佐藤俊斗 × ポートレートvol.4|寄り道ポートレート
はじめに
こんにちは。佐藤俊斗です。
今回のテーマは、オールドレンズで切り取る街撮りポートレート。
前回までの連載記事では、被写体の魅力の引き立て方や美しさなどにフォーカスした記事を書いてきましたが、第4回目の今回は、帰りにふらっと寄り道して撮りたくなるときのような写真本来の楽しさや、自分自身のこだわりのポイントなど、何気ない日常をテーマとして様々な視点から話していきたいと思います。
街撮りポートレートの色の使い方
次の写真をご覧下さい。
街撮りをする時は、スタジオでの作品撮りの様にかっちりと構図やポーズを決めたり、ルールを作る必要はあまりありませんが、私の場合はシャッターを切るその一瞬に判断をしていることが幾つかあります。
まず、人が写真を何となく見た時に、第一印象に残るものが色彩です。この写真の色イメージは、緑、衣装の白。その後に黒やオレンジ等と気が付いていきますね。ここで撮ろう!と場所を決める前提として、衣装と背景の色が被らないようにする事と、組み合わせる色調のバランスに気を付ける事が大切です。
今回の写真をご覧頂くと分かる通り、白の衣装に植物の緑、背景の青というシンプルな色使いです。余計な色を入れず、抜け感を作る事によって視線が被写体にぐっと寄せられ、バランスのとれた写真になります。
また次の写真をご覧下さい。
道端にたまたま果物が落ちていたので、拾っているような仕草をしてもらいました。これだけでもストーリー性が出て動きのある写真になると思うのですが、この写真への私のこだわりは、真横にあったオレンジ色の車を差し色として入れた事です。
無駄な情報になるのでは?と思った方は、車を入れていない写真も比較してご覧ください。より単調な写真になってしまうのが見て分かると思います。
白、オレンジ、緑。この3色のバランスは、古い街並みならではの色合いで、レトロな雰囲気を醸し出してくれます。
私はふとした瞬間にも基本的にシンプルになるように、且つバランスの良い色味を選ぶことを大切にしています。
背景の抜け感と被写体との距離
街撮りを行う事においての前提として、1番は人の写り込みを避ける事。
夏祭りや渋谷のスクランブル交差点などで人をわざと入れ、躍動感ある映画のワンシーンのようにする撮影方法もありますが、基本的には被写体を引き立たせる事が最も大切です。
では、被写体を目立たせるにはどうすれば良いのでしょうか?
その答えの1つが、背景に抜け感を作ること。私がロケで撮影する時によく心掛ける事の一つで、背景に抜け感が出るような場所を選んでいます。奥行きを作ることによって写真に立体感が出て、より被写体が引き立つようになります。
次の写真をご覧下さい。
被写体の後ろに奥の道が見える写真です。あえてど真ん中に立ってもらうことにより、奥行きや立体感が出ていますね。被写体が歩いて来ている動線や、奥行きのある坂を下っているシーンという事が一目で分かります。
よく引きの写真が多いと言われることが多いのですが、この写真においてもそうです。しっかりと被写体と背景との距離にも目を向けて、空まで写す事が大事だといえるでしょう。
それでは次の写真をご覧ください。
横断歩道が奥に見えているのが分かりますか?
散歩している途中に撮る写真において、定番といえる横断歩道との一枚。被写体には渡ってもらう前に振り返ってもらい、あえて渡っている人も入れて撮影しました。周りの人をわざと入れる事により、その一瞬だけ時間が止まっているように見えますよね。
会話をしながら歩く2人の距離感が伝わるような切り取りと、空気感を凝縮させた一枚です。
次は青空の写真です。
夏のポートレート撮影において、ど定番の青空を入れた写真ですが、ここにも私自身のこだわりがあります。
よくある構図として、お互い地面に立ち撮影者がローアングルから撮る事がほとんだと思います。しかし、この場所においてはローアングルだと限界があった為、広角で撮影する事になり、結果的に写真が歪んでしまいました。
そこで私がよく選ぶ撮影の方法として、建物の上や歩道橋など、被写体に1フロア分くらい上に上がってもらいます。こうすることによって、被写体が青空に近づき、理想的なアングルになるのです。
また、被写体を右下に写したのは何故だろう?と疑問に思っている人もいるかもしれません。
これについて解説すると、単純に空が広く見える角度だったから。被写体や建物を、青空が隠れない最適の位置に配置し、空をより広く見せるために左右対称的な建物に対してバランスを取りました。
この写真で何を見せたいかと言えば、自分と被写体との距離感。あえてすこし右下に配置して、印象的な空と見上げた先にいる被写体に目を奪われるような、そんな儚い雰囲気さえ感じられる写真です。
場所の意外性
この写真は、特に被写体との近い距離感が出ている写真といえます。
被写体に対しての声の掛け方や、距離感の取り方が難しいという質問をよくいただくのですが、もちろん初対面の人に3秒で笑ってもらうなんていうのはかなり難しいです。撮影が始まって、その人の性格や、どんなことが好きか嫌いかなどを少しずつ探っていき、距離感を少しずつ縮めてからどんどん撮影自体も面白くしていくのがいいですよね。
私がラフな雰囲気の街撮りをするときには、あえて「そこに行かせたらどういう反応するんだろう?」と、不思議な場所に行ってもらうことがあります。
この写真のように工事現場の柵だったり、変わった看板の前だったり。これをすると、え?と嫌がった顔をしたり、面白がりながら変なポーズをしてくれたりと、その反応はもちろん人それぞれ。全く違う反応をしてくれるので、その反応を見ながら撮るといい写真になることが多いです。
街撮りをしていて、どこで撮ろうかな?と迷った時には、小道や階段などの場所を選ぶと、より面白みのある写真になります。動きのある写真は、これからこの階段を上っていくのかな?それとも下りた後なのかな?と見ている人の想像力を掻き立ててくれます。
一見何も無い、普段だったら見向きもしない道だけれど、新たな魅力を発見していくのが街撮りの楽しさでもありますね。
おわりに
街撮りを何回もしているうちに、ここは木漏れ日の光が綺麗だな、この場所は桜が咲く場所だろうから覚えておこう、この街は夕焼けと相性がいいな、なんていう風にどんどん自分自身の感性として身に付いていきます。
しかし自分が写真を撮りたい!と思う場所の感覚は、常に流れるように変化していきます。その感覚が研ぎ澄まされて、撮影場所での瞬時の判断力が鍛えられていくのです。
今日の帰り道は3回曲がってから帰ろう、と自分の中でルールを決めて写真を撮る。曲がり方は人それぞれ、自分の選ぶ道次第。
真っ直ぐしか見てない人には全く予想もできないような、曲がった先の景色にしか見えないものがそこにはあったりします。
そんな風に、今日はいつもよりもちょっとだけ遠回りをして帰ってみると、新しい発見があるかもしれません。
■モデル:久保乃々花
■写真家:佐藤俊斗
「佐藤俊斗 × ポートレート」の連載記事はコチラ
■佐藤俊斗 × ポートレート vol.1|光の捉え方
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485296339/
■佐藤俊斗 × ポートレート vol.2 | 春を印象的に映し出す桜撮影テクニック
https://www.kitamura.jp/shasha/article/486127176/
■佐藤俊斗 × ポートレート vol.3|被写体の美しい捉え方
https://www.kitamura.jp/shasha/sony/a7r-iv-5-20220601/