風景写真の引き出しを増やす!|その13:風景写真のシャッターチャンス

高橋良典
風景写真の引き出しを増やす!|その13:風景写真のシャッターチャンス

はじめに

風景撮影の場合は被写体が動かない事が多く、動物や人物、またスポーツやスナップ撮影のようにシャッターチャンスを意識することが少ないのではないでしょうか?しかしそんなことはありません。そこで今回は「風景撮影のシャッターチャンス」と題して写真と共に解説してまいります。

短い時間でのシャッターチャンス

風景でも動きがある被写体は意外と多いもの。タイミングを狙ってシャッターを切りましょう。

■撮影機材:ソニー α9 III + FE 16-35mm F2.8 GM II
■撮影環境:焦点距離18mm マニュアル(F11、1/3秒、-1EV) ISO250 太陽光 CPLフィルター NDフィルター
■撮影機材:ソニー α9 III + FE 16-35mm F2.8 GM II
■撮影環境:焦点距離18mm マニュアル(F11、1/3秒、-1EV) ISO320 太陽光 CPLフィルター NDフィルター

波は常に動いているだけにシャッターを切るタイミングが作品の良し悪しに直結します。決まった動きをするわけではないのですが、同じような動きを繰り返すのである程度の予測をつけることができます。チャンスが来そうだと思ったら狙ってシャッターを切り始め、2枚目以降は連写を活用するのも一つの手です。上の写真では左側の大きな波に加えて右側からも波が回りこんでいますね。対して下の写真は右側に波が無く迫力に欠けます。

■撮影機材:ソニー α7R V + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離339mm マニュアル(F11、1秒、-0.5EV) ISO200 太陽光 CPLフィルター NDフィルター

滝にかかる虹を狙いました。虹は細かな水滴に光が反射して出来るのでしぶきのない所には色がつきません。滝の流れは一定のように見えても水量が多くなったり少なくなったりを繰り返しています。虹が濃くなったタイミングを見計らってシャッターを切りましょう。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離30mm 絞り優先AE(F9.5、0.5秒、-1.5EV) ISO100 太陽光 CPLフィルター
■撮影機材:ソニー α7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離31mm 絞り優先AE(F13、1秒、-1EV) ISO100 太陽光 CPLフィルター

上の2枚の写真では撮影時間が2分ほどしか違いませんが、霧の動きは意外と速く、特に雨上がりでは霧が入ったり抜けたり目まぐるしく状況が変わります。視界が少しクリアになったと思ったら一気に霧がなくなってしまうこともありますので、風景から目を離さないことが重要です。上の写真では霧がかかりすぎて今ひとつの仕上がりになってしまいましたが下の写真では山頂部分はクリア、かつ裾野に棚引くように霧が流れるタイミングが訪れました。「天候の変わり目の霧はシャッターチャンス」と覚えておきましょう。逆に一日中雨が降っている時に発生するような霧では、状況にあまり変化がないので慌てて撮影する必要はないでしょう。

■撮影機材:ソニー α7R V + FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離41mm 絞り優先AE(F9.5、1/90秒、+0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

霧に日が差し込みむと光芒が発生します。こちらも「天候の変わり目の霧」です。光芒は霧が濃くなれば強くなり、薄くなると弱くなります。霧は濃淡を繰り返すことが多いのでシャッターチャンスを窺いましょう。

■撮影機材:ソニー α7R V + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離100mm 絞り優先AE(F16、1/8秒) ISO320 太陽光 CPL NDフィルター

スローシャッターで風に揺れるコスモスの軌跡を描きました。このようなシーンでは風がどのように動くか?予測が難しいので風が吹いたと思ったら連写で撮影しておき、後から写真を選ぶのが良いでしょう。

長い時間の中でのシャッターチャンス

長い目で見ればほとんどの風景は動いていると言っても良いでしょう。

■撮影機材:ソニー α7R V + FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離33mm 絞り優先AE(F11、1/60秒) ISO400 太陽光 CPLフィルター
■撮影機材:ソニー α7R V + FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離32mm 絞り優先AE(F11、1/60秒) ISO400 太陽光 CPLフィルター

上の写真を撮影の際「青空に雲があればもっと良いのに……」と思っていましたが、付近に雲がなかったので他の所へとカメラを向けつつも空の様子だけは気にかけていました。30分程するとよい形の雲が流れてきたので再度同じ場所に戻って撮影したものが下の写真です。雲が入ると空が高く見え、随分と印象が変わりますね。時間に余裕のある場合は、このような長い時間の中でのシャッターチャンスも考えておきましょう。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離33mm 絞り優先AE(F11、1/60秒、+1EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター
■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離33mm 絞り優先AE(F11、1/15秒、+1EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

