タムロン 150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD ニコンZマウントレビュー|携帯性に優れた便利な超望遠ズーム
はじめに
「超望遠レンズに、かつてない自由を」というキャッチコピーで登場したタムロン150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Model A057)。2021年6月にソニーEマウント用、2022年10月に富士フイルムXマウント用が発売され、2023年10月には待望のニコンZマウント用が発売された。
この150-500mmはタムロンのZマウントレンズとしては70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD(Model A047)と35-150mmF/2-2.8 Di III VXD(Model A058)に続く3本目のレンズで、4本目としては28-75mm F/2.8 Di III VXD G2も控えている(2024年4月18日発売予定)。
ニコン純正Zレンズとの比較
ニコン純正のZ超望遠ズームレンズといえば、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR SとNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRの2本がラインナップされているが、タムロン150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXDはスペック的にはこれら2本の中間的な立ち位置だ。
焦点距離だけでなくサイズ感や重量感も純正レンズ2本の中間で、Z100-400mmはフィルター径77mで質量1435g、タムロン150-500mmはフィルター径82mmで質量1875g、Z180-600mmはフィルター径95mmで質量2140gとなっている。なお質量は3本とも三脚座を含むメーカー公表値である。
特筆すべきは収縮時のレンズ長で、タムロン150-500mmは212.3mm、Z100-400mmは全長222mm、Z180-600mmは315.5mmで、なんとZ100-400mmよりもタムロン150-500mmのほうが短く、カメラバッグへの収まりがよいのである。サイズ感に多少なりとも抵抗感がある超望遠レンズ初心者にとっては、タムロン150-500mmのコンパクトさは大きな魅力だ。
また実勢価格の比較では、タムロン150-500mmは約15万円、Z100-400mmは約33万円、Z180-600mmは約23万円と、タムロン150-500mmのコストパフォーマンスが際立つ。
150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD | NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S | NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR | |
焦点距離 | 150-500mm | 100-400mm | 180-600mm |
最短撮影距離 | 0.6m | 0.75m | 1.3m |
手ブレ補正 | 〇 | 〇 | 〇 |
フィルター径 | Φ82mm | Φ77mm | Φ95mm |
最大径×長さ | 93mm×212.3mm(ニコン用) | 98mm×222mm | 110mm×315.5mm |
質量(三脚座含む) | 1,875g (ニコン用) | 1,435g | 2,140g |
発売日 | 2023年10月31日(ニコン用) | 2022年2月4日 | 2023年8月31日 |
外観・操作性
本レンズの全長はワイド端150mm時に212.3mm、テレ端500mm時に285.7mmと全長が変化するタイプのズームレンズで、500mmまでカバーする超望遠レンズでありながら携帯性に優れている。レンズ質量は三脚座無しで1720g、三脚座込みで1875gと、コンパクトな割に重く感じるものの、500mmクラスの超望遠レンズとしては軽量で機動性に優れ、手持ち撮影時の重量バランスも悪くない。
▼ワイド端150mmで撮影
▼テレ端500mmで撮影
操作系は、レンズ先端側にズームリング、手前側にフォーカスリングという配置だが、フォーカスリングが細いことに加え手前に寄りすぎている印象だ。ズームリングとフォーカスリングの間にあるスイッチボックスが盛り上がっているため、左手でのマニュアルフォーカス操作には難がある。
ズームリングは硬めながら回転角は75°と小さく、最小限のズーミング操作で狙った画角に合わせられる。また、ズームリングを前後にスライドさせることで任意のズームポジションでロックできるフレックスズームロック機構を搭載している。なお35-150mmF/2-2.8と併用する場合は、ズームリングとフォーカスリングの配置が前後逆のため、咄嗟の操作で迷うことがあるので注意が必要だ。
