風景写真でのISO感度設定のポイント|高橋良典
はじめに
デジタルカメラではISO感度を自由に変更することができ大変便利です。フィルムが主流の時代、ISOはフィルムによって決まっていたので、1本撮り切ってしまうか途中で交換しない限りISOの変更はできませんでした。しかも、最近のデジタルカメラの高感度画質は驚くほどの進化を遂げています。昔は難しかった極めて暗い場所での撮影や高速シャッターでの撮影ができるようになった事で、表現の幅が広がり自由度が高まったと言えます。そこで今回は、なんとなくわかっていても、どう設定すれば良いのかが難しいISO感度について解説と使いこなしをお送りいたします。
ISO感度の基本
ISO感度変更の恩恵は、主にシャッタースピードをコントロールできることだと考えて良いでしょう。下記はISO感度の系列を表したものです。
数字が倍になれば「1段階ISO感度が上がる」、 数字が半分になれば「1段階ISO感度が下がる」といいます。数字が4倍になれば倍の倍で「2段階」です。1段階は1EVと表記することもあり、同じ意味です。それではISO感度を変更するとシャッタースピードはどう変化するのでしょうか?
いかがでしょうか?三脚を使わなければカメラブレを起こしてしまうような暗いシーンでも、ISO感度を高くすることでシャッタースピードを速くできるのがわかります。具体的にはISO感度の数字を「1段階(つまり倍)」大きくするとシャッタースピードが「半分の時間」となります。同様に「2段階(つまり4倍)」大きくするとシャッタースピードが「4分の1の時間」となります。「3段階(つまり8倍)」にすればシャッタースピードは「8分の1の時間」です。ISO感度が上がれば露光時間が短くなっても写真の明るさは同じに写ります。ISOが上がるに従ってセンサーが光に対して敏感になっていくと考えればわかりやすいでしょう。
ISO感度による画質の差
ISO感度をコントロールすることでシャッタースピード設定の幅が広がるので私もその恩恵を最大限に生かして撮影をしています。また高い数値に設定すれば暗い場所においても三脚なしでの撮影が可能。と聞けば良いことずくめに感じられるかもしれませんが、注意点もあります。もっとも気を配ってほしいのは「画質の低下」についてです。以下は同じ時間帯にISO感度を変えて撮影した写真となります。
■ISO感度を変えてソニーα7R IVで撮影
ISO400以下の低感度ではほぼ画質に差がないように見えますが、ISO800や1600からノイズが増え始めます。6400までISO感度が上がるとさらに、ざらつきが増してきますが、十分実用的なレベルです。さらにISO12800や25600では一目見ただけでノイズを感じるようになりますが、それでも被写体によっては実用に耐えられるでしょう。さすがに拡張感度のISO51200となるとカラーバランスも崩れ、相当な画質の荒れを感じます。下の写真は更に拡大したものになりますのでこちらも合わせてご覧ください。
■上記写真の一部を拡大した画像
ISO感度が低い方がノイズ成分が少なく、諧調表現性能にも優れます(小さな写真でわかりにくいかもしれませんが……)。逆にISO感度が高くなるにしたがってノイズ成分が増え、ざらついた印象となります。確かに暗い場所で手持ち撮影しても速いシャッタースピードが切れ、カメラブレを防げることには間違いありませんが、あまりに高感度を使うと画質が低下してしまいます。そこは感度の高低と画質のトレードオフであると覚えておきましょう。
同時期に発売されたカメラで比較すると、一般的にはセンサーサイズが大きく、画素数が少ないカメラほど高感度に強く「暗い場所での手持ち撮影が多い」「高速シャッターを多用する」など、高感度性能を優先させたいならフルサイズ以上のセンサーを搭載したカメラの中から、さらに常用ISO感度の上限が高いものを選ぶと良いでしょう。
以下は現在発売されている代表的なフルサイズセンサー搭載のカメラです。同じメーカーでも画素数が少ない程、常用ISO感度が高くなり、画素数が多いほど常用ISO感度が抑えられていることがわかりますね。なお、拡張ISO感度領域ではさらに高い数値も設定可能ですが画質が相当落ちてしまいますので、あくまでも非常用だと割り切って考えるのが良いでしょう。
風景撮影におけるISO感度設定の考え方
さて、ここまでは一般的な知識として説明してきましたが、ここからは風景撮影において私がどのようにISO感度を使い分けているかをお伝えしていきましょう。結論から申し上げると「ISO感度は低めが基本」しかし「高感度を使わなければ撮れない写真」においてはその限りではありません。
まず前者「ISO感度は低めが基本」についてですが、風景作品の場合、全紙や全倍など大きなサイズに引き伸ばす事も多く、撮影時から「画質の良い」写真を意識しています。ベースの画像が高画質であるほど撮影後のレタッチ耐性も高く、画質を保てますので無駄にISO感度を高くすることは避け、状況によりISO100~400を常用しています。暗い状況での撮影時、シャッタースピードが遅くなってしまう場合でも、ISOを上げることに頼らず、三脚を使用することが第一選択です。近年のデジタルカメラの高感度性能は素晴らしく、高感度を使ったからと言ってすぐに画質が破綻することはありませんが、リアリティのある風景を大伸ばしで見せたいと考える以上、写真の内容はもちろん画質にもこだわりを持っています。逆にSNS等で小さな画像を見せるのならISO6400以上の高感度でも問題はないでしょう。
雨上がりの朝、落葉が乾かないよう薄暗いうちに撮影。パンフォーカスのため絞り込んでいるのでシャッタースピードが相当遅くなるが三脚を使えばISO感度を上げずに撮影できる。後に述べるが、ISOがオートになっていると三脚を使用しているにも関わらず無駄にISO感度が上がってしまうので注意。
小雨の降る、やや暗めの状況。こちらも三脚を使用している。もし手持ち撮影なら少なくともISOは1600~3200まで高める必要があっただろう。
