タムロン 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD レビュー | 日常と旅をこれ一本で
はじめに ~日常と旅に最適なレンズを探す日々に終止符?~
自転車や旅をテーマに雑誌の編集などをしながら仕事、プライベート問わずに写真を撮っている僕は、最高の写真を撮るために最良の機材を選ぶという選択とは少し異なる機材セレクトをしています。もちろん最新の大口径単焦点レンズや、F値の低いズームレンズを使いたいけれど、機材が重くなってしまうと移動中に疲れてしまうことや、目標の行動を妨げてしまうことがあるので、今回の旅はどのくらい歩くか? サイクリングで何キロ走るか? などを考えた上で「少しでも軽量な機材・だけど良い写真が撮れる機材を」と、相反する要素に毎回葛藤しながら選んでいます。
そんな僕が日々試行錯誤している「機材の重量と写真の良さ」について両立してくれているレンズが、レンズメーカーのタムロンから2020年6月に発売されました。
半信半疑だった高倍率ズームレンズを使ってみた
今回レビューするレンズは、タムロンが2020年6月25日に発売した、ソニーEマウント用の『28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD (Model A071)』。その名の通り28-200mmの高倍率ズームレンズで、最小F値は可変するけれど高倍率ズームでは世界初となる“広角側でF2.8から使用できる”「明るさ」と、質量が僅か575gとなる「軽量・コンパクトさ」を兼ね備えたレンズです。
実は、僕はこれまでに高倍率レンズというものをほぼ使用してきませんでした。低いF値のレンズを使いたいということや、シャープでメリハリのある写真を求めたいこともあり、焦点距離が35mm、50mm、85mmといった単焦点レンズを組み合わせながら旅などでの撮影をしてきました。
しかし今回のレンズは高倍率ズームで、かつ軽量・コンパクトなレンズは、僕のように徒歩や自転車など、移動手段が人力中心という人にとっては“荷物の圧縮・軽量化”ができて軽快な撮影フットワークが得られそうということに期待し、同時に僕がいままで半信半疑だった高倍率ズームレンズの写りは、いったいどんなものかということについても興味があったので、このレンズ1本だけ装着したα7Ⅱを持って、身近なところから撮影を始めましました。ぜひ以下からの写真をご覧ください。
※今回の機材「タムロン 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD (Model A071)」と「ソニー α7Ⅱ」。この組み合わせで重量は約1,130g。以下の写真はすべてこの機材だけで撮影しています。
単焦点レンズで撮ったような写りが出てきた!
前述したように僕があまりズームレンズを使ってこなかった大きな理由は、シャープな画や低いF値を活かした表現の写真が撮りにくいだろうというということで、レンズ交換をする手間や撮影現場で自分が動くことを、なんとかやってきながら単焦点レンズの組み合わせで撮ってきたのですが、今回のレンズ「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」を使い始めてみると、ズームレンズの“写り”の不安は、どこかに行ってしまいました。
撮り始めた初日、近所を徒歩で巡りながら、休憩がてら寄ったカフェで、なにげなく撮ってみると、「えっ、これが高倍率ズームレンズの写り?」という、シャープでボケ味も滑らかな写真が出てきました。
軽量・コンパクトさを得て、旅や散歩の機動性を上げる選択肢にしようと思って使い始めた高倍率ズームレンズだけど、写りの良さに感激してしまって、その場でα7Ⅱのモニターに写ったこの写真をスマホで撮って「まるで、単焦点レンズで撮ったような写りの写真がでてきたんですが!」とタムロンにメッセージしてしまっていたほどです。
単焦点レンズは好きだけれども、このレンズがあれば、新たな撮影フットワークが得られるのではと頭をよぎった瞬間でした!
羽田空港の新航路運用のため東京の街中で見かけることが多くなった着陸間近の旅客機。飛行機のクローズアップよりは、街の雰囲気も一緒に写したいと思って広角側で撮影。焦点距離28mmがあると、街散歩中のスナップシュートには何かと便利だ。
夜の街中撮りも万能! 上の写真と同様に広角側で撮影。28mm単焦点レンズで撮ったような、歪みが少なくシャープで黒も締まった雰囲気に。もうこのレンズ1本だけで旅や散歩ロケができる気が……。
28から200mmという焦点距離を使いこなす
僕はこのレンズを使ってみて最初に感じたことは、高倍率ズーム域の広さというよりは、単焦点レンズで撮れるような写りに感動したことを先に記しましたが、もちろんこれ1本で広角(28mm)から望遠(200mm)まで撮れるということについても、しみじみ実感することができました。上の写真は、200mmで撮った後に、同じ位置の28mmで撮った2枚の写真です。同じレンズなのに写る範囲の振れ幅がすごいことを早速実感。
自分が動かなくてもレンズの交換をしなくても、これほど異なる2枚の写真が瞬時に撮れるのが高倍率ズームレンズの魅力なんだなと感じつつ、朝焼けの難しい空の色味を破綻せずに描写してくれました。
ところで高倍率ズームレンズを使うことによって心配だったことがありました。自分が動かずともいろんな写真を狙えるので、撮ることに対して横着してしまうんではないかと思っていたのですが、それぞれの焦点距離に合う構図を常に探してしまっているので、結果全く楽できておりません(笑)。
被写体の大きさは同じくらいだけど、撮影時の焦点距離がそれぞれ28mm(上)、200mm(下)で撮った写真を並べてみる。1枚目:広角ならではの景色がワイドに広がる雰囲気。2枚目:望遠ならではの圧縮感。焦点距離によって異なる、それぞれの持つ表現が、このレンズ1本でできてしまうのは本当に驚きで、高倍率ズームレンズを使ってこなかった僕にとっては新鮮な発見だ。
マクロレンズ、家に置いてきても大丈夫!