鏡筒右手側の操作系としては、ワイド端でズームを固定するロックスイッチがあり、左手側の操作系としては上から撮影距離切替スイッチ、フォーカスモード切替スイッチ、リニア・ノンリニアスイッチが並ぶ。
着脱可能な回転式三脚座にはアルカスイス互換雲台用の溝が切ってあり、追加のプレートを準備することなく対応雲台に載せることができるのはありがたい。
光学系
16群25枚の光学系には、XLD(eXtra Low Dispersion)レンズ1枚とLD(Low Dispersion)レンズ5枚、さらに複合非球面レンズ2枚を効果的に配置し、クリアな写りを実現している。
実写においても優れた描写性能を実感できる。一世代前の超望遠ズーム、とくに焦点距離400mmを超えるレンズの多くはテレ端の画質が満足に解像しないものが多く、安定して使えるのはテレ端の8割程度までというのが常識であった。本気度の高い超望遠ユーザーが単焦点超望遠レンズしか受け付けなかったのはこのためである。
しかし、このたびタムロン150-500mmをしばらく使ってみたところ、画質面での不安定さは一切無く、ワイド端150mmからテレ端500mmに至るまで高画質を維持していたのには驚かされた。
飛行機撮影の実写
150-500mmという焦点域は旅客機撮影の撮影シーンのうち7割以上をカバーできるといっても過言ではない。残りの2割は150mm未満の標準~広角レンズ域と、1割は500mm超えのさらなる超望遠レンズ域だ。したがって本レンズと35-150mmF/2-2.8の2本を組み合わせれば、旅客機写真における8割以上の焦点域をカバーできるというわけだ。
飛行機撮影において求められるレンズの性能は、なんといっても画質である。飛行機の持つメカニカルな質感とクリアな描写、そして細かい文字まで読めるほど解像するレンズこそが飛行機写真における良いレンズなのである。
本レンズは比較的廉価な超望遠ズームでありながら、軽々と最低基準をクリアしてワンランク上の描写を楽しめる。また飛行機写真では空バックでの撮影機会が多く周辺光量不足が目立ちやすいものだが、本レンズは十分な周辺光量が得られた。
耐逆光性能が高く、夜間撮影においてもフレアやゴーストなどの有害光が目立たない。
戦闘機の撮影においては、500mmでは離着陸やタキシング等の比較的近距離からの撮影に限定されるが、超望遠域を使う飛行展示機と中望遠を使う地上展示機の両方を慌ただしく撮影しなければならない航空祭では活躍してくれるレンズである。
野鳥撮影の実写
野鳥は被写体としては小さいうえに警戒心が強いため、撮影には超望遠レンズが必須アイテムだ。焦点距離の目安は800~1000mmなので150-500mmでは若干焦点距離が足りないのだが、APS-Cサイズのカメラを使うか、フルサイズ機のクロップ機能を使い1.5倍の望遠効果を得れば500mmでも750mm相当のレンズとして使えるので、野鳥撮影入門レンズとして最適だ。
筆者が使用するニコンZ 9とZ 8はFXフォーマット(フルサイズ)約4500万画素なので、DXフォーマット(APS-C)にクロップしても約1900万画素残る。1900万画素もあれば大伸ばしでもしない限り十分なクオリティが得られるので、無理に接近して野鳥に逃げられるよりも最初からクロップモードにしておいて、野鳥と適切な距離を取って撮影した方が自然な表情で撮影できる。
上の2枚は同じ位置から撮影し、1枚目はFXフォーマット(フルサイズ)、2枚目はDXクロップしてDXフォーマット(APS-Cサイズ)で撮影している。
野鳥撮影においても、タムロン150-500mmの描写性能は素晴らしく発揮され、適切な条件下で撮影すれば羽毛の一本一本まで解像する。白い鳥のエッジが滲まないのも好印象だ。
ボケ味には若干のざわつきはあるが、このクラスの超望遠ズームにしては良い方だろう。最短撮影距離はワイド端で0.6m、テレ端でも1.8mと短く、テレマクロ的な撮影にも適している。
まとめ
テレ端500mmという超望遠域をカバーしながら実勢価格約15万円というお手頃価格と、極限まで小型化を追求したタムロン150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD(Model A057)。飛行機写真や野鳥写真の入門者はもちろん、上級者の遠征用レンズとして、または一眼レフからミラーレスへの移行組の最初の一本としてもオススメのレンズに仕上がっている。
(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止
■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。