シグマ fp レビュー|動画もスナップも、この1台で
はじめに
2019年現在、シグマからフルサイズミラーレス一眼カメラが登場した。大きな話題になったのでご存じの方も多いだろう。その名は「SIGMA fp」。同社初となるフルサイズフォーマット機で、しかもセンサーはSIGMA伝統の「Foveon」ではなく、一般的なベイヤー方式を採用。シャッターは完全な電子シャッターとした。
「SIGMA fp」はスチル撮影だけでなく、ムービー撮影もこなす新基軸のデジタルカメラでありながら、何とポケットに入ってしまうほどの軽量コンパクトさが売りなのである。
毎日持ち歩けるフルサイズミラーレス機
「SIGMA fp」のサイズはこんな感じだ。幅112.6mm、高さ69.9mm、奥行き45.3mm。この数字はパスポートより小さい。重量は何と370g。シグマの製品というとカメラ、レンズを問わず高性能だけど大きくて重い!という印象を持たれがちだが、この「SIGMA fp」はそれを覆すものになりそうだ。
まるで高級コンパクトデジタルカメラを思わせるルックスだが、中身はキチンとローパスレス仕様の35mmフルサイズ有効2460万画素ベイヤーセンサーを搭載している。2019年7月11日製品発表時点で、世界最小・最軽量のフルサイズミラーレス一眼カメラとなっている。コンパクトなレンズ「SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary」となら、マウンテンパーカーなどの大きめなポケットを備えている衣類に入ってしまいそうな感じである。まさに発表会でもコメントされていた「Pocketable Full-frame(ポケッタブル・フルフレーム)」、毎日気軽に持ち歩けるフルサイズミラーレス一眼と言えるだろう。
▼発表会の様子はカメラのキタムラYoutubeチャンネルで!
また、「デジタルカメラの脱構築」を目指した「SIGMA fp」の斬新なコンセプトはこんな感じだ。
「高性能で、選択肢の豊富なレンズによって最高画質での画づくりを
思いのままに楽しめる、フルサイズセンサー搭載のレンズ交換式カメラ。
どこへでも持ち歩ける携行性と、直感的に操作できる優れたUI。
さらに、先進技術による飛躍的な画質の改善により、
日常用カメラとしての圧倒的な地位を確立したスマートフォン。
多様な機材から自由に選んでカスタマイズできるオープンなシステム。
高画素化・高画質化への対応からラージフォーマット化が加速し、
高性能化と拡張性の両方を兼ね備えつつあるシネマカメラ。
「デジタルカメラ」はこのように分化し、
カテゴリーごとに最適化され、先鋭化しています。
それぞれに特化した用途やグレードによって秩序だてられ、
使う人はそこから自分のスタイルやレベルに合うものを選択するのです。
静止画か動画か、初級か上級か、仕事か趣味か、といった具合に、
道具は撮り手の属性や階層、志向を表すシンボルであるともいえます。
けれども私たちは、まずそこから問い直したいと考えました。
現実の世界では、映像や静止画といったジャンルの垣根は低くなる一方、
どのカテゴリーでも画質とユーザビリティの水準が高くなるなかで、
一人のひとが高性能なレンズ交換式カメラも、スマートフォン・カメラも、
仕事用・趣味用と限定せずに柔軟に使い分けるようになっています。
一方で、進化する「撮ること」の実際に、道具は追いついていない。
まだ顕在化していない、リアルな撮り手の要求を満たすことのできる、
本当の意味で「撮る人に合わせられるデジタルカメラ」が必要だ。
私たちはそのように考え、いまあるカメラの本質的な価値と課題を解体し、
エッセンシャルな要素だけを吟味し尽くし、ゼロから構築しました。
どこへでも持ち歩け、いつでも気兼ねなく撮れる「限りなく小さく軽いボディ」と、
画質に妥協せず本格的な撮影ができる「フルフレームセンサー搭載」の両立。
静止画と動画を指一本で切り替え、直感的に使える「シームレスな撮影機能」。
SIGMAのレンズはもちろん、他社のアタッチメントも自由に付け替えて
組み合わせられる「オープンでリベラルなシステム」で、
かつ、どんなシーンやニーズにも対応できる「変幻自在な拡張性」の実装。
これらすべてを一挙に、矛盾なく、二項対立的にせずに実現させること。
