シグマ 50mm F2 DG DN Contemporary|所有欲と画質と価格のバランスが素晴らしいレンズ

SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporaryの概要
SIGMAのIシリーズは、「プレミアムコンパクト」という言葉が似合う人気の単焦点レンズである。Iシリーズは、大きく分けて2つのラインナップに分かれる。高画質と常用性の両立を目指したラインナップか、コンパクトネスを追求したラインナップである。
今回レビューする50mm F2 DG DN | Contemporaryは、前者の高画質と常用性を追求したラインナップに属することになる。同シリーズはこの50mmF2の他にも、20mm、24mm、35mm、65mmとラインナップは充実している。
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まずは、撮影時のハンドリングに大きく影響するサイズと質量。このレンズは、筆者が前回紹介した90mm F2.8 DG DN | Contemporaryが属する、コンパクトネスを追求したシリーズよりも僅かに大きく重い。とはいえIシリーズらしい絶妙なサイズ感である。直径70mm、全長68mm。Iシリーズに共通したイメージだが、「手のひらにすっぽり収まるサイズ」という感じは変わらない。SIGMA fpや、LUMIXのS9、またはα7Cシリーズなどのコンパクトなカメラに合わせたくなる。質量は350gと軽いが、小さな筐体なのでよい意味での塊感を感じる。持ち歩きにストレスを感じることもなく、女性ユーザーも扱いやすいと思う。
レンズ構成は9群11枚(SLDガラス1枚、非球面レンズ3枚)とさらに贅沢な構成になっている。光学性能はSIGMAらしく全く妥協がない。最小絞りはF22としっかり絞り込める。最短撮影距離は45cmと、90mm F2.8 DG DN | Contemporaryよりもさらに5cm寄れるので使い勝手がよい。
レンズ仕様
9群11枚(SLD1枚、非球面レンズ3枚)
絞り羽枚数 9枚
最小絞り F22
最短撮影距離 45cm
最大撮影倍率 1:6.9
フィルターサイズ 58mm

デザインと質感
Iシリーズレンズの洗練されたデザインはもちろんだが、F2の高画質シリーズは少し異なる装飾が施されている。絞りリングからレンズフード先端まで伸びる、繊細で美しいローレット仕上げは共通だが、レンズ中央部分に金属のプレートが追加されている。全てのパーツはアルマイト処理が施されているので、腐食や摩耗に強い耐性があり、美しさと強さを兼ね備えている。
実際に手に取ると金属の冷たさが心地よく、デザイン性だけではなく感覚的にも満足感がある。滑らかに動く金属のフォーカスリングと、上質なクリック感のある絞りリングは、マニュアル操作をしないと勿体無いとさえ思ってしまう。表面の仕上げは、ブラスト処理された金属外装に、アルマイト処理が施され高級感がある。SIGMAのプロダクトは、多くのカメラの堅牢で実用的なイメージとは異なり、シンプルでモダンな方向性であり、ライフスタイルに自然に溶け込む。



レンズキャップ
Iシリーズのレンズ(45mmを除く)には、コンパクトシリーズと同様に金属製のマグネットレンズキャップと従来通りのレンズキャップの2つが付属する。高価なマグネット式メタルキャップが付属する点は満足度が高い。細部まで考え抜かれた、ミニマルなデザインと金属の質感で高級感がある。このマグネット式レンズキャップを、ピタッとセットする心地よい感覚が「Iシリーズを使っている」という実感を与えてくれる。

ボケ味と画質
使用頻度の高い50mmという標準域で解放F2というスペックは、そう多くはないので被写界深度の感じをテストしてみる。ボケ味は自然で滑らか、他のIシリーズF2も同じだが、全体的に繊細でソフトな印象を受ける。最短撮影距離45cmは被写体にしっかりと寄れる。とろけるようなボケ味はポートレートにも使いやすい。前ボケも同様に自然で柔らかいので、煩くなることもなく上品な印象だ。

■撮影環境:1/5000 f2 ISO100

■撮影環境:1/5000 f2 ISO100
フォーカスブリージング
映像撮影で重要視されるフォーカスブリージング(フォーカス移動による画角変化)は、しっかりと制御されている。フォーカス送りなど、演出としてのピント操作において、フォーカスブリージングの少ないこのレンズは、見る人の視線を自然に誘導するようなショットを撮影することができる。

