風景写真の引き出しを増やす!|その8:冬景色撮影のポイント
はじめに
近年は暖冬傾向で12月の半分は秋のような気候。地域によっては12月初旬が紅葉のピークになっている所もあるのではないでしょうか?とは言え、年が明け1月に入ると本格的な冬到来。寒くて外に出るのが面倒になる冬ですが、この時期にしか出会えない風景が待っています。そこで今回は冬景色の撮影のポイントをテーマにお送りいたします。
(1)ホワイトバランスを調整して冷たさを強調
ホワイトバランスは基本的に太陽光で良いのですが、撮影する時間帯によっては真っ白に写りすぎてしまい、冷たさや情感が伝わらない事があります。そんな時はホワイトバランスを少し青味に調整してみましょう。より冬の寒さを描く事が出来ますよ。具体的にはホワイトバランス設定にある「色温度」や「K(ケルビン)」の項目を調整します。おすすめは、かすかにブルーが乗る4500K~5000K程度。条件によって適正な数値が異なるので試し撮りをしながら最適を探りましょう。RAW画像では後処理で色温度が変更出来ますので、とりあえず太陽光で撮影しておき、自宅でゆっくりと追い込んでも構いません。この記事全体を通してホワイトバランスを青味に振っている写真が沢山出てくるのですが、冬景色においてそれだけケルビン調整が効果的だということを意味します。
初冬の凍り始めた湖を撮影しました。氷と雪、そして水面の冷たさを描くためホワイトバランスを4800Kに設定しています。青味が加わることで写真に情感が加わりました。
こちらも上の写真と考え方は同じ。川の流れ、雪、氷に青味が加わることで寒々しい風景を印象付けました。ホワイトバランスは4800Kです。
(2)プラス補正で見たままの雪の白さを描く
画面の大部分を白色が占める場合、露出をカメラ任せにしておくと(プログラムオート、絞り優先オート、シャッター優先オートの場合、マニュアルモードは除く)写真が暗く写ってしまう傾向があると覚えておきましょう。
美しい雪景色に舞い上がってしまい、明るさを確認せずに撮影したものを後から見ると・・・ほとんどの写真が暗く写っているなんてことも少なくありません。撮影するごとに露出補正を確認して、暗いと感じたらプラス側に補正することを心がけましょう。但し、過度にプラス補正すると白飛びを起こしますので注意が必要です。この傾向は雪に限らず桜などの白っぽい被写体すべてに共通します。
プラス補正で撮影しています。富山県、五箇山相倉合掌造り集落で降雪直後の美しい風景に出会いました。この場合、画面の大部分が雪の白色で覆われており露出補正なしだと相当暗く写ってしまいます。雪の質感を損なわない程度のプラス補正を心掛けましょう。状況によってはさらに大幅な補正が必要な場合もあります。
どの程度のプラス補正が必要なのかは画面に占める色の比率によって変わります。上の写真と同じ合掌集落での撮影ですが、こちらは民家の軒下の黒い(暗い)部分が多くの面積を占めていますね。このようなケースでは雪の白と露出バランスが取れるのでプラス補正は控えめにしています。
画面上部2/3は「青空」と「逆光で出来た黒っぽい影」、画面下部1/3が「雪面の白」で構成。露出補正なしで撮影していますが、雪景色にも関わらず適正露出が得られていますね。明暗と色のバランスによっては補正なしで良い場合もあると覚えておきましょう。
(3)あえて暗く描いて光と影を描く
前述のように雪の白さを出すためにはプラス補正が必要なのですが、逆に暗めに撮るのもアリ。但しフラットに光が回る順光、曇りや降雪時など光の強弱に乏しい状態でのアンダー露出は、単に薄暗い失敗写真になってしまいがちなので注意が必要です。雪景色においてのアンダー露出のポイントは「逆光」です。逆光が明暗を作り出し、深く影を刻むのです。
雪の白さを出すためにはプラス補正が必要なのですが、あえてマイナス補正としました。逆光による影が雪面に刻まれた風紋を強調してくれます。
マイナス補正で撮影。上下の影を落とし込むことで地吹雪を強調しています。
(4)雪面の起伏を柔らかに表現
弱い光を生かす撮り方です。逆光を生かして強いコントラストで描く(3)とは全く雰囲気が違う描写になります。弱いながらも光と明暗の強弱がないと模様が出ませんので、しっかりと光を読んで撮影しましょう。
曇り条件ですが森の木々と雪庇が明暗を作り出し、柔らかな曲線を浮かび上がらせました。
(5)冷たく鋭利な被写体はシャープなピントで
ピントが中途半端だと造形が引き立たないばかりか冷たさも感じなくなってしまいます。しっかりとピントを合わせましょう。
氷のエッジをシャープに描きました。超望遠レンズのためしっかりと絞り、被写界深度を確保しています。
