ソニー α7R Vレビュー|風景写真家 高橋良典
はじめに
2019年9月にα7R IVが6100万画素でリリースされた時は、正直に言って「これほどの画素数が必要なのか?」と思ったものですが、長年使っていると高画素機ならではのメリットが見えてきます。それから3年強が経ち2022年11月に発売されたα7R Vは、月日を経て道具としての使いやすさ、レスポンスが大幅に進化!そして、同じ6100万画素ながら画質面でもブラッシュアップを果たしています。
今回のレビューはいつもと雰囲気を変え、作品ベースで「その写真を撮るためにα7R Vの機能がどう生きたのか?」を風景写真家目線でお伝えしてまいります。
実写
■写真1、2
立ち枯れの木々が氷に閉じ込められた様子をローアングル撮影。氷の密度感を表現しました。α7R Vのマルチアングル液晶モニターは「バリアングル式」「チルト式」どちらの使い方にも対応、両者の「どちらが良いか?論争」を全て払拭する優れものです。色々な目玉機能が新搭載されている本機ですが、私にとっては1番のトピックでした。
手持ち撮影時はもちろん三脚使用時でもL型プレートに干渉せず、横でも縦でも自由自在にローアングル撮影が出来るのが良いですね。
■写真3
気持ちの良い青空をバックに梅の枝ぶりを超広角レンズで強調。地面に近い位置からローアングルで手持ち撮影しています。チルト的に使えるとレンズとモニターの軸が揃うためフレーミングしやすく感じます。液晶モニターの解像度はα7R IVとほぼ同じですが、視認性がアップして明るい場所でも確認しやすくなりました。
■写真4
強風で舞う雪に朝日が射しこみます。肉眼ではキラキラとした華やかな世界に見えているのですが、写真としては静寂のイメージで描きました。歴代αから受け継がれてきた広いダイナミックレンジのおかげで空気感までが伝わります。
このようなシーンでは雪の玉ボケがどこに入るかは風まかせ。予測がつかないため連写を使うのですが、カメラ内のバッファ強化によりRAWで連写しても速度低下までの限界値が大幅に引き上げられました。カードへの書き込みも早くなり風景撮影のレベルでは待たされることはほぼ皆無。UHS-IIタイプのSDカード使用でも大満足でしたが、色々なジャンルを撮り、連写を多用するという方はスロット1の書き込みがより高速なCFexpressカード(タイプA)を使用すれば良いでしょう。その他の各種操作でもレスポンスの大幅向上を果たしており、道具としての使いやすさがアップしています。
また、カメラの前を無数に雪が横切っていく状況ではAFが手前側の雪にピント合わせをしてしまう事があります。カラマツ林からピントが外れてしまうこともありますので撮影しながらの確認は必須。α7R Vは電子ビューファインダーが944万ドット、倍率0.9倍。より高精細になった事で、ピント確認やMF時でのピント合わせが行いやすくなりました。(α7R IVは576万ドット・倍率0.78倍)
撮影時の気温はマイナス13℃、操作面では通常の気温時と比べても何ら変わらず動作に全く不安はありません。但しα7R IVと比べてバッテリーの持ちがやや悪くなっており寒冷地では特にそれを感じました。予備バッテリーを1つ多めに用意、ポケットの中で温めておき交互に使う等の対策がベターです
■写真5
太陽から発せられたような段上の雲がゴツゴツとした岩を引き立てます。海面に輝く光の道を強調するためND1000を使って低速シャッターを切りました。朝夕の撮影では輝度差を整えるハーフNDフィルターを使うことが多いのですが、水平線よりも上に主題が突き出している状況では不自然な明暗がついてしまい使えません。そこでDレンジオプティマイザーの効果を強めてLv4に設定。シャドウ部のディテールを描くことが出来ました。ソニーのセンサーはダイナミックレンジが広く、シビアな状況でも思い通りの画を描く事が出来ます。
■写真6
写真5と同じ場所での撮影です。日が沈み夕焼けも冷め始めた頃、海を見ながらカメラを片付けていると岩の窓部分に海鳥が行き来しているのに気づきました。肉眼で見ていても羽を広げたシルエットが美しく、再度カメラを取り出しました。望遠レンズを付け、バランスの良い額縁状になるよう構図を決めて三脚に固定。フォーカスモードは「AF-C」フォーカスエリアは「ゾーン」にして画面中央付近を選択。認識対象を「鳥」にセットして飛来のタイミングを待ちます。
あとは海鳥が枠内に入る直前のタイミングでシャッターを半押しすれば、しっかりと追従してくれます。新搭載のAIプロセッシングユニットの効果だと思いますが、それなりのスピードで飛んで来ているにもかかわらずきちんと合焦している事に正直驚きました。私自身、鳥のアップを撮ることは無いのですが、今後、風景の一部としての鳥の撮影に役に立ってくれそうです。
