はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回はタムロンからリリースされたEマウント用のズームレンズシリーズ、28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)をご紹介します。
今や優良ズームレンズの宝庫となっているタムロンから、焦点距離、サイズ感、価格等が高次元でバランスの取れたレンズが登場しました!今回は夏の旅行の写真とともにその使用感、特徴をレビューしていきたいと思います。
タムロン最新ズームレンズの登場
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離64mm f8 1/640秒 ISO100 WBオート
一眼レフの時代からズームレンズやマクロレンズと言えば名前が上がるほど、銘玉を作り出してきたタムロンですが、今回は28mmから300mmまでをカバーする10.7倍の高倍率ズームをリリースしました。ズームレンズが一般的になったフィルム一眼レフ時代には、それまで主流だった単焦点レンズとの引き合いに出され、ズームレンズは便利だが描写はまだまだという評価が一般的でした。特に高倍率ズームとなればその評価は尚更。色々な画角が必要となる「旅行用レンズ」としては人気でしたが、普段使いは単焦点レンズだよねというのがユーザーの評価。それも今は昔、ミラーレスカメラ全盛の現代では、フランジバックの短さからレンズ構成の自由度が高くなり、コーティング技術の進化や非球面レンズ等の登場で「便利ズーム」と揶揄されていた時代は完全に過去のものになっています。
本レンズはレンズ構成13群20枚と考えられない量のレンズで構成されており、先述した非球面や異常低分散といったレンズもふんだんに使われているのにも関わらず、質量610gというスペック。600gと言えば夏によく販売されているビッグサイズの麦茶のペットボトルなどがそれに該当しますが、あまり重いと感じたことはないかと思います。しかもそのペットボトルは高さ約210mmに対し、本レンズは126mmとかなりコンパクト。そこに10倍を超えるズームがつくとなれば、正に文句なし。
筆者も息子との夏旅行を本レンズ1本だけで約4000枚程度撮影しましたが、レンズを交換しなくて良いという事にとても大きなメリットを感じました。特に夏の日差しが強い時期はカバンからレンズを取り出し交換するだけでもひと汗かいてしまうくらいですので、レンズ1本ですべて賄えるというのは想像以上に便利だというのが正直な感想です。
参考に今回の旅行の行程をご紹介します。作例と併せてご覧ください。4泊5日で九州地方の西側を電車+フェリーで移動しました。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離40mm f8 1/1000秒 ISO100 WBオート
毎年息子と二人で行っている旅行も今年で3回目。今年は初めての飛行機旅となりました。ドキドキしている息子を横目に1枚。移動が難しい場所でこそ輝くのがズームレンズです。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離63mm f8 1/100秒 ISO100 WBオート
福岡空港に降り立ち、九州地方鉄道の旅が始まりました。まずは福岡県の甘木鉄道に乗り込みます。ちょうど同じ年の頃の少年も写り、少し物語が垣間見えるような写真となりました。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離46mm f8 1/50秒 ISO100 WBオート
甘木鉄道の車両のデザイン。良い配色です。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON
28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f4 1/125秒 ISO100 WBオート
開放&広角端での撮影。明暗の描き方、椅子の質感など、昔の便利ズームとは一線を画す写りです。福岡県から佐賀県に移動、伊万里焼で有名な伊万里駅から松浦鉄道に乗り、日本最西端の駅を目指します。
あらゆるシーンに対応!高倍率ズームの魅力
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON
28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離40mm f8 1/160秒 ISO100 WBオート
今回の使用シーンは旅行でしたが、荷物が多くなると移動に体力も奪われ旅行そのものを楽しむ気持ちも落ちてしまいます。旅行でもいい写真が撮りたい!という我々は出発前から何のレンズを使えばいいか、悩みに悩むのが常。今回は本レンズ1本、そしてフィルムカメラはPENTAX17のみと決めていたので、過去一快適な旅行になったと感じています。
旅のスナップ、風景、息子を被写体にしたポートレートなど、撮りたいシーンは様々でしたが、単焦点レンズの様に撮れないものは諦める!スタイルではなく、どのシーンも貪欲に撮影できたのは高倍率ズームあっての事。旅行では歩きながらの撮影も多くなりますが、リニアモーターフォーカス機構VXDが搭載された本レンズのAFは、速度・精度ともに申し分なく、便利ズームはAFが遅いという常識を完全に覆しています。
また、300mmを超えるズームレンズで気になるのが、手ブレです。高倍率ズームは望遠と引き換えに望遠端のF値は暗めになってしまうため、せっかくの望遠で撮影しても手ブレしているという事が散見されます。本レンズはタムロン独自の手ブレ補正機構が搭載されており、ブレを気にすることなくズーム全域で撮影することができるのも強みです。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離60mm f13 1/160秒 ISO100 WBオート
2日目は長崎県佐世保市からスタート。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離300mm f10 1/200秒 ISO100 WBオート
後ろに写っている豪華客船を望遠で撮影してみました。SSは1/200と焦点距離300mmだと1/500程度は欲しいところですが、手ブレ補正の効果もあり精細な結果が得られています。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離35mm f11 1/320秒 ISO100 WBオート
電車を乗り継いで、長崎の東端近い島原港へ。観光列車「ふたつ星」に乗車し田園と沿岸の風景を満喫しました。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f8 1/1000秒 ISO100 WBオート
夏の空は望遠、広角どちらでも異なる表情で撮影できるため、高倍率ズームとの相性は抜群。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離61mm f5.6 1/1000秒 ISO400 WBオート
揺れる電車の中で、ブレない、白飛びしない、黒つぶれしないを意識しながらマニュアルモードで各値を設定し撮影。ドラマチックなシーンも自由に描けます。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f4 1/30秒 ISO100 WBオート
リンゴのムースが爽やかなケーキ。広角端はなんと20cm程度まで寄れる優れもの。テーブルフォトにも強く、この作例よりも更に寄って撮影もできます。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f4 1/25秒 ISO3200 WBオート
少し飛んで4日目夜の門司港駅の様子。1914年に誕生した駅舎は110年の歴史を誇ります。夜の撮影も手持ちで十分対応できるのは本レンズの強みです。
高倍率ズームで気になる描写力、その結果は
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f8 1/500秒 ISO100 WBオート
かつての高倍率ズームは、利便性のため描写を犠牲にせざるを得なかったわけですが、令和生まれの高倍率ズームは利便性と描写力を両立できており、その技術の進歩に驚かされます。もちろん、高性能単焦点レンズはこれを凌駕する描写となるわけですが、本レンズの描写力は必要十分。やや暗めの開放F値ながら望遠側で撮影することで、大きなボケを作り出すことも可能です。
描写の最高性能となるのはF8~11と、近年のF4~5.6程度で最高性能となるレンズと比較しF値を上げなくてはならないのは意識しておきたいポイント。特に開放域では周辺光量落ちがやや強いため、RAW現像をされる方は、ソフトウェア側で補正を入れてあげると良いでしょう。
作例を見ていただければ、本レンズが十分な描写力を有しているとご理解いただけるはずです!
