佐藤俊斗 × ポートレートVol.7|曇りの日に撮りたくなる作品性を感じる写真

佐藤俊斗
佐藤俊斗 × ポートレートVol.7|曇りの日に撮りたくなる作品性を感じる写真

はじめに

こんにちは。写真家の佐藤俊斗です。
前回は光と影について、夕陽のシーンでの撮影をテーマにお話させていただきました。

曇り空での撮影は光のコントロールが難しかったり、明るく綺麗な写真を撮ることが難しかったりと敬遠されがちなイメージですが、「曇り」だからこそ表現できる撮影テクニックがたくさんあります。

モデルさんは、女優の南琴奈さん。
https://instagram.com/kotona_minami

今回は、撮影に加え衣装のスタイリングも組んで撮影に臨み、曇りの日のスタジオを舞台に透明感の作り方や光の見極め方についてお話していきます。ぜひ最後までご覧下さい。

スタジオでの撮影開始時に心がけていること

今回借りたスタジオの特徴は、片側が全て窓の真っ白な空間。会議室に使われるような部屋でオシャレな小物類は特にありませんでした。
スタジオでの撮影は、以前使ったことがある場所を借りたり、余裕がある時は下見ができるとベストなのですが、当日訪れて初めてこんな場所なんだ、と知ったりすることも多いですよね。
どこから理想的な光が入り、どのあたりがベストスポットなのか撮影する前に確認する必要があります。

まず、以下の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:f/4 1/160秒 ISO500 焦点距離65mm

この日 撮影をはじめて1枚目の写真です。何をしなくても もう既に素敵な写真になったと思うくらいですが、この何気ないスタートの1枚の僕なりのこだわりをお話します。

綺麗なサイド光の入るスタジオに窓際に手すりがあり、動きをつけるためにまず寄り掛かってもらいました。
顔の横から光が入るため、自然と顔に陰影を作り出すことができます。
ここまでが基本的な技術の話ですね。

私の撮影方法は、まず空間を利用して引きの構図からいつも組み立てていきます。急に寄りから始まることは絶対にありません。
今ある空間に対してどのように切り取るかを頭で考えるために、引きから始めることによって一つ一つ情報の整理ができるからです。
固く説明してしまいましたが、これは片付けの容量と同じで、必要なものと不要なものを見極めるためには部屋の一部ではなく全体を見渡す必要がありますよね。
空間に要らないものが無いかを判断し、かつその中で確実に残した方がいいポイントや魅せたいポイントを見極めていくことが大切になってきます。

またそれに加えて、いきなりモデルさんに寄ってしまうとモデルさん側も少なからず抵抗感が生じてしまいます。そのため、その人との距離感を少しづつ図りながらも余計な情報を整理していき、徐々に寄りの写真を撮影していくことが私が大切にしている基本的な流れです。

どんなモデルさんであっても、その人がどんな風に動くんだろう、どういう表情をするんだろうなど、初めてではなかなか分からないですよね。その為まずは距離感を大切にしながら組み立てていくことをおすすめします。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:f/4 1/160秒 ISO500 焦点距離70mm

次にこちらの写真ですが、顔が窓側から反対方向を向いていることで顔全体に影ができて暗い印象になっているのが分かりますね。そしてさらにここで抑えておくべきなのが細かな髪1本1本の動きです。
撮影に集中していると見落としがちですが、1束だけ出てしまっているということもあり一見綺麗な写真には見えますが、NGカットにしました。

「ポージングの指示はどのようにしていますか?」という質問を良くいただきます。

私の場合は、わざとらしいポーズというよりも動きのある中で自然なワンシーンを撮影したいので、その人らしい動きや仕草を的確に見つけて分かりやすくモデルさんに伝えるように心掛けています。

このスタジオのように動きを出すための小道具もなければ、ロケ撮影のようにバリエーションもないので、事前にイメージがディレクションされた撮影ではない限り、その自然な仕草を引き出す必要がありますよね。
この人はこんな風に動くんだな、と少しでも把握するためにもモデルさんとの距離感を測りながら進めて行くことが理想的でしょう。

モデルさんの透明感をぐっと引き出す撮影方法

曇りの日の撮影は光の強さは柔らかく一定となりますが、そのような状況では光の当たる位置やバランスが特に重要になります。
そのため窓からの距離感、モデルさんの立つ位置、顔の角度を少しずつ調整しながら撮影していきます。

次の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:f/4 1/125秒 ISO640 焦点距離56mm

光の当たる位置を変えることで、少しマットな質感を作り撮影しました。
窓際から少し距離を取った位置で撮影することで、顔に当たる光の量が減り、陰影のあまりない落ち着いた雰囲気の写真になりますね。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:f/4 1/160秒 ISO640 焦点距離52mm

次に、少し窓際に寄ってもらい顔の角度を変え、顔に当たる光量を増やした写真です。いかがでしょうか?

