シグマ fpシリーズとオールドレンズで楽しむ水族館写真とポートレート
はじめに
シグマのfpシリーズは、小さいながらもフルサイズセンサーを備えたミラーレス機で、その個性的な外観から、装着するレンズによってガラリとイメージが変わる、撮る楽しさだけではなく、持つ楽しさも味わえるカメラです。
今回は、そのfpシリーズとオールドレンズを使って撮影した、水族館写真とポートレートをご覧いただきながら、マウントアダプターとオールドレンズでの撮影の楽しみ方を、お話したいと思います。
撮影できる範囲が広がるヘリコイド付きがお勧め
筆者がfpシリーズのカメラに使用しているマウントアダプターは、焦点工房オリジナルブランドSHOTEN(ショウテン)の、「LM-LSL M (ライカMマウントレンズ→ライカSL.Lマウント変換) ヘリコイド付きマウントアダプター」です。
これは、ライカ、パナソニック、シグマなどのLマウントのカメラに対応したマウントアダプターで、ヘリコイドが付いているので接写が可能です。マウント部にある5mmのヘリコイドを繰り出すことで、最短撮影距離を短縮できるので、被写体にぐっと近付いて撮影できます。
この作品も、金魚が画面いっぱいに大きく写し出されていますが、水槽から離れて撮影していては、このように被写体を大きく捉えることはできません。また、水族館では水槽から離れれば離れるほど、館内の常設灯や非常口のマーク、後ろを通る他のお客様などが水槽のアクリルに映り込んでしまうので、幻想的とは程遠い写真になってしまいます。
これからマウントアダプターを使ってオールドレンズ遊びをしたい方は、ぜひ、接写も可能なヘリコイド付きのマウントアダプターをお勧めします。
9月17日~23日に新宿 北村写真機店で開催する写真展「みずあかり」では、この作品を大きな銀塩プリントでご覧いただけます。人でも動物でも、ピントを目に合わせるのはセオリーですが、筆者は水族館撮影、特に金魚の写真では、ひらひらと軽やかになびくレースやオーロラのようなヒレに、ピントを合わせて構図することが多いです。
普段ははっきり見ることのできない、泳いでいる金魚のヒレの繊細な美しさを、写真という形にすることができるのも、作品作りの楽しさでもあります。
ピント合わせは自分の体で!
今回使用しているオールドレンズは、1962年製の「ジュピター8」、1961年製の「インダスター61」と、「ズマリット50mm F1.5」です。いずれもライカLマウントのレンズで、くるくると回して装着するスクリュータイプなので、このままではマウントアダプターに装着できません。そのため、ライカMマウントに変換する「K&F Concept KF-LM-5075 マウントアダプター」を使用しています。
オートフォーカスが使えないマニュアルフォーカスのレンズですので、ピント合わせはすべて手動で行うことになります。そう聞くだけで、難しそうだなぁと感じる方も多いかと思いますが、実は水族館撮影でのマニュアルフォーカスの撮影方法はとても簡単なのです。
順番としては、ヘリコイドを繰り出して一番接写ができる状態にして、絞りを開放にして、ピントを近いものがはっきり写る最短距離に合わせます。そして、その状態で固定したまま、カメラを前後させてピントを合わせましょう。
被写体が大きく写りすぎる場合は、ピントは最短距離のまま、少し後ろに下がるなりして構図を整えてから、じっくりとピントリングを動かすようにしましょう。カメラと被写体との距離を変える場合は、カメラを動かすこととピントリングを動かすことを同時にしないで、場所が決まってからピント合わせをするというように順番に行うことで、マニュアルフォーカスでのピント合わせの難易度はぐっと下がります。
カメラ側の設定
カメラ側の設定ですが、絞りはレンズ側の絞りリングを使用して設定します。幻想的な水族館写真を撮りたい場合は絞り開放に、動き物にあまり慣れていない方や、魚の体をはっきり表現したい方は、F5.6くらいまで絞ってもいいでしょう。
ただ、あまり絞りすぎると、ISO感度の設定によってはシャッタースピードが遅くなって、ブレブレの写真になってしまう危険があるのと、水槽の壁や配管などがボケずにはっきり写ることで、生活感のある写真になってしまうので気をつけましょう。
シャッタースピードは1/1000秒前後でしたら、大体のシチュエーションで被写体ブレも抑えて撮れます。逆に少し遅くして、わざとブラしてみても面白いでしょう。