2枚は同じ場所で撮影したものですが日差しの有無が違います。直射光の上の写真では霧氷に覆われた冷たい森ながらも明るく華やかな印象。日差しのない下の写真では冷たさが強調され静寂な森の印象となりました。上の写真の撮影後、空を見上げると雲が太陽光を遮りそうだったので、そのタイミングを待って撮影しました。この場合、風景は動いていませんが光が変わったという訳ですね。普段から目の前の被写体だけを見るのではなく広い範囲で風景を見渡しておく癖をつけておくと、今まで気づかなかったシャッターチャンスにも気づけるようになるでしょう。2枚の写真は表現の違いなので、どちらが良い悪いではなく両方ともOKのカットです。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離28mm 絞り優先AE(F11、1/3秒、+0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター
■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離27mm 絞り優先AE(F11、1/3秒) ISO100 太陽光 CPLフィルター

早朝の太陽が昇る前後、また夕方の太陽が沈む前後では光の色が大きく変わります。風景そのものは止まっていますが、太陽の動きによって2枚それぞれにシャッターチャンスが訪れていると言えます。上の写真は日の出前の青い光で撮影したもの、下の写真は日の出直後の赤い光で撮影したものです。先ほど同様にどちらが良い悪いではなく両方ともOKのカットです。

■撮影機材:ソニー α7R V + FE 20-70mm F4 G
■撮影環境:焦点距離56mm 絞り優先AE(F5.6、1/4秒、-1EV) ISO800 太陽光 ハーフNDフィルター

気象条件にもよりますが赤みと青味が混ざり合うような美しい光の色になることがあります。夕日が沈んだからといってすぐにカメラを片付けずに数十分はその場で待機、チャンスを待ちましょう。

その他、もっと長い時間の中でのシャッターチャンス

条件や天候、季節による太陽の移り変わり等、その瞬間だけではなく日や月、長くは年をまたいでタイミングを待つことも大きな意味でシャッターチャンスを狙うことだと言えるでしょう。

■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離400mm 絞り優先AE(F5.6、1/750秒、+0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離400mm 絞り優先AE(F8、1/250秒、-0.5EV) ISO200 太陽光 CPLフィルター

上の写真では良い霧に恵まれました。満足して撮影を終えつつも今度は「黒の締まったシャープな写真も撮りたい」と思い再訪して撮影したのが下の写真です。天候条件に大きく左右される風景ジャンルでは、特に近場の場合、違う日にタイミングを窺うことも考えておきましょう。

■撮影機材:ソニー α7R V + FE 16-35mm F2.8 GM II
■撮影環境:焦点距離19mm 絞り優先AE(F16、1/8秒) ISO400 太陽光 CPLフィルター

傷んだ花がじゅうたんの様に敷き詰められた様子は単に美しいか?と問われると、そうではないのかもしれません。しかし撮影しながら頭の中に「宴の後」や「フラワーシャワー」といったタイトルが浮かんできました。1週間前の花の盛りに訪れていましたが、花の散り際を狙って再訪しました。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離30mm 絞り優先AE(F16、1/250秒、-1EV) ISO250 太陽光 CPLフィルター

干潟の撮影では潮位がポイントになります。海は潮の満ち引きを繰り返しています。満潮時だと干潟の模様がほとんど見えない事も多く、干潮の時間に合わせて撮影することが必要です。こちらに関してはそこで待つのではなくあらかじめ撮影したい時間と潮位の合う時間帯を狙う必要があります。

■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離19mm 絞り優先AE(F8、1/200秒、-1EV) ISO200 太陽光
■撮影機材:ソニー α7R V + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離17mm 絞り優先AE(F11、20秒) ISO100 太陽光 NDフィルター

同じ場所で撮影したものですが上の写真は9月の撮影です。いくら画角を広げたとしても夕日は入りません。一方、年をまたいで1月に撮影した下の写真では真西より南寄りに太陽が沈むため上手く画角内に夕日が収まりました。長い期間の中でベストなタイミングを探ることも考えておきましょう。

まとめ

「シャッターチャンス」と聞くと瞬間を狙うようなイメージを持つ方も多いと思いますが、自然相手の風景撮影に関してはそればかりではありません。相手に合わせて短い~長いサイクルの中でチャンスを窺うことが意識出来れば、さらに作品のバリエーションが増えること間違いなしです!今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師

 

 

関連記事

人気記事