ソニー FE 35mm F1.4 GM|シャープな解像感と美しいボケ味を両立する大口径単焦点レンズ
はじめに
2021年3月12日にソニーから発売されましたフルサイズEマウント用レンズ「SEL35F14GM」のレビューです。大好評のGMシリーズとして待望の定番焦点距離35mmのレンズが満を持しての発売という事で、期待値も高く実写するのが楽しみなのですが先ずは外観から。
従来のGMシリーズと同様の外観で、最高級ラインナップとして申し分のないしっかりとした造りになっています。絞り環と動画撮影時に便利な絞りクリックのオンオフ切替スイッチ、AF/MF切替スイッチ、他の機能に割付可能なフォーカスホールドボタンと機能的にも充実しています。そしてフルサイズ用35mmF1.4としては凄く小型軽量なことに最も好感を持ちました。それではここからは実写を交えて、お話させて戴きます。
ポートレート
まずはポートレートに使用してみました。今回、協力してくれたモデルさんは世界最大規模のミスコンテスト、ミス・グランド・インターナショナル2020 日本大会グランプリ受賞者の佐治瑠璃さんです。開放F1.4で撮影しているのですが、ピント面の透き通る美しい瞳には撮影する私がしっかりと写り込んでおり解像感の高さが分かります。ボケは柔らかくなだらかで、嫌な滲みも無くスッキリとした立体感を出してくれます。
全身撮影の構図で横顔に近い状態でも瞳AFがきっちり作動しており、フォーカスをカメラとレンズに任せて、階段を下りるモデルさんの左足が階段の地面に付いた瞬間を切り取れるレスポンスの良さに満足しました。このレンズをポートレートに使用して感じた事は、透き通るような透明感の有るレンズという印象です。この透明感というのがポートレート撮影においてレンズ選びの凄く重要な要素だと考えているので、最初の撮影で早くもSEL35F14GMを好きになりました。
撮影日は雨だったのですがこのレンズとモデルさんの透明感に助けられた撮影となりました。加えて、レンズもボディも防塵防滴に配慮した設計になっているので安心して撮影することが出来ました。
風景
次は風景撮影です。一枚目は滋賀県高島市、琵琶湖岸の私の定番お気に入りスポットでの撮影です。夕暮れ時に優しい紫に包まれた琵琶湖と空に癒されながらシャッターを夢中で切りました。空と湖の淡い紫とコントラストの微妙な雰囲気を再現出来るかは、最終的にレンズに掛かっていると言っても過言では無いのですが、GMシリーズは本当に素晴らしくこのレンズも期待に応えてくれました。
次は同じ滋賀県の守山市での撮影。早咲きの菜の花畑を開放F1.4で撮影。ポートレート撮影で確信した美しいボケを表現に使用して、ピント面の菜の花を浮き立たせてみました。発色に関しては先程の淡い色彩とは逆に今度は原色の被写体ですが、菜の花の黄色と茎や葉の緑、そして空の青、どの色も鮮やかに映し出してくれました。
もう少しボケを楽しみたくなったので、続けて開放F1.4で被写体に寄りながら構図に前ボケも入れて撮影してみると、想像通り前ボケも柔らかくて優しい雰囲気になりました。風が強かったのでトラッキングAFを使用しての撮影です。勿論ボディ性能も大きな要因なのですが、レンズのAFスピードが速くて正確なので、トラッキングAFを使用する事により風に揺れる花を合掌し続けてくれ、シャッタースピード1/8000で揺れる菜の花も簡単にクッキリと止まってくれました。定番だけど菜の花には青い空が良く似合う。
ここまで撮影してみて、このレンズの開放F1.4でのピント面の解像感と美しいボケを利用した立体感のある描写が凄く気に入ったのでもう一枚。逆光に揺れるススキをシャッタースピード2/5秒で少し揺らして撮影してみたのですが、イメージ通り日没の赤い太陽がススキを赤く色付かせノスタルジックな雰囲気にしてくれました。このカットの撮影中、逆光状態の色々な角度で構図を決めている最中に全くと言って良いくらいフレアもゴーストも発生せず、ナノARコーティングⅡの高い逆光耐性の素晴らしさを改めて感じる事が出来ました。
ZEISS製35mm F1.4レンズとの違い
ここで少し私が気になっている事についてお話させて戴きます。SONYからは実はというか既にフルサイズ用Eマウントの35mmが存在しており、しかもあのZEISSブランドなのです(型名:SEL35F14Z)。正直どっちが良いのって気になりますよね?(以下レンズ表記について、省略してGMとZEISSと書かせて戴きます)