雲海たなびく里山風景を狙う。輝度差のあるシーンにおいて高感度で撮影、後からシャドウ部を明るく持ち上げるとノイズが出やすくなることがある。レタッチを想定する場合も無駄に感度を上げる事は避け、基本的には三脚を使う。
続いて後者「高感度を使わなければ撮れない写真」と言えば、まず星景が思い浮かびますね。それから動きのある被写体。風景ジャンルで代表的なものと言えば、滝や渓流などが挙げられます。スローシャッターで水流を表現するときには低感度側を使うことが多いので画質上、心配ないのですが、滝のしぶきを写し止めるには最低でもシャッタースピードは1/1000秒より高速を切りたいところ。その場が明るければ比較的、高速シャッターを切りやすいと言えますが、暗めの状況下での1/1000秒。また水量が多く1/2000秒や1/4000秒を切るには高感度に頼らざるをえません。その他、三脚使用禁止場所などで暗くてもカメラを固定出来ない場合、動物を狙う時も被写体が動くことや機動性重視で手持ち撮影をするなら速めのシャッターが求められます。それらが「高感度を使わなければ撮れない写真」にあてはまります。
いくら画質が良くても描写が中途半端になってしまうと作品としての完成度が低くなってしまうので、このようなシーンにおいては、躊躇なく常用感度の範囲内で高感度を使います。とは言え、その中でもなるべく無駄に高感度に振る事はせず、被写体や撮影状況を見極めてシャッタースピードを決定、最低限必要な感度設定に留めることを心掛けています。
星の点像表現は、フィルムが主流の時代には撮ることが極めて難しかったが、デジタルカメラの高感度性能が飛躍的に良くなり、今ではコツさえつかめば容易に撮影できるようになった。
スローシャッターでの撮影では低感度側を使うことが多く、ほとんどの場合、意識せずとも良好な画質が得られる。
やや風がある状況で、椿の花が被写体ブレをおこす可能性があったためISOをやや高めの800に設定した。雨の線の長さもシャッタースピードによって変化する。
荒々しく押し寄せる波しぶきを高速シャッターで写し止めた。このような明るい状況であれば少々絞ってもISO感度を上げずに速いシャッターが切れる。
踊る様に飛び跳ねる小鹿。既に日没を迎えている暗い状況だが、ISO感度を4000にして高速シャッターを切る事でしっかりと写し止めることができる。拡大すると高感度ノイズの発生が見られるが、躊躇なく感度を上げた。
滝の水しぶきを銀河に見立てて撮影。600mmという超望遠域での撮影では被写界深度確保のため、絞り込む必要がある。ISOを高くして高速シャッターと両立。しぶきを写し止めた。高感度を使わないと撮れない写真だと判断した場合はノイズ感が出ても気にせずにシャッターを切る。
上流より流れ込んでくる落葉に素早くピントを合わせて撮影。超望遠域400mmでの撮影のため被写界深度確保のため絞っているが、1枚前の写真よりさらに暗い状況。水の流れは案外早いのでさらに感度を上げてしっかりと落葉を写し止めた。ISO6400に設定しているので高感度ノイズの発生が見られる。とは言え近年のカメラの高感度性能は素晴らしく実用に耐えうる画質だ。
ISOオートについて
多くのカメラではISO感度の初期設定が「オート」になっています。「ISOオート」とは明るいシーンではカメラが自動的に低感度側に調整、高画質を保ちます。また、暗いシーンではシャッタースピードが遅くなりすぎないようカメラが自動的に高感度側に調整、カメラブレを防いでくれる大変便利な機能です。但し、注意点もあります。
こちらも結論から申し上げると風景撮影の多くのケースにおいて「手持ち撮影時のISOオートはOK」だが「三脚使用時のISOオートはNG」だと考えています。繰り返しになりますが暗いシーンで「ISOオート」設定だとカメラが自動的にISO感度を高くしてシャッタースピードが遅くなりすぎないよう調整、カメラブレを防いでくれます。これは手持ち撮影では大変有効です。なぜならどれだけ高画質でもブレてしまっていては意味がありません。しかしそのようなシーンでも三脚をカメラに固定、かつ被写体に動きがない場合はシャッタースピードが低速になっても何ら問題はありませんよね?その際、設定が「ISOオート」になっていると意識しないうちに高感度側に振られて画質の低下を招いてしまう場合があります。それだとせっかく三脚を使っている意味がなくなってしまいます。
それから別の話ですが「ISOオート」にはISO感度と画質のバランスをとって、上限と下限の感度を決めて範囲設定することができるようになっています。(例えばISO100~上限はISO6400までにしか上がらないようにするなど)風景撮影の場合は三脚を使用できることが多いので私自身は「ISOオート」は使わずに被写体の性質によってその都度ISO感度の数値を設定しています。また、手持ちの場合は、自分自身がどれくらいまでのシャッタースピードまでブラさずに撮れるかを把握できているとベターです。
さいごに
ここまでISO感度について説明してきましたがいかがでしたでしょうか?今回は風景撮影に特化した内容でお送りしましたが、ISO感度設定は撮影ジャンルによっても随分と変わってきます。例えば激しく動くスポーツを室内で撮影する場合。また、スナップ撮影では機動性を重視して手持ちでの撮影が基本になります。そのようなケースにおいてはより高感度を使うことや、ISOオートも効果的です。撮影を通して、適切にISO感度が設定できるよう、理解を深めましょう。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニーイメージングプロサポート会員・αアカデミー講師
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https://www.kitamura.jp/shasha/article/485348702/