辺り一帯は既に暗いため絞りは開放。鳥がブレないようISOを6400まで上げています。多少のノイズは出ていますが作品としても十分に使えるレベルです。高感度性能に関しても歴代αからしっかりと受け継ぎ、磨きをかけてきたことを感じます。
カメラ右肩部分の露出補正ダイヤルから刻印がなくなり、露出補正以外に機能割り当てが出来るようになった点もグッド!私はISOを割り当てて使っていますがスピーディーに変更出来るようになりました。
■写真7
霜が降りた真っ白な奈良公園。逆光に照らされ、融け始めた霜のキラキラを低い位置から前ボケで扱いました。小鹿はほぼシルエット状態でしたが動物認識AFがしっかりと捉えます。一見、ほぼ黒つぶれにも見える鹿のシャドウ部分を撮影後に画像処理で少し起こしています。ここでもαシリーズのダイナミックレンジの広さが活きました。
■写真8
冬は森が明るくなる季節。低い光が苔を照らします。α7R IVと同じ6100万画素でありながらα7R Vで撮影した写真からは、より奥行感やその場の気配が感じられます。単純に解像感が増したと言うよりは「解像」「色の深み」「ダイナミックレンジ」その他が相乗効果で高め合い、写真そのものが厚みを増したような感覚です。
早速全紙サイズに大伸ばしプリントしてみると、その真価がより感じられる結果に大満足。小さな画面だけで鑑賞するのはもったいないと感じさせる程のまさに“写真”画質です。さらにGマスターレンズやGレンズが、それを引き出します。
■写真9
冬枯れの森。雪面に落ちる影の曲線を望遠レンズで切り取りました。かなり遠い所を狙っており、何気なく見ていると通り過ぎてしまうような風景かもしれません。解像感を高めるためF11まで絞っています。私自身、冬が最も好きな季節で繊細な風景に惹かれます。明部~暗部にかけてのグラデーションと細かな木々の模様の解像感が1枚の画の中にリズム感を作り出します。
■写真10
厳しい冬に花を咲かせるバイカオウレン。ぽつぽつと咲く可憐な花とその空間を弱い光で表現しました。真上から平面的に撮影しているように見えますが真ん中にあるのは切り株。地面との距離差があるため絞り込まないとパンフォーカスにはなりません。しかも群生に足を踏み入れるわけにはいかないので液晶モニターの角度を自分に向け、道路から片手を目いっぱい伸ばして手持ち撮影しています。重量とサイズ感はα7R IVからほぼ変わっておらず、αシリーズのコンパクトさのありがたさを感じます。
シャッタースピードは1/8秒。低速かつ不安定な体勢でしたが、8段分に強化された手ブレ補正のおかげで思い通りに描く事が出来ました。一部手ブレ補正機能内蔵レンズとの組み合わせでは、ボディとレンズで強調制御が行われさらに安定度が増します。対応レンズ(2023年2月28日現在)は以下の4本です。SEL24105G、SEL70200GM2、SEL100400GM、SEL200600G
■写真11、12
100-400mmのズームレンズに1.4倍のテレコンバーターを装着。さらにAPS-Cモードを使うことで換算840mmの超超望遠で対岸にある氷の造形を切り取りました。遠いため肉眼でハッキリ形は見えていませんが、レンズを通して引き寄せることで川面の水しぶきが作り出す面白い形に気付きます。
6100万画素の本機の場合、APS-Cモード時の画素数は約2600万画素。大伸ばしのプリントでも十分に足ります。またトリミング耐性も高いと言えます(だからと言っていい加減に撮るのは良くありませんよ)。どうしても望遠が足りない時や、最短撮影距離まで近寄ってさらに大きく被写体を捉えたい時などに有効で、私自身が高画素機を使っていて最もメリットを感じるのはこの部分です。
これだけ望遠でのクローズアップ撮影だとブレを起こしやすいため、リモコンを使ってシャッターを切るのはもちろん、微振動さえ起きないようサイレントシャッターに設定して撮影しています。
こちらも100-400mmで撮影。氷の牙城をイメージして換算焦点距離550mmで引き寄せます。本来ならテレコンバーターを装着するのですが、小雪舞う中ではレンズ交換がしにくいのでAPS-Cモードを活用しました。撮影時に「もっと望遠があれば・・・」と思うことは案外多いもの。高画素機を使う事はより望遠側の画角を手に入れることが出来るとも言えます。