そのために本当に必要な機能や要素だけを一切の妥協なく選択し、
最新のテクノロジーを惜しみなく投入して撮影と表現の可能性を高めよう。
この、SIGMAの基本姿勢である「理想の追求」のもとでSIGMA fpは生まれました。
使う人を中心に置いて、自由に姿かたちを変えるカメラボディとして。
撮る人自身もまだ知らない、新しいカメラライフの楽しみを提供する道具として。
そして「デジタルカメラ」のパラダイムを変える、新しいシステムカメラとして。」
■シグマ社公式サイトより引用
このイメージは同社サイトのムービーを見ていただくとわかりやすい。素晴らしい映像なのでぜひチェックしてみるといいだろう。
▼シグマ社ムービー
レンズが続々と登場するLマウント
マウントはもちろんLマウントを採用。ライカ、シグマ、パナソニックの3社連合「Lマウントアライアンス」に準拠したLマウント交換レンズが装着、使用可能となっている。シグマからも「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN | Art」や「SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Art」、「SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary」など意欲的な専用レンズ「DG DN」シリーズがリリースされているので、これからも明るく高性能なレンズや、味わい深い描写のレンズの市場投入が期待できそうだ。
Lマウントアライアンスのレンズは魅力的なものが多い。ライカ製のものはなかなか手が出る価格ではないが、パナソニック製のものならば十分選択肢に入ってくるのではないだろうか。機動性を誇る高性能ズームレンズ「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」、「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」などが気になるところである。
また、すでに販売されているマウントコンバーター「SIGMA MOUNT CONVERTER MC-21」シリーズを使えば、シグマ製のEFおよびSAマウントレンズ群が使用できるのもうれしい。「EF-L」、「SA-L」と2つのタイプが用意されているのでレンズに合わせてチョイスしたい。
充実のカメラ基本性能
さて、気になるセンサーがベイヤー方式であることはお伝えしたが、有効2460万画素でRAWはDNGフォーマットの採用となった。ローパスレスということもあり精細感に富みながら、発色もどことなくFoveonのそれを彷彿とさせる味わいを感じる。
驚くべきは「SIGMA fp」は常用感度だ。ISO100からISO25600というシグマユーザーとしては感涙の高感度を得たのである。拡張すればISO 6, 12, 25, 50, 51200, 102400というとんでもない感度での撮影も可能になっている。これは撮影表現の幅を大きく拡げてくれるに違いない。日が落ちるとともにカメラをしまわざる得なかった今までのシグマユーザーは、「SIGMA fp」によっていつでも撮影が可能になって大変だろう…
また高速連写性能も見逃せない。電子シャッター方式を採用し30秒〜1/8000秒を実現し、高速で約18コマ/秒、中速で約5コマ/秒、低速で約3コマ/秒となかなかの性能となっている。オートフォーカスもコントラスト方式ながら実用的なスピードと精度で合焦が可能だ。しかも顔認識はもちろんミラーレス一眼カメラ必須のいうべき「瞳AF」も搭載されている。人物やモデル撮影時にも大いに役立つことだろう。
豊富なカラーモードも「SIGMA fp」のウリのひとつだ。近年ハリウッド映画で多く取り入れられている「ティールアンドオレンジ」が実にいい雰囲気なのである。
シグマ社公式サイトによると
映像の色彩を演出に沿って調整するカラーグレーディングは映画や作品の印象を大きく左右する重要な制作工程です。
その中で、近年ハリウッド映画などで人気の高いカラーグレーディング手法に着想を得た「ティールアンドオレンジ」をカラーモードに初搭載。人間の肌の色などに含まれるオレンジ系の色味と、その補色に当たるティール系(シアン系のブルー)の色味を際立たせることで、映像を鮮やかかつ印象的に演出することが出来ます。 Cineモードではもちろん、Stillモードでも設定可能です。
