デジタル時代の発想転換でワンパターンから脱却|vol.3 桜撮影新発想:思い切った広角構図にチャレンジ
はじめに
さて過去2回に渡り「手ぶれ補正を信じることで激変するバリエーション」、「風景撮影に使うAFモードの概念を変えてみる」、「アングルブラケット・ズームブラケットという発想」など進化したデジタルカメラ時代の発想転換についてご紹介してきました。
いよいよ始まる(既に始まっている地域もあるでしょう)桜の撮影で、それらの発想転換を活かしてみられてはいかがでしょうか。
今回は河口湖と桜の光景で幾つか作例をご紹介しますので、参考にしていただければ幸甚です。
河口湖畔の桜は富士山と絡めることができるので、国内だけでなく海外からも多くの人々が観光で訪れる人気スポットです。富士山に限らず桜が見事なエリアはどこも同じように混み合うでしょう。私はこのようなシチュエーションでは多くの場合、三脚やカメラバッグなどを持たずにズームレンズを装着したカメラ1台(場合によって2台)を首に下げて手持ち撮影します。三脚や大きなカメラバッグを持たないことで他の人々にストレスを感じさせることなく、身軽で、しかも多彩な構図で撮影することができるからです。
広角構図にもチャレンジ
富士山に限らず近景の桜と遠景の被写体を一枚に収める時、次の写真(焦点距離70mm)のように中望遠で撮影する場合が多いのではないでしょうか。桜に近づけなければ必然ですが、もし近づくことができる低い枝があれば、広角レンズで思い切った構図にチャレンジされてはいかがでしょう。
次の一枚は16mmの広角で桜に近づいて撮ったものです。撮影時は桜の枝の流れ、ボートの位置、富士山と枝の先端との距離、画面下部の障害物を避ける事を意識しています。EVFを覗きながらバランスの良い構図を見出してシャッターボタンを押すまで、慣れれば数秒程度しかかかりません。
三脚を使うと非常に時間がかかるか、三脚の高さが足りなくて撮れない構図です。
次は16mmのまま、さらに桜に近づいた一枚です。
簡単に撮れそうですが、広角だといろんなものが入ってくる上、桜に近づけば近づくほどわずかにレンズを振るだけで桜が富士山に被ったり、位置がズレたりするので意外と難しいものです。
※観光地で注意していること:桜の花に近づく時は、後ろで撮影する人がいないか注意し、人がいる場合はひと声かけてOKをもらってから前に出て手短に撮影し、撮影後は速やかに離れるか交代するように心がけています。また足下に踏み込んではいけない場所がないか、散りやすい桜の花や枝に触れないように注意しています。後ろに移動する時も人とぶつからない様に必ず周りを確認しています。
次は逆に桜の幹に近づいて、湖に向かって伸びる大きな枝との距離を微妙に調整しながら撮影した一枚です。実際は頭上に張っている枝ですが、広角で上にあおるように撮っているので垂れ下がる花のカーテンの様に写すことができます。
次は枝の流れが美しい所を見つけたので、幹と枝先端の中間位置にかがみながらレンズをやや上に向けて撮っています。
EVFかモニターを見ながら良いと思った瞬間にシャッターを押すだけなのですが、不安定な姿勢となるので少しでもグラつくと桜が富士山に被ったり、水平が大きく崩れるなどしてしまい最初は思った様にできないかもしれません。
水平のわずかなズレは後から修正できるのであまり気にせず、この場合は富士山と桜の枝の関係に集中して何枚か連続で撮ってみましょう。慣れればバランスの良い一枚が得られる様になります。
広角レンズだからこそ必要な3D(3次元)発想
近景に桜、遠景に富士山のような光景を広角レンズで撮影する時、過去にご紹介したアングルブラケット撮影やズームブラケット撮影、リアルタイムトラッキングAFなども活用することで、短時間で多彩な構図が得られます。
しかし、この場合はズームに頼りすぎると更に多彩な構図を得られる機会を逃してしまいます。
広角レンズを通して見ると、近景の被写体(今回の作例では桜)に近ければ近いほどカメラの位置がほんの数cm動くだけで大きく構図が変化します。その変化は肉眼で見ているよりも広角レンズを通して見る方がずっとダイナミックです。