α7R IV以降6100万画素機を使ってきて感じたことは、普段は高画素が必要なくても必ず生かしどころがあり、それが撮影の助けになってくれることです。とは言えやはり「画像サイズが大きすぎる・・・」と感じる方もいらっしゃるでしょう。α7R VはRAW撮影でも(ロスレス圧縮選択時)L、M、Sの3種類のサイズが選べるようになりましたので、Lサイズが不要な方は程よい画素数(2600万画素)のMサイズに設定すれば良いでしょう。私自身も風景以外の撮影時でLサイズでは大きすぎると感じた場合はMサイズを活用しています。なおSサイズでは約1500万画素となります。
■写真13
暮れゆく白川郷。静寂の中、明かりが灯り始めると日本の原風景がより色濃く感じられます。暗くなればいつでも撮れると思われがちな夜景写真ですが、撮影のベストタイミングは結構短い時間だったりします。私が目安にしているのは日没後15分~30分くらいの薄暮から完全に暗くなるまでの時間帯です。
高感度を使えば何とか手持ち撮影も可能ですが、この空気感を表現するにはやはり三脚を使用して撮影するのがベスト。次第に辺りが暗くなり絞り優先オートでの最長露光時間30秒を越えてくるとバルブ撮影に切り替えます。従来は時計を見ながら露光時間を計っていたのですが、本機に搭載されているバルブタイマーを使えばその必要はありません。あらかじめ秒数をセットしておけばバルブ時でも設定した時間でシャッターが閉じます。設定可能な最長時間は999秒。この点においては星の長時間露光などの事を考え、もう1桁増えると良いと感じました。また、タイマーを設定しない時でもバルブ時の露光経過時間が表示されるようになりました。そして低照度-4EVまでAFが対応できるようになり、暗い所での撮影が楽になったのも嬉しいポイントです。
まとめ
いつもと少し趣向を変えてのレビューをお送りしましたがいかがでしたか?本機を使い始めて約3か月が経過しましたが、かゆい所にも手が届く仕上がりでα史上最高の出来!と言っても過言ではないと感じました。高画素機のメリットは記事中に書いた通りですが、とは言え従来機α7R IVは6100万画素がやはり不要だとおっしゃる方にはそれ以上お勧めできなかった部分があります。しかし本機ではその出来栄えの良さに加えて、程よい画素数が選択できるようになった事から、すべての方にお勧めできるカメラだと言えます。手に取ってしまうと本当に欲しくなってしまうかも・・・?
最後までお読みいただきありがとうございました。
【2023/3/18】高橋良典さん登壇のα7R Vを紹介するソニープロカメラマンセミナーを開催
2023年3月18日(土)講師に高橋良典さんをお招きして、SONYフルサイズミラーレスカメラ”α”の魅力を紹介するセミナーを開催します。その中で今回の記事で紹介したα7R Vを使った高画素機の魅力やα7R Vに標準ズームレンズ、望遠ズームレンズ、単焦点レンズを装置して撮影した作例を通して、それぞれの特長を解説していきますので、是非ご参加ください。
開催場所は新宿 北村写真機店の他、全国のカメラのキタムラ17店舗でもライブ中継にて開催いたしますので最寄りの店舗でご参加ください。
【概要とお申込み】
■開催日時:2023年3月18日(土)【第一部】11:00~12:00【第二部】14:30~16:00
■費用:無料
■場所:新宿 北村写真機店 6F ライカヴィンテージサロン、ライブ中継先店舗
■定員
□新宿 北村写真機店:各部12名
□ライブ中継先店舗:下記店舗一覧より希望店舗へお問い合わせください。
■お申し込み方法
□新宿 北村写真機店 1部:こちらよりお申込み
□新宿 北村写真機店 2部:こちらよりお申込み
□ライブ中継先店舗:下記店舗一覧より希望店舗へお問い合わせください。
■申込み期限:2023年3月15日(水)21:00
【ライブ中継先店舗一覧】
募集状況やお申込み、ご質問などはお申込み希望店舗へお電話ください。
■北海道:釧路/釧路店
■青森県:弘前/高田店
■山形県:山形/馬見ヶ崎店
■東京都:東久留米/東久留米店
■茨城県:つくば/つくば店
■長野県:松本/渚店
■埼玉県:春日部/ユリノキ通り
■静岡県:浜松/柳通り店
■三重県:四日市/西浦店
■富山県:富山/掛尾店
■京都府:京都/亀岡店
■大阪府:大阪/なんばCITY店
■大阪府:豊中/豊中店
■鳥取県:鳥取/鳥取店
■香川県:高松/高松南店
■山口県:下関/幡生店
■宮崎県:宮崎/中央店
【高橋良典さんプロフィール】
1970年、奈良県生まれ。2000年よりフリーの写真家となり写真事務所「フォト春日」を設立。パンフレット、ポスター、カレンダー等へ風景写真を中心とした作品を提供。また、写真雑誌や出版物への写真提供及び原稿執筆を行う。日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
高橋良典さんShaSha執筆記事はこちらからご覧いただけます。