目からうろこ!並木隆の花撮影術|あなたの知らなかったマクロレンズの使い方

並木隆
目からうろこ!並木隆の花撮影術|あなたの知らなかったマクロレンズの使い方

はじめに

花撮影といえばマクロレンズを思い浮かべる人は多いと思いますが、そのマクロレンズを使いこなせている人ってどれだけいるでしょう? 今回はマクロレンズがどんなレンズで、どうやって使えばいいのかっていうことを一から説明していきますよ。

マクロレンズとはなんぞや?

例えば、通常のレンズは焦点距離が100mmなら最短撮影距離は80cm前後が多いですが(最近はどんどん短くなっています)、同じ焦点距離でもマクロレンズでは30cmくらいの最短撮影距離をもっているので、通常のレンズよりも大幅に被写体に近づいてピントを合わせることができます。結果として小さい被写体を大きく撮ったり、被写体の一部分を切り取るなどの近接撮影能力に優れたレンズとなっているわけです。

一般のレンズでも中間リングやクローズアップレンズといったアクセサリーを使ってマクロレンズのような撮影はできますが、収差などの影響で下の写真のようにぽわーんとした画質になってしまいます。マクロレンズはこのような画質の低下を光学的に補正してピントの合っているところがシャープになるようしたり、ボケの美しさやなめらかさにこだわっているレンズなのです。

その近接撮影能力をわかりやすくするためにマクロレンズでは「倍率」というワードが使われていて、等倍、1:1という表記を一度は見たことがあると思います。これはセンサー上に写る像と実際の被写体が等しい大きさになる状態のことなんですが、センサー上に写る像を目視することができないのでちょっとわかりにくいんです。フィルムならネガと被写体を並べれば一目瞭然だったんですけどね。

直径1cmの1円玉を写したとき、センサー上に写っている像も同じ1cmの大きさなら等倍・1:1、半分の5mmなら1/2倍・1:2ということになります。だからセンサーサイズよりも大きな被写体を等倍で写すと画面からはみ出て切り取ることになるので、結果として一部分を大きく写すことになるのです。

▼等倍

▼1/2倍

これはフルサイズセンサー搭載カメラで等倍のレンズで撮影したものですが、同じ倍率でもセンサーサイズが小さくなると写る範囲が狭くなるので、より高い倍率で撮影したように写ります。フルサイズで等倍でも、フォーサーズなら2倍相当の倍率になります。倍率だけで考えるとセンサーサイズの小さいカメラの方が大きく写るのです。

マクロレンズの焦点距離による違い

マクロレンズには焦点距離で標準系(30~50mm)、中望遠系(90~120mm)、望遠系(180~200mm)と大きく分けて3つあります。
焦点距離に違いがあっても倍率が同じなら撮れる大きさも同じです。じゃぁ焦点距離は関係ないのか? というと、大きな違いがあります。

それがワーキングディスタンスです。
ワーキングディスタンスとは、レンズを向けたときの被写体からレンズの先端までの大雑把な距離のことです。

等倍のときのワーキングディスタンスは標準系が約7~8cm、中望遠系が約14~15cm、望遠系が約24~25cmくらいになります。同じ倍率であれば焦点距離が短いほど被写体に近づかなければならず、逆に焦点距離が長くなるほど離れたところから大きく撮れるというわけです。つまり、マクロレンズの焦点距離の違いは倍率ではなくこのワーキングディスタンスの違いとなります。

それならワーキングディスタンスの長い望遠系マクロの方が有利じゃん! と思いがちですが、ワーキングディスタンスの短い標準系にも、長い望遠系にもそれぞれメリットデメリットが存在します。

標準系マクロレンズは被写体に近付かなければ大きく撮れないため、順光ではレンズの影が入ってしまったり、自分の影で被写体を覆ってしまうなど光の使い方に制限が出てしまいます。しかし、真上や真下といったアングルの自由度はマクロレンズ随一。30センチ程度の高さの花でも真下から狙えるので、標準系マクロレンズでなければ撮れない作品を撮ることができます。軽量・コンパクトでマクロレンズの中では低価格なので入門者向けのようなイメージをもたれるかもしれませんが、アングルを極端に変えないと真価を発揮しないので実は上級者向けのレンズなんです。

望遠系マクロレンズは廃番になるものがほとんどでしたが、最近では中一光学の「APO 200mm F4 MACRO 1X」や、オリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」など新しいレンズが登場しています。ワーキングディスタンスの長さが最大のメリットで、近付いたら逃げてしまう昆虫を離れたところからクローズアップできたり、前ボケとなる被写体を多く取り込むことができます。
しかし、その長いワーキングディスタンスがあだとなり、アングルの自由度が少なく作品のバリエーションを作り出すのが難しいレンズでもあります。

標準系と望遠系にはこのように一長一短があり、完璧ではないにしてもそれぞれのメリット、デメリットを上手く補っているのが中望遠系マクロレンズとなります。それほど重くなく、適度なワーキングディスタンスで使いやすく手軽さもあるので、最初に購入するなら絶対に中望遠系をオススメします! それを裏付けるように、純正、レンズメーカー製を含めて一番ラインナップが多いのはこれが理由です。