そのためEVFやモニターを見ながら上下・左右・前後、更にカメラの回転も考慮してカメラや自分自身を移動させながら構図のバリエーションを見出すことが大切になります。
ポイントはカメラの位置をどこにするか3D(3次元)発想で考えることです。
実際に3D発想で撮影した一連の作例をご紹介しますのでご参考になれば幸いです。
下の一枚は枝ぶりの良い場所で、普通の立ち位置で撮影しました。
枝の先端が富士山に掛かっているので、少し後ろに移動し、腰を落としながらレンズを上に向けてゆき、枝が富士山に被らなくなった瞬間に次の作例を撮影しました。画面上方の太い枝と左下の看板が目立ちますが、トリミングによって縦横様々な構図も得られるようにあえて画角を広く撮影しています。
前の一枚で良い構図が撮れたからと、別の場所に移動してしまうともったいないことになります。この場所で別の構図バリエーションを見出すため3D発想を思い出しながら自分自身が動いてみるのです。
16mmのまま前の写真に写っている左先端の枝に近づいてEVFを覗くと、右側の枝が跳ねる様に伸びて富士山に向かうY字の枝も力強かったので、すかさず撮ったのが次の一枚です。この時、枝の先端と富士山の間の空が広すぎず狭すぎずとなる様に注意しています。
わずかな位置変化で桜の印象が大きく変わるため、重要なポイントはEVFやモニターを覗きながらカメラ位置を前後左右上下に微妙に動かして、最も印象的なバランスを素早く見つけ出すことです。
上の写真の構図が良い印象だったので、3D発想で更に構図の変化を求めて少し右後方に動いてみます。Y字の枝の印象が変わりこちらも素敵だったので迷わずシャッターを押します。
この様に良いと思った構図を見つけた時、前後左右上下に少し動いてみると別の良い構図が得られる場合があります。この時、肉眼で見ただけで判断せず、必ずEVFかモニターを見て広角レンズならではの構図を確認して判断することが重要です。
まだまだ3D発想は続きます。もっと枝の先端に近づくと、どう見えるだろうと考えます。そして、自分自身が再び前に移動してみると桜の花房が大きくなり、一味違う一枚が得られました。この様な場合、後ろで撮影を待っている人がいないか確認するとトラブルを減らせます。
もっと前に移動してみようと更に近づくと、次の一枚のように湖岸が大きく入ってしまいます。ここでズームインして画角を絞っても良いのですが、広々感が乏しくなります。そこであえて16mmのまま湖岸も入れて撮影。
変化の乏しい湖岸が広くなり看板も入ってしまうので避けたくなる構図ですが、トリミングする事を前提に撮影しています。
上の一枚をアスペクト比16×9でトリミングすることで、湖畔の広がりと大きな桜の花房が印象的な構図となりました。
高画素時代にあって撮影後のトリミングを第二の撮影と考えることができます。意図なくむやみにトリミングすることは得られるものが少ないのですが、意志を持ったトリミング前提の撮影は高画素時代の恩恵を活かせる有効な手段の一つだと言えます。
誌面の制約でご紹介できませんが、この場所では3D発想で更に多くの構図バリエーションを撮っています。
次の項目では更に大胆な3D発想の撮影をご紹介します。
攻めの3D発想にチャレンジ
さて、3D(三次元)発想についてご紹介してきましたが、ここでは更に攻めの3D発想をご紹介しますので機会があればチャレンジしてみてください。
花に大胆に近づきカメラを上下左右に微妙に動かす、背伸びして構える、腕を思い切り前に伸ばして構えるなど一味違った3D発想を駆使します。ただし、桜にとても近づくことになるので花や枝に触れない様に細心の注意が必要です。
次の一枚は枝の下で桜にグッと近づいてカメラを構えています。これだけ近づくとピントを桜に合わせるか富士山に合わせるか迷いますが、この場合は画面中心の花にピントを合わせています。上述でご紹介した作例と同じように富士山の上に桜が配置される構図ですが、花房の存在感がより印象的になります。