ISO感度は明るい水槽ならISO400くらいで撮れることもありますが、暗い水槽だとISO6400くらいがお薦めです。ホワイトバランスはオートでもいいですし、色味を統一したい方は色温度設定で5000K前後に設定しておくと、照明の変化が大きい水槽でも、色味の変化なく撮影できます。
露出は、上記を踏まえて自分で調整することになります。通常の撮影だと明るめが好みの筆者ですが、水族館撮影では明るくしすぎず、むしろ少し暗めに、暗いところがしっかり暗くなるように撮ることが多いです。
なぜかというと、鮮やかな光の演出がされている水槽を明るめに撮ってしまうと、色鮮やかさが減少して全体のコントラストが低くなり、爽やかにはなるのですが、ドラマティックさが少なくなってしまうからです。
オールドレンズで撮影する場合は、F値の小さな明るいレンズを使うことが多いでしょうから、絞りを開ければ暗くなりすぎることはないと思います。主役の魚は水槽内の明るいところにいるときに、照明の届かない暗い部分との明暗の差が大きくなるような構図にすると、コントラストの高い、ドラマティックな写真に仕上がります。
オールドレンズは高コントラストの描写が美しいレンズが多いので、コントラストを高く仕上げたいときは、カメラ側の明暗の差をなくす設定をオフにして撮影しましょう。
オールドレンズはポートレート撮影も楽しい
こちらは、7月の個展で展示した作品になります。カメラは「SIGMA fp L」、レンズは「ズマリット50mm F1.5」を使用しました。B2サイズと大きく印刷しましたが、「SIGMA fp L」は有効画素数約6,100万画素ですので、もちろん問題なく綺麗に仕上がりました。
前ボケになっているのは木のトルソーです。オートフォーカスですと、逆に手前の被写体にピントを合わせたがって、奥の被写体にピントが合いにくいことがあります。動物園で、檻の中にいる動物にピントを合わせたいのに、手前の柵に合ってしまうのも、その例ですね。
顔/瞳優先AFも効きにくいようなこんなシーンでは、マニュアルフォーカスでピントを合わせてしまったほうが、素早く正確に合わせられることも多いです。
高コントラストが活きるモノクロ写真
こちらも、7月の個展で展示した作品です。このときは、すべての作品をモノクロで撮影しました。写真から色の情報を無くすことで、見る人の想像力を掻き立てる効果が倍増します。
被写体を優しくまろやかに表現してくれるオールドレンズと、人の肌質やコンクリートの質感などをしっかり表現してくれる、高い解像力の最新デジタル機との組み合わせは、ポートレート撮影でも堪能することができます。
モノクロ撮影は、カラーで撮影したものをモノクロに変換するよりも、最初からモノクロで撮影することをお勧めします。そのほうが、露出や細かい色味のグラデーションをその場で確認することができるので、より、自分の完成形のイメージに近い作品が撮れます。
また、モノクロ写真は通常よりも明暗の差があったほうが格好良くなりますので、特別な意図がないようでしたら、高コントラストで撮影しましょう。
自分だけの一本を見つけよう!
オールドレンズで撮影するなら、ぜひ撮って欲しいのが逆光でのふんわりポートレートです。最近の高性能のデジタルレンズでは出ないようなフレアーやゴーストは、オールドレンズ・ポートレートならではの味になります。
この撮影時も、強い光に向かって撮影する逆光の状態でしたので、画面全体に薄い霧のような紗がかかりました。それがソフトフィルターのような効果になり、ドリーミーに仕上がりました。さらに、カラーモードをパウダーブルーにしているので、より透明感のあるムードになりました。
ドラマティックにも、ドリーミーにも仕上げてくれる半世紀前のレンズは、中古カメラ店やオンラインなどで気軽に購入できます。同じ名称のレンズでも個体差があって、写りも違うのは、オールドレンズ遊びのさらに楽しいポイントでもあります。ぜひ、みなさんの一本を見つけてください!
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。
水咲奈々 写真展「みずあかり」
■会期:2021年9月17日(金)~23日(木)
■時間:10:00~20:00 ※最終日は16:00まで
※店舗の営業時間に準じて変更になる可能性があります。
■会場:新宿 北村写真機店 6F Space Lucida
■住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3-26-14
■入場料:無料
写真展「みずあかり」情報サイト https://lit.link/misaki7info