ピント合わせは難しい

マクロレンズで最も難しく、最初にぶち当たる壁がピント合わせです。AFではジーコジーコとピントリングが前後するだけでなかなかピントが合わず、イライラしたことがある人も多いはず。等倍とまではいかなくても高倍率で切り取るような撮影をするときはMFで撮影しましょう。通常のレンズではピントリングを回してピントを合わせますが、マクロレンズでは倍率が変わってしまうので、ピントを合わせるために回すのではなく倍率を調整するために回すと考えましょう。等倍で写したいなら最短撮影距離までピントリングを回します。

そこでファインダーを覗くとボケボケですから、そのままカメラごと被写体にジワジワ近付いていきましょう。だんだん見えてくるようになったらもうちょっとです。ハッキリ見えたらそこがピントの合っているところってことです。でも、ここでピントの合っている状態をキープしながら撮ろうとしてません? 完全に静止することはできないので逆にズレてしまいますよ。動きを止めようとせず、前後にゆっくりゆっくり動きながらピントの合った瞬間にシャッターを押すのが手持ちでピントを合わせるコツです。

ピントが合わなかったからといってガッカリする必要はありません。等倍・開放絞りという条件では被写界深度が1mmしかなくなるので、合わなくて当たり前なんです。合うまで何枚でもとり続けるのが、ピントの合った写真を撮る一番のポイントです。しかし、手持ち撮影は手軽な分ピントの合わない確率が高くなります。確実性を上げたいなら三脚を使用しましょう。

こう書くと「マクロレンズのピント合わせはMFじゃないといけない」と思う方が多いのですが、高倍率時にAFでなかなか合わなかったり、倍率を変えずに撮影したい場合だけですよ。AFを使っちゃいけないわけじゃありませんからね。

フォーカスリミッターはどこに設定すればいい?

AFでピントが合わないとき、無限遠と最短撮影距離の間をいったりきたりするのは非常に煩わしく感じます。そんなときにこのスイッチでピントリングの動く範囲を制限することで合わせる時間を短くする・・・というふれこみのスイッチで、ほとんどのマクロレンズについています。

ですが、高倍率撮影になるほど明暗差がなくなってAFではピントの合いにくい(苦手な)条件になりやすいので、ここを切り替えたからといってAFでのピントが合いやすくなるわけではありません。基本はFULL(制限なし)のところでOKです。逆にスイッチが動いて制限がかかっているのに気付かず、AFでピントが合わないということもあるのでたまに確認しましょう。私はテープで動かないように固定しているくらいです。

絞り値の設定は撮りながら変える!

絞り値の設定は開放絞りを基準にすればいいですよ。でも、勘違いしないでください。開放絞りでOKという意味ではありません。一般的なレンズは被写界深度をコントロールするために絞り値を変えることが多いですが、マクロレンズは高倍率になるほど被写界深度が浅くなるので、絞り値を変えても被写界深度が大きく変わることはありません。じゃぁ何を基準に変えるのかというと、前ボケや背景のボケ具合です。これは望遠レンズの絞り値の調整と似ていますね。

開放絞りからスタートして2段分くらいを目安に調整してみましょう。作例はわかりやすいようにF2.8とF11と極端にしていますので、開放絞りは花が浮かび上がって見えますが、絞り込むと背景にたくさんの花がある雰囲気になります。どっちが正しいのかではなく、どっちが好みかで設定する絞り値が変わってくるんですね。

▼F2.8

▼F11

同じ被写体でもアングルで大きく変わる

被写体に対してレンズを向ける角度を変えることで、同じ被写体とは思えないほど写りが変わるのがマクロレンズの面白さでもあります。

真横からは見た目通りの姿ですが、真上からのアングルで先端のたくさんのつぼみに沿うようにレンズを向けるだけで、同じ被写体とは思えないような作品に仕上がります。

横からは小さなランの花が連なっていますが、真下から見上げると花の勢いを感じる作品になりました。どのアングルから見るとどう変わるのか、ファインダーを覗きながらではなく目で見ながら探すことが、アングルの違いによる変化を得る大きなポイントです。

ピントの位置を変えても大きく変わる

ピントの位置を変えるだけでも同じ被写体とは思えないほど印象が大きく変わります。スイセンを切り取るなら花芯にピントを合わせるのが一般的ですが・・・

このように奥行きのある被写体であれば、そのままレンズを突っ込んでみましょう。花芯の先端からどんどん奥にピントの位置がズレていくと、花芯の付け根部分にピントが合って、浅い被写界深度と合わせてマクロレンズらしい作品に仕上げることができます。

同じスイセンですが、ラッパ状になっている先端部分を真上から見下ろしたらこれまた違う印象に仕上がります。

まとめ

どんな姿形をしているかを見せるのもひとつの方法ですが、どんな被写体のどの部分を切り取ったのかわからないくらいに大胆に切り取れるのもマクロレンズの面白さです。説明の要素を省くことでその面白さが出てくるので、どんどん切り取ってマクロレンズを最大限に楽しんでみましょう。

 

 

■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。

 

 

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