タムロンがリリースしているソニーEマウント用レンズの共通した特徴として、マクロでの撮影性能を重視していることがあります。もちろんこのレンズも広角側の28mmでは最短撮影距離が0.19m、望遠側の200mmでは最短撮影距離が0.8mと、いずれの焦点距離でも寄れる性能を重視し、たとえば水滴などの超クローズアップでなければ、充分に寄ったマクロ写真を撮影できてしまうほどの性能を持っています。上の写真は、広角側28mmに設定して、紫陽花をフレーム一杯におさめてみました。
僕はそれほど被写体単体をクローズアップするような本格的なマクロ写真を撮ることがあまりないのですが、寄れるレンズがあると旅写真のバリエーションが増えてくれると同時に、広角側での寄れる性能とF2.8の明るいF値を活かした、主役の被写体の周りの雰囲気も写し込むような写真も狙えるのはとても便利です。
広角側(28mm)で夜の街を広く見せつつ、それらの背景が玉ボケになるような、低いF値(F2.8)を活かした写真を撮ってみた。
まとめ ~写りの良い高倍率ズームで写真旅を楽しみたい
旅が好きな方は、荷物をできるだけ少なくしたいと考えている。けれど写真が好きな人ほど、旅先で出会った絶景や素敵な出会いを、できるだけ最良の1枚で残したいと考えてしまって、機材が増える&重くなってしまう……といったジレンマと戦っているハズです(自分もその一人)。その解決方法の一つが、このレンズを使うことではないかと感じました。軽量・コンパクトさと写りの良さ、そしてコストパフォーマンスの良さは、メーカーの努力によって両立してくれるということを証明してくれる一本と感じるハズです。
もしも、どうしてもこのレンズ一本で旅先の写真を撮るには物足りないという人は、景色が好きな人ならば、さらに広角のレンズ、例えばタムロンの「20mm F/2.8 Di III OSD M1:2 (Model F050)」や、ポートレートが好きな人は、F値がもっと低い中望遠レンズを何か1本、追加して持っていけば更に写真旅は充実するはずです。
僕はこのレンズを発売前から使用させていただいていたのですが、ちょうど慣れてきたころに月刊のカメラ雑誌「デジタルカメラマガジン(インプレス刊)」から“1万円で行く写真旅”というテーマで、旅記事の撮影と執筆の依頼をいただき、28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD (Model A071)をメインで使った写真で構成した記事を作成しました。記事は「デジタルカメラマガジン 2020年8月号(https://book.impress.co.jp/books/1120110207)」に掲載されました。本記事の最後に、その際に撮った旅写真のアザーカットを掲載しますので、少しでもこのレンズで撮った旅の雰囲気を感じていただければ幸いです。
さて、あまりに万能に撮れすぎてしまっている本レンズですが、旅や散歩で写真を撮って楽しむ人は、ぜひこの高倍率ズームレンズを選び、荷物が軽くなった分、もう少し先まで旅先を伸ばしてみて、いままで撮れなかったところまで足を運ぶのはいかがでしょうか?
「デジタルカメラマガジン 2020年8月号」の連載記事“1万円で行く写真旅”で、僕が選んだ旅先は東京の島「伊豆大島」。都心から120km離れた島内では、大自然のフォトジェニックなスポットが次々と遭遇することができ、写真好きにはたまらない、都心に住む人にとっては気軽に行ける離島のひとつ。写真は人気の写真スポット「泉津の切通し」。この場所には日がなかなか差し込まず、引いて撮るのもなかなか難しく、雰囲気を捉えるのが、なかなか難しいが、高倍率ズームレンズのおかげで構図がすんなり決まることに。
伊豆大島・元町エリアにある完全予約制のカレー店「木里吉里(きりきり)」でお昼を。ゆったりとした店内の雰囲気も素敵だったため、広角側で寄れる性能を生かしながらカレーと店内を一緒のカットに収めてみた。僕は旅写真においては、美味しかった料理を食べたいという写真を撮ることとだけで満足せず、できればそこに行って食べてみたいといった、その場の雰囲気を伝えられるような写真も撮るようしているので、このようなレンズはとっても重宝する。
伊豆大島への行き帰りは、大型客船「さるびあ丸」に乗って。行きは夜出港のため、写真を撮れるチャンスは東京湾の夜景くらいだけど、帰りは日没前後の素敵な光に包まれたシーンが次から次へとやってくるので、写真好きには全く休む間もない嬉しい時間帯が続く。写真は東京の品川埠頭に接岸したばかりの2隻の巨大コンテナ船と、さるびあ丸がカーブした際の軌跡、マジックアワーの空といった少し欲張りな状況を広角側28mmで。
タムロン 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXDと他のレンズを比較
「タムロン 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」と「タムロン 18-200mm F3.5-6.3 Di III VC」、「タムロン 28-300mm F3.5-6.3 Di VC PZD」、「ソニー FE 24-240mm F3.5-6.3 OSS」の価格や主な特長比較をこちらの「スタッフイチオシ」で掲載していますので是非ご覧ください。