スナップで街めぐり。一瞬の情景を愉しもう。Vol.11|田町
はじめに
山手線の中でも比較的地味なところだと思っていたが、最近再開発されて駅周りはびっくりするほど変わっている。森永の本社があるエンゼル街と北口の飲み屋街以外は昔の面影もないが、新しい田町もなかなか悪くない。そんな田町をどう撮ったのか紹介したいと思う。
森永ビル
普段通っていてもそんなにそそられる場所でもないのだが、太陽の位置がよければこのように歩く人がシルエットになってくれることがある。しかし一人だと意外性が少し足りない。
この時はいい具合に神殿っぽい柱の影の切れたところ近くで、女性二人がすれ違った。画面に二人入るときは、こんな感じですれ違った瞬間に等間隔でシルエットの形が一緒になると意味がある風になる。説明ができる瞬間を狙うこと。垂直の柱も被写体なので、適当な切り取りはしない様に気を付けて構図づくりをしている。
運河沿い
田町の南側は運河がまだまだ残っていて、スナップを撮っていて楽しい場所だ。特にユリカメモメが居る季節(夏以外)がお勧め。こんな風に手すりに並んでいると、それだけで前景の被写体としては最高なものとなる。
この場面では丁度画面の真ん中で、日陰部分と日向を分けて向こうの道を歩く人を待った。暗い服と明るい服の人が、左右意味がある位置に来たところでシャッターを切った。服の色合いが逆だったとするとあまり面白くない写真になったと思う。
運河に沈む自転車
普段は運河でここまで潮が引くことはなかなかないので貴重な被写体。カラス貝がぎっしりとくっついているのが面白くてシャッターを切った。橋の下が暗すぎて表現しづらかったが、貝がなんとかわかる程度に露出を下げてみた。
いろんな撮り方があると思うが、黒はちゃんと黒くしたいので、露出はレンズの向きを変えるたびに意識し、必要であれば変更している。撮るときの設定はどれも大事だが、露出は非常に大事だと思っている。場面が変われば適正露出は変わる、絞りよりも優先度は高い。
駅隣のビルの隙間
この様なビルの隙間の光は狙って行くことはほとんどなく、たまたまそこを歩いていたらということが多い。光がよかったのでレンズを超広角に交換。
狭い場所だったが、なるべく広く見せるために少し傾けている。人がいないときはきっちりと真っすぐに撮ることがほとんどだが、このように中心に人が入るときは、少しだけ傾けて広さを強調すると写真に迫力が出ると思う。あとこの写真で気を使っているところは、傘の影がほかの暗い部分からちゃんと出ているところ。見落としがちな影までちゃんと意識して撮ることが大事。
北口の横断歩道
田町駅の北口からすぐのところに横幅と長さ共に大きな横断歩道があり、上の遊歩道から俯瞰で撮れる都内では貴重な場所だ。基本この様な場所では、人が入った写真を撮りたいので特徴的な人を待って撮ることになるが、親子の前にガードマンではないが、なんとなく守っています風の人の配置になったのが面白くてシャッターを切った。
この、なんとなくこう思った、見えたでもよい。普通ではない瞬間にならないか、少し前から予測する癖をつけるといいと思う。この場合でも気が付いた瞬間にシャッターを切ったのでは、綺麗な三角に囲むのは難しかっただろう。
港区スポーツセンター
大きな窓のない木だけでできている壁は、なかなかない想像力が刺激される被写体。余計なものがないので人の動きが非常に重要になってくる。
スナップを撮るとき人が画面の中に二人居れば、一番良い瞬間はすれ違った後になることが多い。この時は背丈が同じくらいの女性の服が白と黒で、丁度スポットライトが当たる位置ですれ違った。何枚か撮ったと思うが、やはりこのすれ違った瞬間の写真が一番良かった。
ビルの9階から
貴重な東京の雪の日、基本デスクワークなので外に出ることができない。それでも休憩時間に少しだけ外を見てみると、子供が雪だるまを作っている最中だった。いままで上から雪だるまを作っているところを見たことがなかったので、新鮮な気持ちで撮れた。
55mm固定だったのが良かったのか、雪だるまを引きずった跡、オブジェと木の配置がうまく入った様に見える。あと子供は計7人居るのだが、それぞれの位置は気にしてシャッターを切っている。
札ノ辻橋
田町駅から高輪方面に10分ぐらい歩くとある札ノ辻橋。この辺りでは少ない空が広く、東京タワーがよく見える場所だ。夜だと普通に撮っても絵になるのだが、何度も歩いているといろんな見方ができてくる。
東京タワーが右側のビルに反射して2本、雨の日だったので手すりにも反射して4本、ここで右側から関連づけられそうなバンのテールランプで似た光が6本に。車が丁度良いところで停止したので、気が付いて撮ることができた。あと構図で気を付けたところは、東京タワー上の街灯が頂点に来るようにカメラ位置を調整している。
レインボーブリッジ
駅からは少し離れてしまうが十分徒歩圏内。三脚を置いてじっくり撮ることができる場所だが、こんな感じで面白く撮れる場所を探しながらのスナップも十分楽しめる。狙っている被写体はレインボーブリッジの橋が丸くなっている部分なのだが、画面半分をヘアライン処理がされたステンレスの板(会社の案内板)で点光源をこんな感じで伸ばすことができる。
札ノ辻のビル
札の辻の角にある、古いが緑色のタイルに特徴があるビル。それほど大きくないので道路を挟んでだと、望遠70mm辺りからやっと上下左右のごちゃごちゃしたところを隠して撮ることができる。この日は左1/3くらいに日が当たって、消火栓の標識の丸い影が落ちていた。ここで注意したのは、丸つながりで自転車が入ることと、その位置。影と人は被らない位置、隙間の大きさも注意して撮った一枚。
あとがき
田町はいかがだっただろうか。駅を降りたらまず北口の交差点→札ノ辻→運河を撮ってからレインボーブリッジ方面に行くといい。特にユリカモメが居る夏以外の時期がお勧め。空を飛んでいるのを撮ってもいいし、手すりに並んでいるのを歩いている人と絡めたりするのもいい。運河や横断歩道は比較的離れて撮る場面が多いので、ズームレンズが一本あると構図が作りやすくなると思う。
■写真家:富久浩二
日々の通勤風景を主に、いつも見ている変わりばえのない、しかし二度とやって来ない一瞬の情景を大切にし、ちょこっと人が入った物語りのある写真をテーマのもとに、人びとの優しく楽しい感情が伝わる事を目標に日々撮影している。子供の頃の目線、何と無く懐かしさを感じて貰える様に、ライブビューを使った低い目線、思い切って背伸びをした様な高さからの撮影が特徴的。