ダイヤモンド富士撮影のポイント vol.2 「ダイヤモンド富士撮影の機材」
はじめに
ダイヤモンド富士撮影のポイント3連載の1回目として、Vol.1「ダイヤモンド富士とは:基礎知識」ではダイヤモンド富士の撮影に必要な知識についてご紹介しました。
今回はVol.2「ダイヤモンド富士撮影の機材」と題して、ダイヤモンド富士の撮影に適した機材の情報についてご紹介します。
なお次回のVol.3「ダイヤモンド富士の撮影テクニック」では、いざダイヤモンド富士を撮影する時の助けになるテクニックについてご紹介する予定です。
ダイヤモンド富士撮影には特別な機材が必要だと思われている方がいらっしゃるかもしれませんが、基本的には一般的なカメラで撮ることができます。
ただ、より綺麗で印象的なダイヤモンド富士を撮るためには機材に関する知識も必要となるので、ここではそれらに関してご紹介します。
※本連載ではデジタルカメラで富士山周辺(富士山から20km前後)からダイヤモンド富士を撮影する場合についてご紹介します。遠距離から撮影する場合やフィルムカメラで撮影する場合も多くは同じですが異なる部分もあります。
※本連載ではダイヤモンド富士撮影の経験から得た私なりの知識とテクニックを基本としています。私と異なる知識やテクニックによって最高のダイヤモンド富士を極めている方々もいらっしゃいます。皆様にはより広い視野で様々な知識やテクニックを習得していただき、ご自身に適した道を見出していただければ幸いです。
ダイヤモンド富士の命「光条」
ダイヤモンド富士と言えば、名前の由来であるキラリと伸びる光条が魅力でしょう。
(画像1)は山中湖明神山パノラマ台で撮影したダイヤモンド富士です。ダイヤモンド部分を拡大した(画像2)をよく見ると18本の光条が見られます。
【1】
【2】
SNSなどで公開されているダイヤモンド富士の写真を見ると光条が6本、8本、14本、18本など様々なことに気付かれると思います。
人によって撮ってみたい光条の数は異なると思いますが、実は光条の数はカメラの設定で変えることができません。レンズの絞りばねの枚数で決まってしまうのです。
絞りばねが6枚や8枚のように偶数の場合は一般的に絞りばねと同じ数の光条が現れます。
絞りばねが7枚や9枚のように奇数の場合は一般的に絞りばねの枚数の2倍の数の光条が現れます。
絞りは複数の絞りばねを可変してレンズを通る光の穴径を変えるのですが、解放絞りと最大絞りの全域で丸くすることは困難なので、絞ると絞りばね同士の境界にわずかなエッジができてしまいます。そのエッジで回析した光が一本の光条となるのですが、副次光条が反対側にも発生します。
絞りばねが偶数の場合は反対側にもエッジがあるので、反対側のエッジで発生した光条と重なって互いに増幅します。そのため偶数の場合は絞ったときに絞りばねと同じ数の光条が発生し、光条も太く力強くなる傾向があります。
それに対して、奇数の場合は反対側にエッジがないため、結果的に絞りばねの枚数の2倍の光条が発生し、一つ一つの光条も細くシャープになる傾向があります。
また、レンズによっても異なりますが一般的に絞るほどに光条もくっきりして長くなる傾向があります。
(画像1)の撮影で使用したSONY FE 24-70mm F2.8 GMは9枚絞りのズームレンズなので、9枚x2倍=18本の光条が発生しているわけです。
したがって、本数が少なくて力強い光条を求めるなら絞りばねが偶数枚のレンズを揃える必要がありますが、SONYの最近のレンズは奇数枚が基本なので、SONYのカメラを使用して6本や8本の光条を得るには、他社製の偶数ばねのレンズ(多くはオールドレンズ)とアダプターを揃えなければならない事になります。
※光条は上記で説明したよりもさらに多くの数が発生する場合もあります。
ちなみに、(画像3)のように薄雲を通過したダイヤモンド富士では太陽光が散乱してボヤけるので、絞っても光条が不明瞭になったり発生しない場合があります。
【3】
なお、光条は点光源であるほど明瞭に発生するので(画像4)のように望遠で太陽を大きく撮影すると光条はほとんど発生しません。(画像4)で光条のように見えるのはレンズの絞りばねによるものではなく、山頂のデコボコの岩の影が伸びているものです。
【4】
ゴーストにつて
ダイヤモンド富士の撮影では太陽光を真正面からレンズに迎え入れることになるため、強烈な逆光によるハレーションやゴーストが出ることは避けられません。コーティングや鏡胴内塗装技術が向上した最新レンズではそれらの発生が抑えられるようになりましたが、発生をゼロにすることはできないため、綺麗に撮れたダイヤモンド富士の写真も多くの場合どこかにゴーストが写ってしまうものです。
(画像5)は山中湖の沈むダイヤモンド富士ですが、太陽から真っ直ぐ下にいくつもの丸いゴーストが写っています。
【5】
ゴーストの発生は基本的にレンズに起因するので、一般的にレンズ枚数が多く複雑な構成のズームレンズより、レンズ枚数が少ない単焦点レンズの方がゴーストは発生しにくいと言われています。
レンズによっても異なりますが、同じ構図が狙える(同じ焦点距離が選べる)単焦点レンズとズームレンズを持っている場合は単焦点レンズを優先して試してみられると良いでしょう。
※ゴースト性能に関しては、単焦点レンズの方がズームレンズより、高価で高性能なレンズの方が安価なレンズより、最新レンズの方がオールドレンズより必ずしも優れているとは限らない点にご注意ください。
なお、今持っている機材でも撮影の仕方で対応することも可能です。
