標準と広角のあいだにある心地よさ|シグマ 23mm F1.4 DC DN Contemporary(RFマウント)

はじめに
昨年キヤノンRFマウントユーザーを驚かせたのが、シグマとタムロンがそれぞれ同マウントの交換レンズを発売したことだ。これまでもカメラと電子的に連動していないRFマウントの交換レンズは存在したが、AFで絞りも連動する他社製レンズは存在していなかった。登場しているのは現時点でAPS-Cフォーマット専用のレンズのみだが、純正レンズにはない“APS-Cフォーマット専用の明るいズームレンズや単焦点レンズ”を両社がカバーする格好になっている。ユーザーにはフルサイズ対応も待ち遠しいだろうが、レンズが拡充することでEOS R7やEOS R10といったカメラに光が当たるようにも思う。
とりわけレンズの投入に意欲的なのがシグマで、ミラーレス向けのAPS-Cフォーマット専用レンズはこれまで単焦点レンズ4本・ズームレンズ2本をラインナップしていた。16mm F1.4 DC DN | Contemporaryとともに、今回取り上げる23mm F1.4 DC DN | Contemporary(以下本レンズ)を発売することで、計6本すべてをキヤノンRFマウント化したことになる。単焦点4本、あるいはズーム2本で広角から中望遠まで明るいF値でカバーできるのは大きな魅力だ。
換算36.8mmという絶妙な焦点距離

■撮影環境:1/80sec F1.8 -2/3補正 ISO160 WBオート
今回実写に使用したEOS R50はいわゆる“ママカメラ”で、実際妻のために購入したもの。操作性も描写も十分なので僕のプライベートカメラになっているのだが、ボケ味を求めると高価なフルサイズ対応のレンズを買うしかなかったのが唯一の不満だった。それが本レンズを含むシグマのDC DN単焦点レンズ4本が登場したことで、本気で使えるカメラになった印象だ。

■撮影環境:1/640sec F2 +2/3補正 ISO100 WBオート
本レンズはキヤノンRFマウントにおける画角がフルサイズ換算で36.8mm相当。既発売の30mm F1.4 DC DN | Contemporary(フルサイズ換算で48mm相当)と焦点距離が近くて迷うところだが、“標準と広角のあいだ”といったスペックで、単焦点4本の中ではもっとも常用レンズにしやすいと思う。
そういえば60~80年代のコンパクトカメラは38mmレンズを搭載したものが多く、僕が子供の頃、我が家にあったキヤノンオートボーイもレンズは38mm F2.8だった。あれは画角を考慮したというより設計上の都合なのだろうが、EOS R50に本レンズを装着してあれこれ撮影していると、まさにあの頃のファミリーカメラを連想させる。画角は程々に広く、かといって遠近感がとりわけ誇張されることもない。街角から室内まで、あらゆる場面でスナップを撮るのにちょうどいいのだ。
高いビルドクオリティと描写力
外装はアルミとプラスチックだが、このプラスチックはTSC(Thermally Stable Composite)というアルミに近い熱収縮率を持つシグマ独自の素材。剛性感や高級感があり、同社のArtラインのレンズにも用いられているものだ。

レンズ前面には墨入れでレンズ名と「MADE IN JAPAN」の文字が。純正のキットレンズも同じような処理をしているが、あちらは彫り込み。これはフィルターへの反射による写り込みを防ぐためだが、角度によって消えたり浮かんだりする。

付属の花型フードは厚みがあり、鏡筒への装着感もしっかりとしている。手に伝わる感触にもこだわっているのがよくわかる。

キヤノンに限らず、エントリーモデル向けレンズのマウントはプラスチック製が珍しくないが、シグマはすべてのレンズが真鍮製。小さくて手頃な価格ながら、手にしたときの満足感は高い。