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離49mm f8 1/640秒 ISO100 WBオート
島原港からフェリーで熊本に向かいます。フェリーのデッキから雲を見る息子を撮影してみました。7歳にとって大冒険を感じさせる、そんなジュブナイル感がある写真となりました。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離90mm f8 1/1250秒 ISO100 WBオート
工場夜景好きの父にとって、鉄のキリンは大好物です。単焦点だととっさに撮れないよな…などと思いながら撮影しています。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f8 1/60秒 ISO100 WBオート
3日目は熊本からスタート。車体の可愛いあそぼーいという観光列車に乗り込み、南阿蘇を目指します。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離47mm f8 1/800秒 ISO100 WBオート
南阿蘇鉄道にてトロッコ列車に乗車!こちらは偶然見つけたロケーションですが、ズームレンズは限られたシーンでの撮影に強く、高倍率ズームであれば尚更そのチャンスをものにすることができます。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f8 1/320秒 ISO100 WBオート
南阿蘇鉄道は2016年4月に発生した熊本地震の影響によって、7年3か月もの間一部不通となっていましたが、2023年7月に全線運転再開となりました。これは橋梁から撮影したものですが川には未だ大きな鉄骨が残り、地震の爪痕が垣間見えます。
ライバルは自社製品!?28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXDとの違い
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f4 1/500秒 ISO100 WBオート
タムロンの大ヒットレンズに、2020年発売の28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD(Model A071)があります。未だに売れ続けているロングセラー商品で、本レンズとも共通する部分がいくつかあります。
全長はA071が117mmに対して本レンズ126mmとほぼ差はありません。質量はA071が575gに対して本レンズ610gと35g差でこれまた僅差。最短撮影距離もほぼ同等と、差となって表れるのは開放値1段差のF値と望遠差100mm、そして手ブレ補正の有無となります。
結論を言ってしまえば、より幅広いレンジでオールマイティーに撮影したい場合は本レンズ、より高い描写力を得たい場合はA071と考えるのが良いでしょう。F値の差と手ブレ補正の差はそれぞれでメリットがあるため比較は難しいですが、100mmの差はかなり大きいと考えます。特に旅行などで、様々なシーンを確実に残したいという場合は本レンズに軍配が上がります。
また、これからの時期、運動会などでも重宝する画角ですので、お子さんがいる家庭ではこれ一本あれば他にレンズは不要と言えるくらいの便利さを誇ります。多用途を考える方にこそおすすめしたいレンズです。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f8 1/500秒 ISO100 WBオート
フェリーにてカッコよすぎる外国の方を撮影させていただきました。まずは28mmですが、スナップにもちょうどよい距離となります。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離69mm f5.6 1/1000秒 ISO100 WBオート
続いて約70mm。ポートレートにも適した距離となります。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離300mm f7.1 1/500秒 ISO100 WBオート
望遠端300mmはA071にはできない+100mmの距離。ボケの量も大きく印象的です。
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離300mm f11 1/800秒 ISO100 WBオート
決して大きくはありませんが、とっさに視界に入った飛行機を撮影できるのも高倍率ズームの魅力です。被写体のAF追従も申し分ありません。
まとめ
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離28mm f10 1/800秒 ISO100 WBオート
簡単にですがタムロン高倍率ズームの魅力を紐解いてみました。もう便利ズームとは呼ばせないというタムロンの意気込みが感じられる、高性能ズームレンズという事に気づいていただけたのではないでしょうか。以前のレビュー記事 で紹介したα7C IIとのバランスも悪くないため、これから秋~冬の旅行にも重宝すると考えられます。利便性という観点においては、他の追従を許さないほどに満足できるレンズですので、ぜひお手に取って確かめてみてください。
息子との旅行4日目は桜島を目の前にした鹿児島の海を経て、新幹線と在来線で九州北部の門司港まで移動し、翌日最終日は、福岡空港から無事飛行機で帰宅となりました。最後は8歳の誕生日を迎えた息子とそれを祝福してくれる?旅先で出会った4人の写真で締めたいと思います。それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離58mm f8 1/30秒 ISO100 WBオート
■撮影機材:SONY α7 IV + TAMRON 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD (Model A074)
■撮影環境:焦点距離127mm f8 1/400秒 ISO100 WBオート
■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門 」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル 」がある。リコーフォトアカデミー講師。