風景写真の引き出しを増やす!|その3:露出補正 編
はじめに
連載でお送りしている「風景写真の引き出しを増やす!」第3回目は「露出補正」編です。写真の明るさを決定する「露出補正」は普段の撮影の中でも最重要項目のひとつ。そこで今回は風景写真においての露出調整についてお伝えしてまいります。
※側光方式の呼び方についてはカメラメーカーによって異なりますが、本記事は「マルチ」や「マルチパターン測光」、「評価測光」など概ね画面全体を測光するモードを基準に記載しています。
露出補正の効果
露出補正を調整すると写真の明るさが変わります。非常にシンプルな事なので、写真を初めてから比較的年数の浅い方でも「露出補正」に触れたことがあるという方は多いのではないでしょうか?具体的には±0を基準としてプラス側に補正すると写真が明るく、逆にマイナス側にすると写真が暗く写ります。カメラの初期設定では露出補正ダイヤルを1クリック回す毎に0.3EV露出が変わるようになっていますが、私は0.5EVに設定を変更して使っています。
基本
傾向としてプラス方向に補正すると明るく爽やかな印象になり、マイナス方向に補正すると落ち着いた印象の写真に仕上がります。どの明るさが良いかの明確な正解はなく、あくまでも作者がどのように表現したいか、また好みに合わせて調整することになります。とは言え、カメラ初心者の方はどの明るさが良いのかの判断がつきにくいですよね。余裕があればその場で露出を変えて複数枚撮影。自分の好みの明るさを探るのがベターです。
とは言え、1枚ごとに露出補正ダイヤルを回して補正を変えるのは面倒なもの。そこでほとんどの一眼カメラには「露出ブラケット機能」が搭載されています。これは1枚撮影するごとに露出補正を変えなくてもあらかじめ設定しておけば、続けてシャッターを切るだけでカメラ側が自動で露出補正を変えてくれる機能です。初めて使う方は撮影枚数3枚・カメラが決めた明るさ(±0)を基準に露出の振り幅が0.3EV~0.7EVになるよう設定するのが良いでしょう。
これら3枚は全てがOKのカットです。どれが良い悪いではなく撮影者の好みで決めれば良いでしょう。前述の「露出ブラケット」機能を使って撮影しています。
【3枚の共通データ】
■撮影機材:ソニー α7R III + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離31mm シャッター優先AE(1秒) ISO200 太陽光 CPLフィルター・ND64
同様にもう1セット露出を変えたものをご覧いただきましょう。
これら3枚も全てOKのカットです。前出の写真と同様ブラケット機能を使っています。輝度差(明暗)の大きなシーンでは暗めに撮影すると光と影の強弱がより引き立ち、明るめに撮影すると光と影の印象が弱まる傾向となります。この場合、肉眼に最も近いのは「+0.5EV」だったので陰影をマイナス補正で強調したものは「写真的表現」とも言えるでしょう。
【3枚の共通データ】
■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 70-200mm F2.8 GM OSS
■撮影環境:焦点距離159mm 絞り優先AE(F2.8) ISO400 太陽光 CPLフィルター
応用
色がある風景では、前述の基本を押さえておけばほとんど困ることは無いのですが、雪景色や濡れた岩肌などに代表される極端に白い、もしくは黒い被写体。それから画面内に極端に大きい輝度差(明暗差)がある被写体の場合は露出補正の振り幅を多めに取らなければならないケースが出てきます。難しいケースに出会ったら、イメージ通りの明るさになるまで撮影と再生を繰り返しつつ補正量を調整しながら撮影しましょう。
なお、RAWでの撮影の場合は補正量にも寄りますがほぼ画像を劣化させずに撮影後に調整することが可能です。但し、上達のためには、現場で光を読み、明るさを決定する力が重要だと言えます。目の前に広がる風景を出来るだけ撮影段階でイメージ通りカメラに閉じ込められるよう心掛けて下さいね。