上の写真と違い前後をぼかしていますが、氷の模様があるところにはしっかりピントを置いています。画面前面にピントが合っていなくても、見せたいポイントがシャープに描かれていれば問題ありません。
(6)雪や氷をボケに使う
絞りを開け、キラキラとした雪や氷を利用すれば玉ボケを描くことが出来ます。必ず逆光方向から狙いましょう。PLフィルターは外すか、効果を弱めるよう調整しましょう。PLの効果を強めると反射を取ってしまいキラキラ感がなくなってしまうことがあります。
背景は太陽の光を反射して輝く雪面です。超望遠域プラス開放絞りで玉ボケを作りました。
木についた雪がとけ、キラキラと光る水滴を前ボケに扱いました。ピントは遠くにある主役の木に合わせています。
(7)フラッシュを使った玉ボケ表現
降雪時にフラッシュを使えば雪が玉ボケとなります。明るい状況より背景が薄暗い方がボケが引き立ちます。玉ボケが真っ白になってしまうと、かえって煩わしいのでフラッシュの調光補正を調整してボケの明るさをコントロールしましょう。小さな粉雪より大きめのボタン雪の方が、ボケが大きくなります。
肉眼ではまだ薄暗い時間帯に撮影しています。玉ボケの位置は雪の降り方によって変わるので、納得のいくまで何枚もシャッターを切りましょう。
(8)朝夕の光で冷たさの中にも暖かみを表現
色温度が低く赤っぽい光は暖かさを感じさせてくれます。ホワイトバランスがオートになっていると、その赤味が薄れてしまうので太陽光に設定しましょう。場合によっては曇りや日陰を使い、赤みを強調するのもアリです。
日の出直後、光の色がオレンジになる時間帯に撮影。厳寒の霧氷に暖色系の光がマッチしています。
(9)冬は太陽が低く立体感が出やすい
冬は日中でも太陽が低く光線に角度が付くので1日中陰影のついた立体感のある写真が撮れます。対して夏の日中は太陽が高く影が付きにくくなり、立体感に乏しい写りになってしまいます。
お昼の12時前後に撮影していますが陰影がつき、霧氷の木々の模様が良くわかりますね。光線状態においてのみ言えば冬は1日中がシャッターチャンスです。
こちらは14時頃の撮影。雲間から漏れる光が美しい陰影を描きました。低い光によって、さざ波の模様が表現されています。
(10)葉を落とした冬は美しい樹形が見られる
ここまで雪や氷についてお伝えしてきましたが、降雪の無い地域にお住まいの方は「冬は撮るものが少ない」と感じているかもしれません。そんな時は木に注目してみましょう。春から秋にかけては葉に覆われている樹木も冬にはすっかりと葉を落とし、樹の形や枝ぶりがハッキリと見て取れます。それらを造形的に扱ってみましょう。
凪状態の湖面に葉を落とした木々が映り込みます。枝の一本一本までがハッキリとわかるのは、冬ならではの風景です。
黒っぽい針葉樹を背景に白い幹が浮かび上がっていました。こちらも冬ならではの光景です。
(11)降雪の無い地域でも霜は撮れる!
冬の間を通して現れる霜。霜が降りる条件は「夜中の放射冷却で冷え込むこと」そして「風が弱いこと」です。真っ白な霜は美しく儚いもの。太陽が当たると同時にとけ始めます。手早く撮影しましょう。
刈られずに残った稲に霜が降り、美しい模様を作ります。チルト式の液晶モニターをこちらに向け、手を伸ばしてほぼ真上から撮影しました。
枯れ草にも霜が降りれば風景が一変します。
まとめ
今回は冬の撮影についてお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?他にも色々な撮り方はあるのですが参考になりそうなポイントを挙げてみました。今回ご紹介した他にも、良いアイデアがあれば是非試してみて下さいね。寒くて早起きがつらい時期ですがカメラを持って出かけてみましょう。最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
【終了】寸評のご応募について
今回の「冬景色撮影のポイント」の内容をテーマに、これはうまくいった、逆にうまくいかなかったと感じる写真がありましたら、ぜひその時の状況と合わせて編集部に投稿してみませんか。ご投稿いただいた写真の中からいくつかの写真に対して高橋良典さんが寸評を行い、次回の記事で掲載する事を予定しています。皆さまの風景写真の学びの機会にご活用いただければと思います。
・お一人さま1点までのご投稿でお願いします。
・応募締め切りは2024年1月31日(水)迄となります。
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過去の応募作品への寸評会記事はこちらの「関連記事より」ご覧いただけます。