風景写真の引き出しを増やす!|その1:絞り編
はじめに
4月から8月まで連載形式で天候条件による撮影の秘訣をお送りしてまいりましたが、今月からは「風景写真の引き出しを増やす!」と題して、私自身が普段どのように考えながら設定をして、撮影しているのかをお伝えしてまいります。第1回は「絞り」編です。
絞りの効果
撮影ジャンルを問わず絞りの考え方は同じです。大まかに言うと絞りを開ける(数値を小さくする)ほど、被写界深度※が浅くなり、ピントを合わせた被写体の前後をぼかす事が出来ます。反面、広大な風景で絞りを小さな値に設定してしまうと手前から奥までピントが合いません。
逆に絞りを絞る(数値を大きくする)ほど、被写界深度が深くなり画面手前から奥までしっかりとピントが合った、パンフォーカスの写真を撮影することが出来ます。反面、花のアップ等で絞りを大きな値に設定すると背景のボケが弱くなり、シーンによっては煩雑な印象に写ってしまいます。
※被写界深度:被写体の前後(画面の中)でピントが合っているように見える範囲
撮影モードについて
絞り優先モード(AモードやAvモード)を使いましょう。特にカメラを買って間もない初心者の方は、普段から全自動モードやPモードを使っているかもしれませんね。しかし、それらのモードではその場の明るさによって勝手に絞りが変わってしまい、被写界深度のコントロールをすることが出来ません。
背景をぼかす
基本
前述の通り背景を大きくぼかしたい時には絞りの数値を小さく設定すればよいわけですが、レンズにはそれぞれに開放値があり、どこまで絞りを開けられるかが決まっています。当然開放値が明るい程、大きなボケが楽しめると言えますが、その分レンズが大きく・重くなる傾向で価格も高くなります。
以下の写真はこのレンズの開放絞りF2.8で撮影したものですが、美しいボケを得られていることがわかりますね。なお大きくぼかすには被写界深度が浅くなる望遠域を使うと良いでしょう。
応用
それでは、この写真はどうでしょうか。背景がきれいにぼかせていますよね?でも実はこの写真、絞りはF11で撮影したものなのです。主役と背景が大きく離れている場合、ボケすぎて背景に全く形が無くなってしまう場合があります。玉ボケや背景の気配などを感じさせたい時「ボケ過ぎるかな?」と感じた時は少し絞ってみると良いでしょう。
下の3枚は背景が大きくボケ過ぎると感じた場合、絞るとどうなるのかを撮り比べたものです。上から順にF5.6 → F8 → F11、焦点距離は400mmで撮影しています。個人的には背景に梅や菜の花の気配が感じられるF8~F11の写真が好みです。
パンフォーカスにする
基本
手前から奥までパンフォーカスにするには、前述の通り絞りの数値を大きく設定すればよいわけです。但し、絞りすぎると回折現象(小絞りボケ)が発生して、解像度が損なわれてしまいますので無駄に絞るのは禁物です。
逆に回折が発生してもF22やそれ以上に絞らないとピントが来ない場合は躊躇なく絞ることも必要です。レンズの開放値が違っても絞って使う場合においては同じ。例えば開放値がF2.8のレンズでもF4のレンズでもF16まで絞った時の被写界深度は同じです。
応用
では次の写真を見て下さい。どうでしょうか。画面全域にピントが合っていますよね?この写真の絞りはF5.6。これまでの説明ではパンフォーカスにするためには絞る必要があると説明してきましたが、それは手前側の被写体がカメラに近く、かつ遠くまで広がっている場合の話です。
例えば展望台のようなところから眼下を見下ろす風景を想像してみると、画面の一番手前ですらカメラからは相当離れていますよね。そのような場合は絞らなくても画面全域にピントが合うのです。
特に夜景撮影など暗い場所では絞るほどシャッタースピードが遅くなってカメラブレをおこす可能性があります。シーンによっては絞りを開け気味に撮影してもパンフォーカスに出来ることを頭に入れておきましょう。
光条
画面に太陽を取り入れ、概ねF11以上に絞ると太陽のギラギラ感が表現できます。これを光条と呼びます。開放付近ではほとんど出ず、絞るほど派手に出ますが、派手なら良いというものではありません。
光条が主張しすぎるとかえって煩わしく感じられてしまうこともありますので、構図上のバランスを考えることが重要です。以下の3枚は絞りによる光条の出方の違いです。
撮影後持ち帰って画像を取り込んでみるとやや光条が派手過ぎに感じました。決定的な失敗とは言えないのですが、F11の写真も撮っておくべきだったと少し反省点のある写真です。
センサーサイズによる描写の違い
現在発売されている主なレンズ交換式カメラのセンサーフォーマットは以下の通りです。一番左からセンサーサイズが最も大きく、右にかけてセンサーサイズが小さくなります。
中判 → フルサイズ → APS-C → マイクロフォーサーズ
センサーサイズが異なることで同じ画角でも焦点距離が変わります。例えばフルサイズでの標準レンズ50mmを基準にすると同じ画角(47°)を得るための焦点距離は以下のようになります。
中判 |
フルサイズ |
APS-C |
マイクロフォーサーズ |
63mm |
50mm |
33mm |
25mm |
いかがでしょうか?結構変わりますね。被写界深度は焦点距離が短くなるほど深くなり、焦点距離が長くなるほど浅くなる特性があります。つまり、同じ画角でもセンサーサイズが小さくなるほど焦点距離が短くなり、画面全域にピントを合わせやすくなります。
少し本題から逸れますが皆さんがスマートフォンで写真を撮る時の事を思い浮かべてみてください。特に難しいことを考えなくても普通に撮るだけで画面全域にピントが合った写真が撮れますよね。これは一眼カメラなどに比べセンサーサイズが極端に小さいためです。
それは裏を返せばレンズ性能による背景のボケには期待できないとも言えるわけです。近年のスマートフォンにはそれを補うため背景をぼかせるモードが付いている事が多いですが、それはスマートフォン側やアプリで撮影画像を加工しているのです。
話を本題に戻しましょう。上記の表からフルサイズの50mmとマイクロフォーサーズの25mmは同じ画角です。写る範囲が同じなのに焦点距離は違うので、当然被写界深度が変わるということです。ゆえにフルサイズでF16まで絞らなければパンフォーカスにならない場合でも、マイクロフォーサーズならF9程度で良いわけです(F16だと無駄に絞っていることになる)。
逆に同じ画角で絞りを開けた場合、センサーサイズが大きくなるほど焦点距離が長くなるのでボケが大きくなります。センサーサイズが違う複数のカメラをお持ちの方は、そのあたりまでを頭に入れておき、同じ被写体を撮影する場合でも絞りの数値を変えましょう。
上はフルサイズ、下はマイクロフォーサーズで撮影したもの。同じような場所でほぼ同じ画角で撮影していますが、焦点距離がそれぞれ70mmと34mmとなっていることが撮影データからわかります。どちらもパンフォーカスを狙ったものですが、カメラのセンサーサイズによる特性に合わせてフルサイズはF16、マイクロフォーサーズはF9.5と絞りを変えて撮影しています。
まとめ
普段から撮影していれば、今回説明した絞りの基本部分は押さえている方が多いでしょう。しかし、思うような描写を得るためには時にイレギュラーな設定にしなければならないこともあります。その点も踏まえ、自在に絞りと被写界深度をコントロールして撮影を楽しんで下さいね。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
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