まずは外観の比較ですが、写真の通り明らかにGMの方が小型軽量化されております。サイズとしてはGMがフィルター径67mm、最大径76mm×長さ96mm、重量524gに対して、ZEISSがフィルター径72mm、最大径78.5mm×長さ112.0mm、重量630gと完全にワンサイズ違うレンズという位の差が有ります。
また、ZEISSにはAF/MF切替スイッチとフォーカスホールドボタンがありませんでしたが、今回GMにはそれらが搭載されています。現行の最新機種は十分に優れたAF性能を持っており、個人的にはMFへの切り替えはほとんど必要なくなりましたが、α7 IIなど少し前の機種をお使いであればシビアなピント合わせでAF/MF切替スイッチが活躍することでしょう。フォーカスホールドボタンも主にポートレート撮影での右目左目切替に使用する事が多く重宝しています。フォーカスリングの動きに関してもGMレンズの方が粘りがあり、MF時に合焦させてからズレにくい印象です。
ここからは実際に撮影に使用してみた私の素直な印象の違いをお話させて戴きます。私が感じた違いは大きく4点ありました。まず1点目の違いは、α7シリーズのボディに装着時のバランス差が大きいという印象です。GMはレンズ後方に重心があり撮影時の安定感が有るのに対して、ZEISSは重心が前寄りな事と大きく重い事も含めてかなりバランスが悪く感じました。やはり撮影時の安定感を考えるとバランスは良いに越したことは無いと思います。
2点目は開放時の解像感です。これについてはメーカー公表のMTF曲線を見ても解るのですが、決してZEISSが悪い訳では無くてGMが凄すぎるといった印象が強く、実際にGMで開放F1.4の撮影をしてみると納得してしまいます。
3点目は逆光耐性についてです。これについては今までZEISSを使用してかなり不満を持っていた部分でも有ったのですが、盛大にフレアやゴーストが出るので逆光での撮影時ではフレアとゴースト有りきでの構図を考えて撮影しておりました。対してGMは上記作例の通り逆光の太陽を構図にそのまま配置しても、殆どの場合全くと言って良い程フレアもゴーストも出ませんでしたので本当に驚きました。因みにこの写真ですが、滋賀県大津市の坂本城跡で撮影しており、後ろ姿は明智光秀公です。少々『麒麟が来る』ロス中の私で失礼しました。
そして4点目は最短撮影距離の差です。これが私にとって一番大きな違いとなりました。簡単に言うと被写体にどれだけ寄れるのかという部分ですね。これに関してはZEISSを使用されている方は感じている方が多い点だと思うのですが、特にポートレートやテーブルフォトの撮影時に「何でもう少し寄れ無いの!」と悔しい思いをすることがよく有ります。
それに対してGMは物凄く寄れます。実際にイチゴを盛ったお皿を最短撮影距離で撮り比べて見ましたが1枚目がGM、2枚目がZEISSになります。一目瞭然ですがGMの方が圧倒的に寄れるという事が解ります。この2枚の撮影時の絞りはどちらも開放F1.4なので、解像感も比べて戴くと違いが解ると思います。
結果、比べてみると殆どの面でGMが勝っているという感想なのですが、時の流れというより技術者の方々の努力の結果というべきですね。そもそもの発売時期が全く異なりますし、実際に私はZEISS発売当時はZEISSがAFで使えることに狂喜乱舞しておりました。そしてレンズの良し悪しは数値だけでは無くてそれぞれの好みという部分が大きく関与しますよね。そこの所が一番難しいのですが、レンズ選びの一番楽しいところでも有りますよね。(このSEL35F14GM発表とともにSEL35F14Zが値下げされ、ビックリしたのと同時に更に悩ましい事になりました。)
スナップ
最後にスナップ撮影をしてみました。見つめ合うショーウインドウのマネキンの写真ですが、これも開放絞りF1.4で撮影。ピントを合わせた側のマネキンのシャープな解像感がこの写真の雰囲気を支えております。
こちらは絞りF9での撮影ですが、やはり絞り環が有るとレスポンス良くリズミカルに撮影出来るので嬉しいですね。開放での解像感も良いのですが、やはり絞った時の解像感は素晴らしくて構図の隅々まで更にシャープな線を描いてくれました。
さいごに
最近、新しいレンズが発売される度に、これ以上良いレンズなんてもう出来ないんじゃないかと思う事が多いのですが、良い意味で裏切られ続けています。その中でも今回のSEL35F14GMは本当に素晴らしくて次の時代を感じるレンズでした。是非お手に取って確かめて欲しいです。
■写真家:葛原よしひろ
ジャンルに捉われず何でも撮影するマルチプレイヤースタイルの写真家。カメラメーカー等の写真セミナー講師としても全国的に活動している。大阪芸術大学写真学科卒、滋賀県高島市公認フォトアドバイザー、JPS(日本写真家協会)正会員