風景写真の引き出しを増やす!|その2:シャッタースピード編
はじめに
9月より連載でお送りしております「風景写真の引き出しを増やす!」第2回目は「シャッタースピード」編です。他の被写体に比べ動きが少ないともいえる風景写真において普段から私自身がどのように考え、設定をして撮影しているのか?そのポイントをお伝えしてまいります。
シャッタースピードの効果
被写体そのものが止まっていればシャッタースピードによる描写の違いはなく、被写体に動きがあるものに関してのみ描写の違いが現れます。但し暗い場所ではシャッタースピードが遅くなりがちで手ブレ、カメラブレを起こす可能性が高くなります。どんなに気に入った写真でもブレを起こしてしまっては台無し。どの撮影モードで撮っていてもその状況ごとに表示されるシャッタースピードを必ず確認しておき、極端な低速になる場合はISOを高めに設定、もしくは三脚を使用するなどの対策が必要です。
また、PLフィルターを装着するとシャッタースピードが約2段階分遅くなります。風景撮影では使用頻度が高いだけに特に手持ち撮影時には注意が必要です。
※1段階分のフィルターもあります
撮影モードについて
シャッタースピードをコントロールする際、皆さんはどの撮影モードを使っていますか?一番に頭に浮かぶのは、やはりシャッター優先モードでしょうか(SやTv)。
しかし、シャッタースピードと絞りは必ず対になっています(ISO固定の場合、ISOオートを除く)。なので、絞り優先モードを使っていても絞りを開ければシャッターが速くなりますし、絞りを絞れば遅くなります。大まかに速く、遅く調整したい場合は必ずしもシャッター優先モードを使わなくても構いません。
逆にシャッター優先モードを使っているときは明るさに応じて絞りが変わってしまいます。シャッタースピードと同時に被写界深度を意識しなければならない場合は、絞りにも注意を払いISOを同時に調整する必要があります。また、ISOオートの状態で高速シャッターに設定するとISOが上がりすぎることがありますのでこちらも注意が必要ですね。
全自動モードやPモードでは、その場の明るさによって勝手にシャッタースピードが変わってしまうのでおすすめできません。露出の仕組みが良く理解できている方はマニュアルモードでシャッターと絞りを決めてしまい、明るさをISOで調整する方法を使うのも良いでしょう。
水流の撮影
動きが少ない風景撮影の中でシャッタースピードの効果が最も感じられるのが渓流や滝、水面や海など水の撮影です。以下はシャッタースピードによる描写の違いです。
いかがでしょうか?高速シャッターでは水しぶきが写し止められ、低速シャッターでは流れが滑らかに描写されていることがわかりますね。
基本
私が水流を撮影する場合、目安としているシャッタースピードは以下の通りです。
・低速シャッターで流れを滑らかに表現したい時
→ 1/8秒~2秒くらいの間に設定
・高速シャッターで水しぶきを写し止めたい時
→ 1/1000秒より高速に設定
カメラ初心者や水の流れをほとんど撮影したことがないという方は、水量により上記の範囲内で好みの描写になるよう調整すればよいでしょう。私個人としては1/125秒~1/15秒くらいが中途半端に写ってしまう印象ですが、それが当てはまらないケースや色々な考え方もありますのでその点は応用として後に触れます。
明るい状況下で思うような低速シャッターが切れない場合は、減光用のNDフィルターが必要です。NDフィルターに関しては別の記事で詳しく書いていますのでそちらをご覧くださいね。
上の2枚の写真のうち「低速シャッター」で流れを表現している方は、水量の多い少ないによって適切なシャッタースピード設定が異なるので、どのくらいにした方が良いとは一概に言えません。複数種類撮って自分の好みを探ると良いでしょう。
もう一方の写真は「高速シャッター」で流れを写し止めたもの。2枚は同じアングルで撮っていますが随分と滝の印象が変わるのがわかります。
応用
しかしながら基本で述べた以外の設定が良い場合もあります。デジタルカメラはトライ&エラーを繰り返しながら表現を追い込んでいくことが出来ますので、水流の基本が大体掴めたら思うままに色々なシャッタースピードを試してみましょう。曖昧な説明となってしまうのですが、最終的にはその場の状況に合わせて自分自身が「どう表現したいのか?」を判断、シャッタースピードを設定できるようになるのがベストです。
基本で述べた「中途半端に感じることが多い」シャッタースピードで撮影したものですが、この場合は水の勢いや渦を巻いているような流れの形を表現するには1/15秒が最も適していると判断しました。