■撮影環境:1/5000 f2 ISO100

■撮影環境:1/5000 f2 ISO100
CinemaDNGでポートレートとランドスケープを撮影
SIGMA fpの12bit CinemaDNG撮影でNDフィルターを使わずに撮影した、2つの作例動画をみていただきたい。このレンズの持つ描写力を感じていただけると思う。
撮影する機会が多いであろうランドスケープの素材を、写真としてRAW現像する。現像はDaVinci Resolve 19のタイムラインからスチルとして書き出している。画像サイズはUHD3840x2160ピクセルで、解像度は72dpiである。UHDサイズの12bit CinemaDNGでも充分に綺麗な画像を切り出すことができる。動画でありがちな圧縮によるディティールの欠損も僅かなので、このレンズの持つ画質が分かりやすい。

■撮影環境:1/500 f5.6 ISO200
f5.6まで絞ると解像感がありシャープな印象で、細い線を緻密に表現している。開放でも周辺が甘くなる感じも少なく情報豊かである。手のひらに収まる小さなレンズとは思えない画質である。

■撮影環境:1/2000 f2 ISO200

■撮影環境:1/640 f2 ISO200

■撮影環境:1/1000 f2 ISO200
開放のボケ味は、スチルと同じく自然で柔らかく、主題を見事に浮き上がらせる。ロングショットの僅かな前ボケも立体的で、自然にリーディングラインを際立たせる。

■撮影環境:1/160 f5.6 ISO200
建物を正面から撮影する。50mmの距離感はこういった何気ないシーンを、大袈裟にすることなく自然に表現するのに向いている。歪曲収差は50mmらしく僅かな樽型、このショットは無調整で仕上げている。特に気になる歪みは感じないので、光学的にもしっかりと補正されている。

■撮影環境:1/2500 f2 ISO200

■撮影環境:1/2000 f2mm ISO200

■撮影環境:1/2000 f2mm ISO200
50mmは被写体に近付いたり離れたりと、距離で表現を変えて遊ぶのがとても楽しい。単焦点の標準レンズは必ず持っておくべきだと改めて思う。

■撮影環境:1/4000 f2 ISO200

■撮影環境:1/1250 f2 ISO200
敢えてアウトフォーカスして撮影し、印象的に仕上げるのも楽しく、上質なボケ味で嫌味がない。逆光がまともに入るように撮影をしたが、フレアも少なく解像感を失っていない。ゴーストもしっかり抑えられている。
Lマウントアライアンス2社のカメラボディと組み合わせた時のバランス
ソニーEマウントとLマウントで発売されるこのレンズ、筆者は現在Lマウントユーザーである。 Lマウントはアライアンスに参加したメーカーが共通のマウントを使用しているので、レンズとボディーの様々な組み合わせが可能である。SIGMA・Panasonic・Leica・DJIに加え、新たにBlackmagic Designが加わったことで、さらに選択肢が広がった。
筆者の手持ち機材からfpのほか2台のカメラにセットしてみた。購入前の参考になるように、サイズ感やバランスをみてもらえたらと思う。使用したボディーは、LUMIX S5M2xとBlackmagic design BMCC6K。全てケージに入れた状態でセットしてみた。
▼LUMIX S5M2x

▼BMCC6K

まとめ
動画と写真の両方で使った印象をまとめたいと思う。SIGMAのIシリーズ高画質F2のラインナップの中心にあたるこのレンズは、コンパクトネスと高画質という相反する性能を見事なバランスで仕上げたレンズだと感じた。開放値F2という明るさで、手のひらに収まる小さな大口径レンズである。画質は堂々たるもので、画質が求められる写真や映像の撮影でも、問題なくこなしてくれる。逆光耐性も優れており、躊躇なく日差しを入れて撮影できる。ボケ味も上質で滑らかなので、ポートレートにも適している。Iシリーズで揃えてもよし、F2.8ズームレンズに単焦点を追加するにもコンパクトでよい。
フォーカスの操作感も滑らかで、繊細なピント合わせができる。日常的にマニュアルフォーカスを多用する筆者も満足できた。所有欲と画質と価格のバランスが素晴らしいレンズで、ファースト単焦点レンズとしても自信を持っておすすめできる、クオリティーの高い素晴らしいレンズである。


■フォトグラファー/ビデオグラファー:坂口正臣
坂口写真事務所(SPO)を運営。広告写真やTV-CMから、プロモーション映像やドキュメンタリーなど幅広いジャンルで活動し、撮影だけではなく演出もこなす。YouTubeチャンネルSPOを運営、レンズやボディーの作例や、その他機材レビュー動画も公開している。