佐藤俊斗 × ポートレートVol.9|夜散歩におすすめ。クリップオンストロボで切り取るフィルムライクな撮影術
はじめに
こんにちは。写真家の佐藤俊斗です。
ついに関東も梅雨入りし、天気の不安定な日々が続く季節となりました。
6月は夏至のある月ということで、今回は日の落ちる時間が遅くなっている時期に最適な夜撮影のテクニックをご紹介していきます。
モデルさんはSERINAさん。
https://instagram.com/06_serina_01
夜ならではの雰囲気のあるエモーショナルな写真をテーマに街撮りをしたので、皆さんの撮影の参考になれば嬉しいです。
自然光のない環境でどのように撮影していくのか、今回は色や動きなどにフォーカスして私なりに詳しくお話していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
夜撮影の基本
フィルムカメラならではのエモーショナルさ、それを言葉に表現してみるとどんなものが浮かんできますか?
私自身のようにフィルムカメラを日常的に使用していない側からの観点から考えてみると、一つはその曖昧さ。不規則な光や、少しズレたピント。「写ルンです」を現像しに行く時のように、どうなっているのかわからないそのワクワク感。
それをデジタルで表現してみようと、今回はそのエモーショナルな写真をテーマに撮影してきました。試行錯誤しながら偶然が重なって綺麗な作品が出来上がるのも、こういった撮影の醍醐味です。
今回はクリップオンストロボを使った夜の撮影。
通常、結婚式場や暗い会議室などで明るくするためにストロボを使う場合は、天井や壁に光を正確に照射させ、その反射光を活用して撮影していきます。
一方で今回のような夜撮影では、光の正確性よりも撮影のテンポ感を大事に撮影したいと考えています。
その為、あえて自動調光(TTLモード)にして撮影することがオススメです。被写体に直射することでフィルムライクな質感で切り取ることができ、撮影環境により微妙に変わる光量がより一層エモーショナルな雰囲気を醸し出してくれます。
ここで、私が考える夜撮影でのポイントを2つお伝えします。
Point1.
写真に動きをつけて撮影すること。
日中では選ばないような場所や空間などで夜の街に溶け込むように切り取っていきます。
Point2.
街灯の光や自動販売機など明るい場所や光源を探して撮影する。
クリップオンストロボで作る光とは違った町の環境光を活かして撮影するのも夜撮影ならではの楽しさです。
以上の2点を踏まえて、様々な光を利用したエモーショナルな夜撮影について解説していきます。
動きについて
こちらの写真をご覧ください。
まず、撮影開始してから初めの一枚はシンプルな場所を選んでみました。何の変哲もない路地の壁。
まずはモデルさんに座ってもらい、少し上から自分が立った状態で撮影してみました。目線が上がり可愛らしい印象になっていますね。
モデルさんがポージングをしてくれたおかげで十分にいい写真ではあるのですが、夜にしか切り取れないかっこよさやエモーショナルさを出すために構図を少し変えて撮影してみました。
真正面から足先まで入れて撮影。先ほどに比べ、夜らしさが一段と増したように見えますね。クールな雰囲気と表情がとてもマッチしています。
「座る」という同じ動きでも、切り取り方や構図の作り方で写真のイメージは大きく変わります。
さらに渋く、かっこよく撮りたいと思いブレを加えて躍動感のある写真を撮影。
モノクロに仕上げることで非日常感や作品らしさを出した一枚です。
次の写真をご覧ください。
散歩途中にライトアップされた桜を見つけ、日中の爽やかなイメージとはまた違った雰囲気で撮影してみました。
写真右下を見ていただくと、背景に桜の影が演出されているのがわかりますね。
左側の木目と桜の影のバランスが魅力的で、画角に入れて切り取りました。
印象的でとても好きな写真です。
さて、突然ですが問題です。
この写真のシャッタースピードはどれくらいで撮影したと思いますか?
夜の撮影といえば、まずは明るさの確保やブレ防止の為にISO感度を上げますよね。
シャッタースピードが1/100以下を切ってしまうと、ISO感度が高くてもブレてしまう可能性が高いと思います。
実はこの写真、シャッタースピードは1/40、ISO感度は1000で撮影しました。
いわゆるスローシャッターでの撮影。
日中でも選択しない1/40というシャッタースピード。
ここでの設定値に関しては完璧に計算し尽くされたものではなく、どのような感じで撮影できるのかやってみたいという好奇心です。
F値は2.8に設定。モデルさんには少しだけ動いてもらうように指示をして、ストロボで被写体の顔まわりを照らしつつ目元のピントを捉える。
ここでの狙いは、環境を上手く利用するという事。夜風が少し強く車通りの多い場所だったので、風向きと車通りのタイミングを計っています。
あえてスローシャッターで撮影し、絶妙なブレ感を出しながら、サイドからの車のヘッドライトが被写体の前髪付近に当たることによってその光跡がぼんやりと残っています。
夜撮影と色の関係性
1) 自動販売機
夜撮影の定番ともいえる自販機を利用した撮影。
何種類かある自販機ですが、青みがかかった照明よりもシンプルに白い照明の自販機での撮影がベスト。
よくある構図として自販機の真横に被写体を立たせて抜け感をつくる画が多いと思いますが、撮影テーマによって構図を選択していくことが大切です。
人物を綺麗に引き立てる場合は、自販機の照明になるべく顔を近づけて真横からの撮影が適切と言えます。
ただ今回のようなエモーショナルな雰囲気での撮影の場合は、自販機を背にして顔に影も残しつつ構図として自販機の赤色を取り入れることも一つの手法です。
より自然になるような構図選びは、普段の自分の目線を撮影中にしっかり思い浮かべることが重要といえるでしょう。
2) 駐車場
まずはこちらの写真をご覧ください。
一見バランスの取れた写真ですが、よく見ると背景の情報量が多く、背の高いものが多い為に圧迫感が少しあるように見えます。
では次に、人物よりも目立つような無駄な情報を減らす方法としてモデルさんに座ってもらい撮影してみました。
座ることでメリハリをつけ、夜の駐車場らしさが出ているのが見て取れますでしょうか。
車止めのライン、地面の擦れたリアリティや、足を伸ばす少しヤンチャな構図が遊び心を足し、赤、黄色、緑などと様々な色を取り入れることによって、写真がより引き締まった印象になったかと思います。
色の主張が強く、喧嘩しそうな色ばかりだと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、
夜の撮影ではあえてはっきりとした色合いのものを取り入れることが、逆に写真を引き立ててくれます。
シンプルな構図の中に好きな色の要素を入れて楽しんでみるのも良いですね。
まとめ
今回は夜撮影について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
普段の撮影に少し拘りを持つことで、作品性は一気に上がります。
作品性を意識しつつも、被写体と呼吸やフィーリングを合わせながら楽しく写真を撮ることも大切に、夜の撮影の参考にしていただけたら嬉しいです。
■モデル:SERINA
■写真家:佐藤俊斗