次の一枚は、枝と枝の間から富士山が見える部分を見つけて得たものです。ここまで花に近いと数mmカメラがズレたり、花がわずかに揺れるだけでも花房が富士山に被るので、シャッターを押す反射神経も求められたりします。考え過ぎずに良いと思ったらシャッターを何度か押して、後で選ぶ様にすると良いでしょう。
この一枚では富士山にピントを合わせていますが、「風景撮影に使うAFモードの概念を変えてみる」でご紹介したリアルタイムトラッキング機能を活用するのも良いでしょう。
注意することは、花や枝に触れない様にする事はもちろんですが、背後や周りで撮影を待つ人がいる場合、構図に熱中し過ぎて時間をかけ過ぎない様にすることです。上手く行かない時は、一度交代して後ほど再度トライする方が落ち着いて撮影できてうまくいくこともあります。
さて、次は桜の花の上からになりますが、EVFを覗きながらでは不可能なことが多い構図です。モニターで中央付近の花房にピントを合わせながら、場合によっては背伸びや腕を上に伸ばした状態で微妙なカメラ位置を調整して撮影することになります。かなり難易度が高くなりますが、成功すればいつもと違う素敵な構図が得られる可能性があります。
下の一枚ではトリミングを前提に広角で撮影し、画面下に入ってしまう煩雑な部分を2×1のトリミングで外しています。
次は更に難易度が高い構図です。腕を上前方に伸ばしながら、ピント、ボート位置、富士山位置、向こう岸と花の被り具合、画面下の湖畔を最小限にして、花に触れない様に注意しながら押しにくいシャッターボタンをどの様に押すかなど、様々の要素を考慮する必要が求められるからです。もちろん極めて微妙な3D位置調整も求められます。
この様な場合、完璧な構図で撮影する事はほぼ不可能なので、理想の構図よりもかなり広い画角で撮影し、後から余分に写った部分を切り取って最適な構図を得る事を前提としています。トリミングは第二の撮影と考えて高画素のメリットを活かす撮影方法と言えるでしょう。
次は今までの応用で上下を花で挟まれた構図です。
次に後からトリミングした一例をご紹介します。
下の一枚は4つ上の作例のトリミング前ですが、最初から完璧な構図で撮影するのは困難なので、広めの画角で撮影しています。
後から白線の様に切り出すことで、バランスの取れた構図を切り出した一枚です。
まとめ
「デジタル時代の発想転換でワンパターンから脱却|vol.3 桜撮影新発想:思い切った広角構図にチャレンジ」というテーマで「広角構図にもチャレンジ」「広角レンズだからこそ必要な3D(3次元)発想のすすめ」「攻めの3D発想にチャレンジ」と三つご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。
ここでご紹介した3D発想を意識することで新しい構図や、斬新な構図が見えてくるかもしれません。特に「攻めの3D発想にチャレンジ」は高画素、高性能デジタル時代だからこそ可能になったと言えます。チャレンジしていただくことでワンパターンから脱却する機会となれば嬉しい限りです。
■写真家:TAKASHI
2011年から富士山をメインテーマに風景写真を撮り続ける富士山写真家。主な所ではNational Geographic Traveler誌の2018年6/7月号表紙に採用されSony World Photography Awards 2018日本3位受賞、WPC 2022 (ワールドフォトグラフィックカップ)で日本最高得点を受賞。作品は世界各国のT V番組・写真集・専門誌・カレンダーなどで数多く紹介・掲載されている。
2019年1月銀座ソニーイメージングギャラリー、2020年1月銀座MEGUMI OGITA GALLERY、2023年3月あさご芸術の森美術館、他で写真展を開催。透明感のある美しいカラー、ダイナミックなコントラストのモノクロ、深みがあり記憶に残るブルーインクシリーズと多彩な作品を世界に発表し続けている。