごと」を感じさせる魅力がある。何年も何十年先も魅力を感じさせてくれると思える製品は、昨今の撮影機材においてあまり多くない。
路地を抜けて通りへ出ると、雰囲気のある商店が数件あった。長年ここで散髪をしてきたであろう理髪店の前を通り、高台へと向かってみる。
街灯と背を比べる高さの若い桜の木が、元気に花を咲かせている姿が見えて嬉しくなる。道沿いの石の囲いの隙間から覗く。手前ボケの表現も自然で美しい。
さらに先へ進むと桜の隙間に鯉のぼりが見えた。もう準備を終えたのだろうか、小走りで川へと急ぐ。
川へ辿り着くと、そこには数えきれない数の鯉のぼりが元気に泳いでいた。しばし見惚れる。この景色を見ながら、川沿いに停めた車までもどる。トランクに積んだ椅子を取り出し、ポットに淹れたコーヒーを準備して、鯉のぼりを眺めながらチェアリングを楽しむことにした。
しっかりと絞って撮影すると、奥の鯉のぼりまでしっかりと描写している。曇りの夕方の雰囲気を見事に映し出していた。
さいごに
丸一日このレンズを、写真と動画に使用してみた。「20mmという超広角だけで映像を撮りきるのは難しいのではないか?」と思いながら使ってみたが、意外なことに何も困ることなく、楽しく撮影することができた。広い画角とパースペクティブを生かしたダイナミックな表現はもちろん、しっかりと寄って被写体を引き立たせることもできる。絞り解放でのボケは素直で、画の乱れや過剰さはない。とても使いやすいレンズで、このレンズ一本だけで、旅の思い出を記録する、と言った使い方にも適していると思った。
優れた描写力で、その場の空気感まで持って帰れるような感じがする。それこそが最高の旅のお土産なのかもしれない。
■フォトグラファー/ ビデオグラファー:坂口正臣
雑誌の撮影を経て広告写真・建築写真・映像撮影など福岡を拠点に幅広く活動中。坂口写真事務所(SPO)を運営。
「20mm F2 DG DN | Contemporary」はこちらの記事でも紹介中
【三井公一】シグマ7本目のIシリーズはオールマイティーで楽しい!
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485736253/