ゴーストを最小限にして美しい光条を得るためには、富士山頂に太陽が半分から2/3くらい隠れるタイミングが良いとされています。それは太陽が富士山頂に多く隠れているほど逆光が弱まってゴーストが目立たなくなるということが理由の一つですが、隠れすぎるとダイヤモンドの輝きが弱くなるのでシャッターを押すタイミングがとても重要となります。
空高く見上げる太陽はそれほど速く移動していないように見えますが、富士山頂を太陽が通過するのは結構あっという間です。いきなりダイヤモンド富士本番で太陽の隠れ具合のベストタイミングを得るのは想像より難しいかもしれません。
まずは今持っているカメラとレンズで富士山と見立てた建物や山の頂上に太陽が半分から2/3くらい隠れるタイミングでテスト撮影し、そのタイミングを体感しておくと良いでしょう。
そしてテスト撮影によってキラリと光るダイヤモンドの輝き具合とゴーストの出方のバランスが良いタイミングを体感しておくのも良いでしょう。
その他にもアンダー露出で撮影する、構図を工夫するなどいくつかの方法がありますが、それらについては次回Vol.3「ダイヤモンド富士の撮影テクニック」でご紹介する予定です。
カメラについて
ダイヤモンド富士の撮影では上述のようにカメラよりもレンズの違いが重要です。
カメラ本体に関しては撮る上での注意点が少し異なります。
ミラーボックスのあるデジタル一眼やデジタル二眼カメラでは太陽の光がミラーやプリズムを通して直接目に入ってくるので、眼を痛めないようビューファインダーを覗いて撮影するのは避け、背面モニターを見ながら撮影することをお勧めします。
一方でミラーレスはビューファインダーを覗きながら撮影しても目への負担は少なく、むしろビューファインダーを覗く方が逆光に邪魔されずクリアに画像を見ることができます。
そのため、ミラーボックスの場合も背面ディスプレイを見ながらの手持ち撮影も可能ですが、ミラーレスの方がより手持ち撮影に向いていると言えます。
※ミラーレスでも長時間ビューファインダー越しに太陽光を見続けると目を痛める原因となるのでご注意ください。
※フィルムカメラは除きます。
ちなみに、手持ち撮影では次の (画像6)のように(画像1)から一瞬で横と縦の構図を変更したり、ズーミングによって画角を変えて撮影したりすることが可能です。ダイヤモンド富士のとても短い瞬間でも多くの構図バリエーションを得られることから手持ち撮影の方が有利であるとも言えます。
【6】
フィルター
多くの方は撮影時にフィルター類を装着すると思います。
ダイヤモンド富士撮影の場合はどうでしょうか?
できれば、ハレーションやフレアの原因となるのでフィルター類は全て外す方が良いと言えます。
優れたコーティングと高透過率の保護フィルターについては、大きな画質劣化にはならないので傷が心配な方は付けて撮影しても問題ないでしょう。
PLフィルターについては強い太陽光を正面から受けるので効果はほとんどなく、弊害の方が大きくなるので外される方が良いでしょう。
ハーフNDフィルターについては逆光で暗くなる中景や近景もしっかり写したい場合を除いて外す方が良いと言えます。最近の写真現像ソフトはノイズ除去性能も高いので暗くなった中景や近景を現像(レタッチ)で浮き出させる方が良い場合も多くあります。特にハーフNDフィルターは、境界が直線的なことによる不自然さを現像でも解消することが困難な場合も多くあることから、私の場合は使用機会が少なくなりました。
ダイヤモンド富士の瞬間に日中長時間露光撮影される方は極めて稀かと思いますが、この場合は高濃度NDフィルターの使用が必須となります。汚れや傷のない綺麗な状態で使いたいものです。
三脚
ダイヤモンド富士は強い逆光なので十分なシャッター速度を得られます。したがって手持ち撮影できるので三脚がなくても問題なく撮影することができるでしょう。
特に最近のデジタルカメラは手ぶれ補正が優秀なので手持ちでも全く問題なく撮ることができます。
多くの撮影者が並んでいても一声かけて隙間から手持ちで撮影することも、モニターを見ながら頭上にカメラを掲げて撮ることもできます。
※長時間動画、タイムラプス、日中長時間露光撮影などでは三脚が必須となります。
まとめ
以上、ダイヤモンド富士の撮影に適した機材の情報について解説してきましたが、ダイヤモンド富士の印象を最も左右するのはレンズという事になります。
いつか見た6つの光条が輝くダイヤモンド富士を撮りたいと思ったら、それに合わせたレンズが必要となりますが、それにこだわらなければ基本的に今お持ちのカメラでも十分撮れるはずなので、まずはお手元のカメラでチャレンジされてはいかがでしょうか。
さらにこだわりのダイヤモンド富士を目指されるなら、それに見合ったレンズの入手を検討されると良いでしょう。
次回は「ダイヤモンド富士の撮影テクニック」につて解説します。
■写真家:TAKASHI
2011年から富士山をメインテーマに風景写真を撮り続ける富士山写真家。主な所ではNational Geographic Traveler誌の2018年6/7月号表紙に採用されSony World Photography Awards 2018日本3位受賞、WPC 2022 (ワールドフォトグラフィックカップ)で日本最高得点を受賞。作品は世界各国のT V番組・写真集・専門誌・カレンダーなどで数多く紹介・掲載されている。
2019年1月銀座ソニーイメージングギャラリー、2020年1月銀座MEGUMI OGITA GALLERY、2023年3月あさご芸術の森美術館、他で写真展を開催。透明感のある美しいカラー、ダイナミックなコントラストのモノクロ、深みがあり記憶に残るブルーインクシリーズと多彩な作品を世界に発表し続けている。