それから見た目通りに写すだけが写真ではありません。自分が「こう撮りたい」というイメージがある場合はそれを目指して補正量を変更すると良いでしょう。また、当てずっぽうでも構いませんので時には±1を超えるような大胆な補正にも挑戦してみましょう。もちろん補正を強めると白飛びや黒つぶれを起こすこともありますが、それも表現のひとつと考えることが出来れば、さらに自分の世界が広げるきっかけになるかもしれません。
ミラーレスと一眼レフの違い
ここ数年で主流となりつつあるミラーレスカメラですが、ミラーレスが登場するまでは一眼レフカメラが主流でした(もちろん今でも一眼レフが活躍しています)。露出補正を行うにあたってこの2種類のカメラでは大きな違いがあります。ファインダー※があるのはどちらのカメラも共通なのですが、一眼レフは「光学ファインダー」ミラーレスは「電子ビューファインダー」です。
「光学ファインダー」はミラーとペンタプリズムやペンタミラーによって、レンズを通ってきた像を直接ファインダーに導きますので、露出補正をプラス側やマイナス側に調整してもファインダー内の像の明るさは変わりません。つまり一度シャッターを切り、撮影したもので写真の明るい暗いを判断する必要があります。
それに対して「電子ビューファインダー」にはそのミラーが無く、レンズを通ってきた像はデジタルカメラのセンサーに導かれ、その像をファインダーの液晶で見ているので露出補正をプラス側に調整すればファインダー像も明るく、マイナス側に調整すればファインダー像も暗くなります。つまりシャッターを切る前にどのような明るさで写るかがわかるということになりますね。そういう意味では、一眼レフの場合でも「ライブビュー機能」を使っている時はミラーレスカメラと同じような仕組みを用いているわけです。
※一部ミラーレスカメラにはファインダーが無く液晶モニターのみ搭載の機種もあります。
露出モードと補正の関係
露出補正によって写る明るさが変わるということは、すなわちシャッタースピードや絞りが変わることを意味します。以下は撮影モードによる露出補正の影響です。
絞り優先モード(AやAvモード)で露出補正した場合
設定した絞りが変わらないようカメラがシャッタースピードを動かして明るさ調整を行います。
シャッター優先オート(SやTvモード)で露出補正した場合
設定したシャッタースピードが変わらないようカメラが絞りを動かして明るさ調整を行います。
F11・1/125秒を基準として例を挙げると以下のようになります。露出補正を変更すると赤字部分の数値が変わります。これを理解しておかないと意識せず絞りやシャッタースピードが変わってしまいます。
補正なし | プラス1補正 | マイナス1補正 | |
絞り優先モード | F11・1/125秒 | F11・1/60秒 | F11・1/250秒 |
シャッター優先モード | F11・1/125秒 | F8・1/125秒 | F16・1/125秒 |
プログラムモード(Pモード)で露出補正した場合
シャッタースピード、絞りのいずれかをカメラが動かします。その場の明るさに応じてどちらの数値が変わるかは状況によって異なります。
マニュアルモードの場合
露出補正はあくまでもカメラが決めた明るさを基準に調整するものなのでシャッター、絞りの両方を撮影者が決定するマニュアルモードにおいては基本的に露出補正という概念がありません。
(但しカメラメーカーによっては、マニュアルモードであってもISOオートに設定した時のみISOを上げ下げさせることで露出補正が出来るものがあります)
まとめ
今回は露出補正についてお伝えしてまいりましたがいかがでしたでしょうか?絞りやシャッタースピードに比べ、明るさをコントロールする露出補正は直感的でわかりやすい機能と言えますが、大胆な補正を試してみる方は案外少ない印象です。繰り返しになりますがデジタルカメラの最大のメリットはトライ&エラーを繰り返しながら表現を追い込めること。時には常識に捉われずに色々と試してほしいと思います。今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
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