シグマ 28-70mm F2.8 DG DN Contemporary|小さな標準ズームと旅の記録
はじめに
SIGMAのフルサイズミラーレス専用設計「DG DN」の標準ズームレンズは現在2種類ラインナップされている。1本目はSIGMAの持つ高い光学性能を象徴するような高画質標準ズームレンズ「24-70mm F2.8 DG DN | Art」だ。
そしてこのレンズとほぼ同じ基本構成でありながら、広角側を4mm狭め、厳しい自社基準の防塵防滴性能を少し下げることで、大幅な小型軽量化を果たしたレンズが、今回使用した「28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」である。
開発者の方が自ら、「24-70mm Artの精巧なコピー」と語るほどに、妥協のない光学性能をこの小さな筐体に詰め込んだと言うのだから、その性能に期待せざるを得ない。今回の旅は冬風が厳しい玄界灘の岬、そこでカーキャンピングをしながら丸一日使用した。
旅の記録を動画で
アウトドアに持っていく撮影機材を選択する際、重要視するのがコンパクトさと軽さなのだが、SIGMA fpと28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryの組み合わせはとても理想的であり、広角から中望遠までをその小さな筐体でカバーしていることも、このレンズを手に取らせる大きな魅力となっている。
今回の旅の映像をご紹介しようと思う。製品カット以外の全てのシーンをこのレンズで撮影したが、小型軽量で28mmから70mmと言う焦点距離が大いに役立った。今回フォーカス送りをする撮影技法は使用してないが、写真用レンズで映像撮影をする際に気になるフォーカスブリージング(焦点の移動で画角が変わる現象)も極めて少ない事をお伝えしておきたい。
コンパクトさと対照的な描写性能の高さ
朝、すっかり日が昇った10時過ぎ、車を降りた瞬間すっきり晴れ渡った青空と身が締まるような冷たい海風で上着を慌てて着込む。この時の気温は3℃だったが、陽射しの温かさが心地良くもあった。
木漏れ日を感じながら、森の中の歩道を歩く、常緑樹が多いこの場所は真冬でも緑を感じることができる。自然のパーゴラのように木々が眩しい陽射しを遮る先に、あまり使われていないであろう東屋が見えた。
開放絞りのF2.8で撮影した写真をみて、このレンズがContemporaryラインであることを疑ってしまった。この緻密で繊細な描写は、もはや隠れArtラインと呼ぶ方が相応しいのではないかと思う。
足元を染める赤紫色の実を見つけたので見上げると、そこには閉店した野鳥のレストランがあった。自然のつくり出す色の組み合わせはとても優しい。私の使い古したPENDELTONの毛布に似た、飽きのこない青と赤が心地よい。
力強い木の幹に細い蔦が垂れ下がる、木の表皮に絵の具で葉を描いたかのように楽しげな苔のアート。葉脈まで繊細に描写する合焦部分と対象的に柔らかいボケ味、このレンズの表現力の高さを感じる。
まるで箱庭のように整った半島が斜光に照らされる様子にしばし見惚れる。玄界灘の激しい波が作り上げた洞窟は美しく荘厳な佇まい、あらためて自然は厳しくも尊いものだと感じる。
柱状に連なる玄武岩を、崖の松の枝の隙間からのぞくと、六角形の断面が見えた。70mmで引き寄せて撮る、不安定な体勢の撮影もズームレンズだからこそ状況に応じて素早く対応できた。
火山から流れ出たマグマが、急激に冷やされることで出来た玄武岩をより近くで撮影する。荒波が作り上げたアートの迫力を前に、夢中でシャッターを切った。このレンズの逆光耐性はとても優れている、それは、フレアやゴーストを避けるために気に入ったアングルや構図を諦める事なく、クリアな写真が撮影できることを意味する。
夕方になり気温が一気に下がりはじめた。早足で車にもどる途中、かつてこの場所が多くの観光客で賑わっていたと感じ取れる、趣のあるお店を見つけた。夕日が建物を照らす、経年変化したカーテンの色味が夜の寒気を連れてきた雲とマッチしている。
28mm広角で撮影したが、歪曲収差は極めて少ない。屋根の傾きは建物の撓みであることを、正確に描写されたアルミサッシの格子が教えてくれた。
日が暮れはじめた駐車場に戻ると、昼食をとっていないことを思い出し、急にお腹が空いた。車のラゲッジスペースに布をしいて間に合わせの食卓を作り、紅茶を淹れて夕日を見ながら食事をした。冬の美しい夕日と温かい紅茶はとても相性が良い。
開放F2.8の絞りのおかげで、ISO感度を上げずに見た目の印象より明るく撮ることができる。濃く淹れすぎた紅茶の深い赤もしっかりと写してくれた。
1日の終わり。対岸に控えめに光る夜景を待つ事にする。リアゲートを開けランタンを灯した。膝に掛けた毛布で暖まりながら、手に持ったカメラで気負わずに見たままを撮影する。次は何処へ行こうかと考えながら。
おわりに
この日、午前中から夜まで、写真に動画に存分に使用して改めて気付いた。ひと昔前に比べてサイズ・デザイン・画質・操作感など全ての要素が格段に進化している。この性能で購入しやすい価格なのも嬉しい。正に新しい現代の基準を作り出していると感じる。だからこそ、このレンズはコンテンポラリーの証「C」のエンブレムを冠しているのだと深く納得した。
■フォトグラファー/ ビデオグラファー:坂口正臣
雑誌の撮影を経て広告写真・建築写真・映像撮影など福岡を拠点に幅広く活動中。坂口写真事務所(SPO)を運営。
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