流れが柔らかな綿のように表現されていますね。こちらは20秒で撮影したものです。超長秒露光は撮ってみないとわからない部分も多く、ただ単に流れが真っ白になってしまい失敗写真になってしまうこともありますが、思いがけない表現が得られることも多いので是非試してほしいと思います。昼間にそれだけの長秒露光をするには濃いめのNDフィルター(ND64~ND1000)が必要です。
川面でくるくると回る落ち葉。その軌跡を8秒のスローシャッターで描きました。落ち葉の動きの速さに応じてシャッタースピードを決めましょう。
海を超秒露光で撮影したものです。波を柔らかく描写して非現実的な世界に仕上げました。相当明るい状況のためND1000を使用しています。
風とシャッタースピード
風が吹いていると木々や葉、花などが揺れ写真に影響が出るので注意が必要です。たとえ絞り優先AEで撮影している時でも、シャッタースピードがどれくらいになっているのかを確認しながら撮影しましょう。その場の明るさや風の強さによって絞りやISOで調整することが必要です。
基本
光量の少ない場所で風は大敵と言えます。なぜなら「暗い=シャッタースピードの低下」を意味し、風による揺れが被写体ブレとなって写真に表れてしまうからです。ピントがしっかりと合っていないような写真に見えることもあり注意が必要です。風が吹いたりやんだり、また微風の時は風が無くなるのを待ってシャッターを切りましょう。
風による揺れが少ない場合はISOを上げてシャッタースピードを稼ぐと良いのですが、あまり高く設定するとノイズが出ることを頭に入れておくことが重要です。ISOについての詳細については以下をご参照くださいね。
光量が多く明るい状況では速めのシャッターが切れるので少しくらい風が吹いていても被写体ブレの影響はほぼ考えなくても構いません。但し、よほどの強風の場合は、絞りを開け気味にしたり、少しISOを上げたりしてシャッタースピードを調整すると良いでしょう。
強風に舞い上がる桜吹雪を写し止めました。晴れて明るい状況なら容易に高速シャッターが切れます。
応用
風があまりに強い時、待ってもやまなさそうな場合は、いっそのこと風の動きを利用、その動感を表現してみましょう。私の経験上、強風や時折の突風時、風の勢いに応じて1/30秒~1/4秒くらいで調整すると上手くいくイメージです。とは言え風の吹き方も様々なので試行錯誤を繰り返しつつ思うような描写を探る根気も必要です。
その他、目には見えないほどのゆっくりとした動きを長時間露光で引き出す撮り方も頭に入れておくと良いでしょう。
繰り返す突風を狙いました。風の吹き方によってブレ方が変わるので何枚も撮影すると良いでしょう。風のタイミングに合わせて連写モードでシャッターを切り、後から良いものを選んでいます。竹は強風でしなりやすく被写体ブレ表現に適していると言えます。
砂丘表面を風で流れる砂を狙いました。強風だったのでやや速めの1/60秒に設定しています。シャッタースピードを速くしすぎると砂が写し止められてしまい、その様子が伝わりにくくなりますし、逆に遅すぎると流れる砂の模様が薄くなってしまいます。こちらも連写モードで撮影しています。
上2枚の写真は無風状態でほとんど雲が動いていないように見えていますが、長時間露光をかけることでその僅かな動きを描きました。肉眼で見ている風景とは一味違った雰囲気で撮影できますので是非一度試してみて下さいね。
その他
とにかく動いている被写体の場合はシャッタースピードを意識することが重要です。雪や雨の場合でも設定を変えれば描写が変わります。
上2枚の写真は降りしきる雪をシャッタースピードを変えて撮影。この場合、どちらが良い悪いではなく両方ともOKのカットです。同じ状況でも設定の違いで描写が異なることを楽しみましょう。絞りとISOでシャッタースピードをコントロールしています。
まとめ
ここまでシャッタースピードについてお伝えしてまいりましたがいかがでしたか?基本と応用に分けてお伝えしてまいりましたが、それ以外でもシャッタースピードの選択は多種多様。ゆくゆくは状況をしっかりと読み、望む表現を得るためのシャッター速度を自在にコントロールできる勘も必要になってくるでしょう。
このように言うと初心者の方には難しく感じるかもしれませんが、デジタルカメラは現場でトライ&エラーを繰り返しながら表現を追い込むことが出来るのが最大のメリットなので、いろいろなシャッタースピードを試しながらその勘を養うと良いでしょう。今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
高橋さんの風景写真ハウツー記事はこちら