天候を味方に!条件を生かす撮影法|その5:朝・夕景編
はじめに
連載形式でお送りしている天候条件による撮影の秘訣。今回は「朝・夕景」編をお送りします。朝日や夕日はフォトジェニックな被写体の代表格とも言えるだけにしっかりとモノにしたいところ。
しかし、昼間の撮影と比較して難しいことも多く「なかなか思うように描けない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか?そこで今回はイメージ通りに撮るためのポイントを解説いたします。
撮影地の選定
当然ながら晴れてさえいれば朝日や夕日を望むことが出来ます。しかし、風景として主題と絡ませるとなれば日の出・日の入りの方向を考えなければなりません。その位置は季節によって大きく変わることを頭に入れておきましょう。
具体的には春分と秋分は太陽が真東から昇り、真西に沈みます。春分を基準に夏至に近づくにつれ太陽は北寄りから昇り、北寄りに沈みます。夏至を過ぎると秋分にかけて真東、真西方向に戻ってきます。逆に秋分を基準に冬至にかけては、太陽は南寄りから昇り、南寄りに沈みます。冬至を過ぎると春分にかけて真東、真西方向に戻ってきます。
撮影当日
朝日や朝焼け、夕日や夕焼けを狙うためには晴れている日に訪れる必要があります。天気予報を見ながら撮影のタイミングを伺いましょう。
朝
いつでも天気予報が当たるわけではありません。近くに撮影地がある場合は、とにかく行ってみるのも手です。現地へは時間に余裕を持って到着することを心掛けましょう。日の出時刻のおおよそ30分前くらいから朝焼けが始まることがあるので、それに間に合うようカメラのセッティングを完了させたいところ。
光の色は日の出直後が最も赤く、徐々に黄色→白っぽくなっていきますが、朝日を撮り終えたらすぐに機材を片付けるのではなく、そのまま30分~1時間は太陽が低くシャッターチャンスが続きますので被写体を探してみましょう。
夕方
天気予報を参考にするという意味では朝と変わりないのですが、夕景に関しては当日の状況を見つつ、出かけるか出かけないのかを判断することが出来ます(撮影地が近くにある場合)。日没1時間ほど前から西の空を見て、良い夕日が望めそうだと感じたら時間が許す限りフットワーク軽く出かけてみましょう。
朝と同様、現地へは時間に余裕を持って到着することを心掛け、日没時刻の30分前にはカメラのセッティングを終えると良いでしょう。また夕日が沈んでからも、その後に空が焼けてくることがありますので、焼けそうな雲が上空や山の稜線付近にある場合は、そのまま30分程を目安に待機しておきましょう。
上から順に日没間際→日没後20分経過→日没後30分経過。夕焼け空の変化が良くわかります。最も焼けているのは2枚目ですが、静けさが漂う3枚目の雰囲気も気に入っています。
カメラの設定
まず注意したいのがホワイトバランスです。基本は【太陽光】に設定しましょう。ほとんどのカメラは初期設定が【オート】になっているのですが、それでは朝夕の空の赤みが弱くなってしまいます。
良い条件に恵まれず空の色味に乏しい場合は【くもり】や【日陰】に設定することで朝夕景の色味を強調することができます。カメラについている夕景モードなどを使うのも良いのですが、色が派手になりすぎないよう注意しながら使いましょう。
次にしっかりと明暗を調整することが重要です。次の項目、機材項で触れるハーフNDフィルターを持っている場合は、カメラの「明暗調整機能」は初期設定やオフで撮影してもうまくいくのですが、持っていない場合、明暗調整機能の強度を適切に設定しないと空に対して地上の風景が暗くなってしまいます。
私が普段使っているソニーのカメラではその機能を「Dレンジオプティマイザー」と呼びますが、カメラメーカーによって「オートライティングオプティマイザー」「アクティブDライティング」「諧調機能」「ダイナミックレンジ拡張」等、呼び名が違います。自分のカメラではどのような名称なのかを憶えておき、スムーズに設定できるようにしておきましょう。
