タムロン 28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 Zマウント|旅と日々を豊かにしてくれる標準ズームレンズ
はじめに
2024年3月28日にタムロンから新たに標準ズームレンズ「28-75mm F/2.8 Di III VXD G2」のニコンZマウント用が登場しました。「標準ズームレンズ」とは、24mmまたは28mmから80mm前後の画角を持つズームレンズのことを指し、多くの人にとって使いやすい画角をカバーしていることから広く一般的に愛用されているレンズのひとつでしょう。本レンズは28mmから75mmという、広角から中望遠をカバーすることで風景からスナップやポートレート、そしてテーブルフォトまで幅広く対応でき、日常使いから旅まで様々な場面で活躍してくれます。
今回、発売に先駆けてカタログや公式WEBサイト用の作例撮影をご依頼いただき、その撮影のために昨年末にベトナムロケへ出かけました。その旅の記録とともに本レンズをご紹介します。
28-75mmの使いやすい画角
28mmは広角であることから広さや遠近感を伝える、被写体を大きく捉えつつ背景までしっかり入れられる、という特徴があります。一方で75mmは中望遠域になりますが、画角が狭くなることで離れた場所にある被写体を大きく捉える、また圧縮効果によりギュッと詰まった印象を与えてくれる、という特徴があります。
ベトナムへは人生2度目の渡航でしたが、今回もまず目を奪われたのがこの低い椅子。街中の至る所で大の大人たちが皆、低くて小さな椅子に腰を掛けて食事をしている光景はベトナムへ来たことを実感させてくれるものでした。28mmという画角は皆揃ってこの低い椅子に腰を掛けているところをしっかり伝えてくれるものとなりました。
海外の市場は見慣れない食材の宝庫でとても興味深い場所です。生の野菜や果物などは日本へは持ち帰ることができませんが、ゆえに写真を撮っておきたくなります。広角側と望遠側でそれぞれカメラのアングルを変えて撮ることで、店先にずらりと並んだ野菜などの豊富さが伝わるショットとなりました。混み合う露天の市場では程よい距離感で撮影できる75mmはちょうど良い焦点距離だと感じられます。
かつてフランス領だったベトナムは、今でもその名残から日本でいうところのフランスパン、つまりバゲットがよく食べられているようです。ハノイでも街のあちこちで販売されているところを見かけました。絞り開放のF2.8で撮影していますが、人物は大きくぼかしつつ街の賑わいと洋風の建物などの街並みはしっかり伝えてくれています。
ハノイの街を歩き回っている中でランタンが印象的な狭い路地に行き当たりました。一番望遠側の75mmで撮影することによる圧縮効果で、ランタンの他、お店の看板や国旗がぎゅっと詰まってベトナムらしい印象の1枚となりました。
圧倒的な描写性能
本レンズの大きな魅力のうちの一つが「圧倒的な描写性能」です。一般的にレンズは絞りを開放から1段絞ったくらいが一番パフォーマンスが良い、と言われることも多いですが、本レンズは絞り開放からその描写が素晴らしいことも大きな特徴です。
ハロン湾に浮かぶ島のひとつを見上げるように撮影しました。一番広角の28mmで絞りは開放のF2.8ですが、画面の隅々まで岩肌の質感がしっかり描写できています。
ハノイから少し南のニンビンにある「ハンムア」へ行きました。ビューポイントを目指して延々と続く石段を登った先に待っていたのはまさに絶景!(この石段がそれはそれはもう、めちゃくちゃしんどかった……のはここだけの話です。笑)この日は少し雲が多くすっきりしない晴れ、というお天気ゆえに遠景も霞がかかった光景となっていますが、それでも遠くの建物までしっかりと解像していることがわかります。
レンズには逆光時のフレアやゴーストが出にくいコーティングが施されており、絞りを絞ることでしっかりした光条も現れてくれました。
暗所でも有利なズーム全域で開放F値2.8とそのボケ感
一般的なズームレンズは焦点距離に応じて開放F値が変わります。一方で本レンズはズーム全域において開放F値が2.8であり、集光能力が高いレンズに分類されます。絞りを大きく開いて一度にたくさんの光を取り込むことができるので、光の少ない暗い場所での撮影においてシャッター速度を稼いで(速くして)ブレを軽減することができるメリットがあります。
