シグマ 85mm F1.4 DG DN Art|新時代の究極のポートレートレンズ
はじめに
究極のポートレート用レンズとして、高い解像力と描写性能を誇るシグマの「85mm F1.4 DG DN | Art」は、Artラインのレンズらしく、作品作りに没頭できる光学性能を有しています。今回は、SIGMA fp Lに本レンズを装着して、ポートレートのスチールとムービーを撮影しましたので、その魅力とともに紹介したいと思います。
非の打ち所のない描写性能
本レンズを使用したことがある方なら、描写性能に関して否定する要素がないことは、体感されていると思います。ピントの合っている部分はシャープにキレ良く、その前後のボケは美しいグラデーションで描き出す、正統派のポートレートレンズと言えるでしょう。
レンズ構成は11群15枚で、SLDガラス5枚と非球面レンズ1枚を採用しています。軸上色収差もよく抑えられていて、不自然な色にじみもなく、画面周辺部までクリアで美しい描写を実現しています。
中望遠のボケ味が大きいこのようなレンズでは、ピントが合っている部分もそうですが、ボケている部分のグラデーションが非常に重要で、色にじみや不自然なグラデーションが出てしまうと、途端に作品力が下がってしまいます。このように、F1.4の絞り開放から高い解像力を誇るレンズは、ポートレートを撮影するのに最適なレンズです。
ポートレート風ショートムービー
今回のショートムービーは、カラーモードはポートレートで、ホワイトバランスは5000Kに設定して、三脚を使用して撮影しました。照明は、室内の赤味がかった弱い灯りと、窓から入る自然光が、モデルの体を半分ずつ照らしたイメージが良かったので、LEDライトなどは使用しませんでした。
顔のアップのときのピント面とボケているところとのグラデーションや、背景の家具に光が反射してできた丸ボケなど、本レンズならではの特徴が出たムービーになりました。
奥行き感を生み出す妥協のないボケ味
85mmの中望遠域と、F1.4の大口径のスペックは、モデルの両目だけで奥行き感を生み出すことができます。ピントの合っている左目から、ボケている右目へのなだらかなグラデーションはとても美しく、この2つの目を見るだけでも奥行きを感じる画を作り出し、被写界深度的に両目の中間に位置する口の自然な描写は、モデルの表情を柔らかく、より魅力的に仕上げてくれています。
余計な光をカットしてコントラストの高いクリアな画に!
ポートレートの性質上、逆光や半逆光の撮影が多くなるので、気になるのがフレアやゴーストですが、本レンズはかなり徹底的に対策が行われていると感じました。また、スーパーマルチレイヤーコートを採用しており、逆光時でも眠い画像にならず、スッキリとコントラストの高い画を描き出してくれます。
筆者は、レンズフードは常に使用して撮影しています。シンプルな丸型のレンズフードは、斜めからのいらない入射光を防いでくれるのと共に、フードを指先で軽く支持するようにレンズを支えると、撮影もしやすい印象です。カメラを肩から下げて歩いているときに、フードが回って落ちてしまうことがないように、ロックスイッチが付いているのもいいですね。
ボケ味をとことん楽しめるレンズ
本レンズを使うと、前ボケで遊びたくなります。後ろのボケが綺麗なグラデーションなのはもちろんですが、ピント面よりも前のボケ味も格別です。そんな綺麗なボケを見てしまうと、被写体の前にボケを入れて、写真のムードを変えて遊びたくなってしまいます。
作例の撮影場所はかなり狭い庭で、あちこちに小さな木があったので、それを避けながら撮影していたのですが、ふと思い立って、木の隙間から覗くように撮影してみると、新緑が美しくボケて、爽やかなイメージの画を作り出すことができました。実際の撮影場所をご覧になると、びっくりすると思います。
85mmにしては超コンパクトなボディ
撮影で使用したSIGMA fp Lは小さなボディのため、レンズがあまりにも大きいとバランスが悪いのですが、本レンズとの組み合わせではそれほどバランスは悪くないように感じました。
まず、長さはかなりの合格点。フィルター径は77mmとF1.4の大口径らしく大きさは感じますが、不格好な訳ではないし、左手でしっかりとホールドするには、これくらい大きいほうがちょうど良かったりもします。なにより、重さが630gとかなり軽いので、長時間の撮影やジンバルに乗せることを考えると、色々盛り沢山なレンズの割に、超コンパクトなボディと言えるでしょう。
光と影を楽しめるレンズ
絞り羽根枚数は11枚で、円形絞りを採用しています。絞り開放での撮影時は、丸ボケを楽しむことができます。特にこれからの季節、新緑の爽やかな黄緑からの木漏れ日を丸ボケにすることで、より清涼感のあるポートレートを撮ることもできます。
そんな光の部分もですが、本レンズはボケのグラデーションが自然で美しいので、構図内に明暗差を作って、明るさのグラデーションを楽しむのもお勧めです。モデルの顔にはコントラストを付けたくないので、光と影は作らないようにしますが、髪の毛や衣装、背景に光が当たっているところと影の部分を作り出すと、構図の中に陰影ができて、より立体感のある印象的なカットにすることができます。
そんな風に、色々なシーンやムードを撮ってみたいと思わせてくれる、高い描写性能を誇る、ポートレート撮影がスチール、ムービー共にさらに楽しくなるレンズでした。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。
「85mm F1.4 DG DN | Art」はこちらの記事でも紹介されています
■シグマ 85mm F1.4 DG DN Art |サイズダウンしたボディーに卓越した描写性能を実現
https://www.kitamura.jp/shasha/sigma/85mm-f1-4-dg-dn-art-2-20200827/