描写もまさに最新の大口径単焦点レンズ。絞りを開けて被写体に近寄れば、背景から浮かび上がるような立体感が得られる。ただしボケはとろけるような感じではなく、シグマのレンズにしてはやや硬め。ボケ味にこだわったArtラインの単焦点レンズと違い、本レンズは解像感を優先しているように思う。とはいえ色収差や口径食といった気になる収差も少なく、ボケと解像感のバランスがとれたレンズという印象だ。またシグマ製らしく逆光にも強く、太陽などの光源を取り入れたドラマチックな作画も楽しめる。

■撮影環境:1/4000sec F1.8 ISO100 WBオート

■撮影環境:1/320sec F1.4 +2補正 ISO100 WBオート
さらに絞ると解像感が増し、F2.8~F4あたりで画面全体の緻密さと、それがもたらす立体感が生まれる。絞り開放ではちょっと歯が立たないArtラインにも、このあたりでは十分肩を並べるのではないだろうか。ちなみに本レンズのLマウント版とEマウント版は2023年4月発売と、他のDC DN単焦点レンズの中では後発にあたる。レンズの設計や製造は日進月歩なので、その点では他の3本(ともに2020年7月発売)よりアドバンテージがあるのかもしれない。

■撮影環境:1/200sec F4 ISO100 WBオート

■撮影環境:1/125sec F2.8 -2/3補正 ISO100 WBオート
素早いAFなど取り回しも良好
描写に直接影響しないものの、特筆すべき重要な点はステッピングモーターによるAFの速さだ。EOS R50自体がエントリー機とは思えぬAF性能の持ち主なのだが、それをしっかりとレンズ側で引き出している。ディープラーニング技術を駆使した被写体検出も問題なく、動き回る人物でも快適にスナップすることができた。マニュアルフォーカスは電子式になるが、フォーカスリングは滑らかで適度なトルクもある。フォーカススイッチがないのがやや残念だが、コストのかかる部分もあり致し方ないのだろう。

■撮影環境:1/2500sec F1.4 +1・1/3補正 ISO100 WBオート
最短撮影距離は25cmと焦点距離からみればごくふつう。最大撮影倍率も1:7.3(約0.14倍)ととくに高くはないが、無理がないぶん近接域でもピントの合った部分はきりっとシャープだ。

■撮影環境:1/2500sec F1.4 ISO100 WBオート
まとめ
今回はEOS R50で実写したが、カメラとレンズのサイズがよくマッチしており(所有するカメラが白なので、カラーリングはミスマッチだったが……)、描写もキヤノン特有のすっきりとしてメリハリのある絵作りに合っていると感じた。35mmレンズ一本で出掛けることが多い僕には、まさに理想的なコンビといえる。

■撮影環境:1/1600sec F1.4 ISO100 WBオート

■撮影環境:1/800sec F1.4 ISO100 WBオート
ただ本レンズの性能は、操作性や速写性の高いEOS R7やEOS R10でさらに活きるだろうとも感じた。両機のユーザーにはぜひ購入を検討してほしいし、逆に本レンズ(や姉妹レンズの16mm、30mm、56mm)に合わせてEOS R7やEOS R10を導入するのもアリだと思う。シグマDC DN単焦点4本をすべて合わせても重量はわずか1335g。小さなカメラバッグに丸ごと収めることができる。軽さや機動力といったAPS-Cフォーマットの利点に光を当てる一本ともいえよう。
おまけ(フルサイズでの活用法)
また今回は試すカメラがないので実写できなかったが、このレンズ、実はフルサイズに装着してもおもしろい。以前Lマウント版をシグマfp Lで試したのだが、フルサイズでも周辺光量こそオールドレンズ並みに落ちるものの、完全にケラれるというわけでもない。またアスペクト比(縦横比)を真四角の1:1にすれば周辺光量も十分で、29mm相当の広角レンズとして使える。周辺部はカメラによる歪曲補正が効かないため、ごくわずかに樽型に歪むものの、シビアに考えなければ十分実用の範囲だと思う。
■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。