肌の艶感、目の輝き、髪や指先までのトータルバランスを意識して切り取り、僕の写真らしい透明感と色彩がよく表現された一枚だと思います。

余談ですが、編集やプリセットでの透明感表現などの方法もSNSではたまに拝見しますが、編集での補正に頼ってしまうと大切な撮影技術そのものが疎かになってしまい、本物の透明感は作ることができないと感じています。
撮影の段階でどれだけこだわりを持って撮って出し技術を上げられるか、がとても大切ですので覚えておきましょう。
また、曇りの日は光が優しいため、柔らかい描写を写し出すには撮りやすい環境だといえます。光を肌にしっかり乗せて写してみてください。
光の配分と影のバランスの見極めこそが透明感を作る秘訣です。

次は、衣装とメイクを変えて2カット目の撮影です。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/250秒 ISO640

白いマフラーを巻いてもらい、冬をテーマとしてモデルさんの魅力をシンプルに引き出した一枚です。白いマフラーといえば王道ですが、曇りの日の光量が少ない中で透明感を出すもう一つの方法として、顔周りに「白」を取り入れることで、ナチュラルな反射を狙い明るく撮影ができます。自然に光が回り、影が優しく持ち上がってますよね。

では次にパターンを変えて撮影しました。
下の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/500秒 ISO640

元から何色かマフラーを用意していたので、たくさん巻いてファッション性を持たせて撮影しました。
ヘアスタイルをアップにしてもらい、顔周りをスッキリさせながらマフラーで重みを持たせることでギャップをつくり、とても可愛らしく僕もお気に入りの一枚になりました。
また、このシーンではオールドレンズに変えて撮影したのですがお気付きになりましたでしょうか?

デジタルレンズと比べ、逆光の光をナチュラルに取り込み、コントラストが低めなオールドレンズらしい質感の写真になっているのが分かりますよね。

曇りでの強過ぎない光量だからこそオールドレンズ特有の優しい描写が表現されています。

写真に色味を足して遊び心を作る

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:f/3.5 1/200秒 ISO800 焦点距離58mm

今度はあえてマフラーを巻かず1つのアイテムとして使用してみました。
普段はあまり見かけないような個性的なイメージですよね。
スタジオにたまたまあったポールハンガーにマフラーを垂らして遊び心を持たせて撮影してみました。

一見、シンプルな構図にも見えますがここでも細かなこだわりを持って撮影したのですが、皆さんはお分かりになりますでしょうか?

マフラーを掛けるだけが目的ではなく、『写真の色情報』として遊び心を持たせて撮っているんです。

写真を撮る上では重要な色情報。1枚の写真に入れる色が多過ぎると主張が強くなり良い写真とは決して言えませんよね。

そこで今回はあえてマフラーを雑に垂らしてモデルさんを撮影することで、写真を見るだけで楽しさが伝わってくる写真になっていると思います。
これがいわゆる遊び心を取り入れた撮影です。

そしてさらに、モデルさんの顔立ちがより綺麗に引き立つようにここでも白いマフラーを顔横に配置して顔立ちをスッキリ見せながら、衣装の青色との色被りを避けた黄色いマフラーを反対にも配置して撮影することで、色味のバランスも計算した構図を作っています。

このように、ラフに撮影しているような写真でも細かなこだわりを持つことが大切でありモデルさんを魅力的に切り取る秘訣です。

写真で距離感を表現 

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:f/3.2 1/160秒 ISO800 焦点距離70mm

次はマフラーをたくさん手に抱えてもらい、こちらに走って来てもらうように指示を出してみました。
皆さんもお気付きだと思いますが、走ってくる時点でモデルさんの素敵な笑顔が予想できますよね。

僕はどんなモデルさんであっても素の笑顔を引き出すためにはその場を本当に楽しんでもらう必要があると思います。
なのでここではあえて「思いっきり」と伝えて走ってもらいたくさんシャッターを切りました。

このシーンでも大事なポイントを何点かご紹介します。

・モデルさんの背景に広めの空間を作り、少し広角よりで撮影することで、自分の方に向かって来るにつれて躍動感が表現できる。
・日の丸構図で撮影することで、自分に向かって真っ直ぐ走ってくる動線と距離感が伝わる。
・シャッター速度を遅くしてブレ感を出し、写真に動きをつける。

僕の場合、このシーンでは特にモデルさんとの距離感を大切にしてシャッターを切りました。
構図を意識し過ぎて日の丸構図を避けるがゆえに、写真の本質的な魅力が伝わらないような写真もたまに見かけます。理論的に考えるべきポイントと、柔軟性を持って撮影をするバランスがとても重要です。

寄り写真はフィルムライクに

■撮影機材:ソニー α7R IV A + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/640秒 ISO800
■撮影機材:ソニー α7R IV A + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:1/640秒 ISO800

最後はこの2枚をご紹介します。

この日は作家性とビューティ性を合わせた作品を残したいと思い撮影に臨みました。

本当にとても素敵な女優さんでしたので、魅力を最大限引き出すために最後はオールドレンズの優しい描写で寄って写真を撮りました。マフラーの暖かさと素肌を見せた適度なギャップを作り、モデルさんをより美しく引き立てながら、あえてピントは少し甘くすることで、寄り写真でも主張が強過ぎず、フィルム感を表現して切り取りました。

おわりに

今回は、曇りならではの光と影で作る透明感や距離感の重要性、色配分など様々な撮影方法をご紹介しました。
いかがでしたでしょうか?

晴れた日に限らず、曇りの日でも楽しんで写真を撮れるきっかけになると嬉しいです。

 

■モデル:南琴奈
■写真家:佐藤俊斗

 

 

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