余談ですが、朝夕景を撮る際、一眼カメラではうまく撮れないのに、スマートフォンで撮影すると肉眼に近く写ったという経験がある方がおられると思います。それはスマートフォンが自動で明暗調整機能を働かせているからだと言えます。スマートフォンのカメラ機能は大変優れているので、それならスマートフォンで十分と思うかもしれませんが、やはり画質面で比較すると一眼カメラに圧倒的な優位性があります。
明暗調整機能Dレンジオプティマイザーの設定を変えてみました。上から順にDROオフ→DROオート→DRO Lv5。空のハイライト部分の明るさがほとんど変わらずにススキのシャドウ部だけが明るく描かれています。非常に便利な明暗調整機能ですが、場合によってはメリハリ感が失われることがあるので程度を強くする時は注意が必要です。
その他、絞りやシャッタースピードの設定は昼間の撮影時と変わりありません。私の場合は絞り優先モードで撮影することが多いのですが風景の被写界深度を考えて昼間と同様に絞りを設定しています。
機材
カメラとレンズはもちろん必要なので、それ以外に朝夕の撮影であると良いものを以下にまとめました
三脚
朝夕の撮影では、光量が少なくなりシャッタースピードが遅くなります(特に日の出前、日没後)。ぜひとも三脚は用意したいところ。使っているカメラとレンズの重量に合わせてしっかりとしたものを使いましょう。三脚を使わない場合はカメラブレを防ぐためISOを高めに設定することになるのですが、あまりに高感度を使うとノイズ成分で写真にざらつきが目立つので注意が必要です。
レリーズ・リモコン
せっかく三脚を使っていてもシャッターを切る際、カメラに触れてしまうとカメラブレを起こす可能性があります。レリーズ類も併せて使用しましょう。持っていない場合は、カメラのセルフタイマー機能を使い、シャッターが切れる瞬間はカメラに触れないようにしましょう。
ハーフNDフィルター
空と地上部分の輝度差が大きな朝夕の撮影では空(ハイライト部)に露出を合わせると地上(シャドウ部)がつぶれ気味になりますし、地上(シャドウ部)部に露出を合わせると空(ハイライト部)が白飛びしてしまいます。その輝度差を調整するのがハーフNDフィルターです。
フィルターが濃くなっているND部分を空に、透明部分が地上にかかるようレンズの前にかざして使います。メーカーによってGNDフィルターと呼ばれることがあります。主に境目がハッキリしているハードタイプと境目が緩やかなソフトタイプがあります。どちらを購入するか迷うところですがハードタイプは効果が高い反面、写真に境目が出やすく失敗することがあります。一方ソフトタイプは明暗調整効果が弱い反面、写真に境目が出ることは余程の事がない限りありませんので使うのが簡単だと言えます。
上はハーフNDフィルター未使用。地上風景を見せるよう露出を決めると空が白飛びしてしまいます。逆に空のハイライト部を飛ばさないように露出を決めると地上風景が暗く沈んでしまいます。
下はハーフNDフィルター(ハードタイプ)を使用して輝度差を吸収することで肉眼に近い印象で描く事が出来ました。これほど空と地上の輝度差が大きいと前述の明暗調整機能だけではカバーできず、フィルターの適切な使用が望ましいと言えます。また、フィルターと後述する画像処理を併用しても良いでしょう。
画像処理アプリ
撮影時には必要ないのですが、どうしても空と地上風景の輝度バランスが取れない場合は撮影後にパソコンを使いレタッチで調整する必要があります。様々なものが出ていますが代表的なものだとAdobe Photoshop CCやAdobe Lightroom CCなどがあります。
まとめ
ここまで朝夕景を撮影する際のポイントについてお話してまいりましたが、いかがでしたか?まだカメラ初心者だという方は時に失敗するかもしれせん。とはいえデジタルカメラは撮った写真をすぐに確認することが出来るので、その場で失敗に気づくことが可能です。
朝夕の撮影ではいかに上手く明暗調整を行い、肉眼の印象に近づけられるかが肝となります。「失敗したな」と感じたら、フィルター類を使ったり、明暗調整機能の強度を調整したりすることで、イメージ通りの作品を描いてほしいと思います。今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
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