とのことで、このモードオンリーでJPEG撮影してもいいし、RAW(DNG)で撮影してシグマの現像ソフト「SIGMA Photo Pro」で適用してもいいし、カラーモードのブラケットの1つとして設定して撮影するのもいいだろう。
もちろんシグマのセンサー「Foveon」カラーを再現したFOVクラシックブルー、 FOVクラシックイエロー、そして定評あるモノクロームも断然オススメである。
使い手が自由に拡張できるSIGMA fp
軽量コンパクトでシンプルなボディが特徴の「SIGMA fp」だが、グリップをはじめLCDビューファインダーなど、用途に応じて使いやすいように拡張できるアクセサリーが用意されてる。
さらに面白いのはシグマが「SIGMA fp」の外観3Dデータを公式サイトで公開しているところだろう。この試みによって誰でも自由にデータをダウンロードして、アクセサリーを開発できるようになっているのだ。きっと多くのメーカーやユーザーから、使いやすいアクセサリーや奇抜な製品がリリースされるに違いない。期待しよう。
このように「SIGMA fp」はスチルもシネもバッチリ撮れる、超コンパクトフルサイズミラーレス一眼カメラだということがお分かりいただけたかと思う。ユニークで拡張性の高いカメラ「SIGMA fp」でどんな世界を撮影するかはあなた次第である。
▼作例
■撮影環境:1/640 F8 ISO100
嵐が近づく桟橋を「SIGMA fp」と「SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary」で撮影した。軽量コンパクトなこのセットはホールド感が高いので、強風でもしっかりと撮影ができた。どんよりした雲の描写や、飛沫の精細感も確実に写しとってくれた
■撮影環境:1/320 F2.8 ISO100
浜辺に脱ぎ捨てられていたビーチサンダルをモノクロームモードで。鼻緒の立体感とディテール、砂の粒状感と背景のスムーズなボケが美しい。いつでも気軽に持ち歩ける「SIGMA fp」ならば、日常の何気ない一瞬もかけがえのないものになりそうだ
■撮影環境:1/400 F2.8 ISO100
永年のシグマユーザーなのでどうしても写りを「Foveon」センサーと比較してしまう。あの強烈な高精細感と色合いは魔力だからだ。しかし「SIGMA fp」の写りも負けてはいない。このカットに写っているペイントの掠れ具合や、錆が浮いた壁、色褪せた住所表示など実に素晴らしいではないか
■撮影環境:1/100 F5.6 ISO100
「SIGMA fp」の魅力はやはり「ポケッタブル」なところではないか。スマートフォンでの写真撮影も楽しいが、このフルフレーム機を常時持ち歩くことによって、このように信号待ちでさえも豊かで高い描写の写真撮影を楽しめるのだ。もちろんムービー撮影も高い次元で可能だ
■撮影環境:1/50 F2.8 ISO125
個人的にはカラーモードの「ティールアンドオレンジ」がとても気に入った。小田原の古民家カフェを何気なく撮ったカットだが、味わい深く暖かみがあるカットとなった。スナップや風景だけでなくポートレート撮影にも積極的に使いたくなる「SIGMA fp」の武器だと感じた
■撮影環境:1/40 F2.8 ISO3200
今までのシグマ機では考えられないような高感度も使用可能だ。いつでもどこにでも持ち歩けるフルサイズ機で撮影するシチュエーションは劇的に増えることだろう。「SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary」のような気軽に携行できるコンパクトなレンズの投入も期待したい。
▼fp参考動画
「SIGMA fp」はムービー業界から熱視線を集めているが、フォトグラファーの世界でも近ごろはスチルとともにムービー撮影を求められることが多いので要注目のカメラと言えるだろう。CinemaDNGフォーマットや最大4K UHD/24fpsでの外部収録など将来性と拡張性が高く導入に前向きになっている人も多そうだ。もちろんこのクリップのようにイージーに4Kムービーを撮影して楽しむのにもピッタリである