お土産用に絵が描かれたベトナム特有のすげ笠「ノンラー」に広角側で寄ってみました。背景の玉ボケが綺麗にまあるくボケています。
路地裏で見つけたビールの空き瓶が綺麗でレンズを向けました。今度は一番望遠側でなるべく寄ってみましたが、被写界深度から外れたビンの口がボケてまるで天使の輪のように見えます。
ニンビンで宿泊したホテルの近くでたくさんのランタンと出会いました。かなり暗いシチュエーションではありましたが、開放F値が2.8と集光能力が高いことで手持ちでの撮影ができました。
高速・高精度なAF
本レンズのAFの駆動にはリニアモーターフォーカス機構「VXD」が採用されており、非常に素早く、また精度の高いピント合わせが可能です。これにより、動いている被写体や自分が動きながら撮影する際の被写体もしっかりと捉えてくれます。
街中を走り回る自転車タクシー「シクロ」は、赤い座席と黄色のフリルの施された赤い屋根は統一されているものの、運転手さんによって様々なカスタムが加えられているものも多く見かけます。ドライバーが中華系なのか「福」の字をあしらった提灯を取り付けたシクロを見かけ、咄嗟にシャッターを切りましたが提灯にしっかりピントが合いました。屋根の裏側にはベトナムらしい花柄の生地もちらりと見えています。
すたすたと歩く女性の後ろ姿を追ってシャッターを切りました。農村部に限らず都市部でもベトナム特有のすげ笠「ノンラー」を被っている人を非常に多く見かけます。また、野菜や果物などを乗せた大きなザルを担いで歩いたり、自転車の荷台に乗せて売り歩く行商の女性がまだまだ多く、日本人にとっては旅情を感じる一因といえるでしょう。
小型のボートに乗せてもらい、ハロン湾の近くをぐるりと巡りました。色鮮やかな船がたくさん停泊していて、そこで生活している人もいるようでした。止まることなく海の上を進む船から、気になった被写体を見つけるとどんどんシャッターを切っていましたが、素早いAFのおかげでストレスなく撮影ができました。
路地裏のお店の軒先で猫に出会いました。決してじっとしていてくれたわけではなく、ここでも素早いAFとともに、駆動音も小さく静粛性が高いので動物へのストレスを減らしてくれます。
最短撮影距離が18cmの近接撮影
フルサイズ機はAPS-C機などと比較して同じ焦点距離のレンズでも最短撮影距離が長くなりがちですが、本レンズの最短撮影距離はワイド端で18cm、最大撮影倍率は1:2.7となっています。マクロレンズ並に被写体に近付いての撮影が可能となる一方で、被写体を大きく捉えつつ、広角のメリットとして背景も入れることができる点が大きな特徴です。
見た目に鮮やかな被写体は見かけるとつい撮りたくなってしまいます。できるだけ寄って被写体を大きく捉えつつ、奥には他の種類のものも陳列されていることが伝わってきます。
旅にピッタリ!軽量コンパクトで明るいレンズ
標準ズームレンズとしては世の中にはもっと小型・軽量なレンズもありますが、開放F値がズーム全域でF2.8ということを考えると、500mlのペットボトル1本ほどの550gで女性の片手に十分収まるサイズの本レンズは、非常に小型でコンパクトなレンズと言えます。私自身、旅行の際の荷物はできるだけ減らしたいものであり、レンズもあれこれたくさん持ち出すのは辛い、そんな時にこの標準域をカバーしつつ開放F値が明るい、というレンズは非常に心強いパートナーとなってくれます。
先にご紹介したハンムアの近くにある「タムコック」は陸のハロン湾とも呼ばれる景勝地です。ここでは船頭さんによる手漕ぎ(時に足漕ぎ!)の小さなボートに乗り、往復1時間半ほどかけてその風光明媚な景色を楽しむことができます。季節によっては水路(川)の両側の水田が青々としていたり、黄金色の稲穂が揺れていたりもするようですが、この時は季節柄作物などはなく水面が広がっていました。ですが、それゆえに水面に映るリフレクションを楽しむことができました。
ハノイ郊外にある、伝統的なお線香を作っている村へ行きました。お線香を乾燥させる際に色とりどりのお線香をデザイン的に並べることで今や観光名所となっており、カラフルなお線香を背景に自撮りをする人々などを多く見かけました。一方で、すぐそばでは職人さんたちによる手作業の様子を間近に見ることもできました。
ニンビンからハノイへ戻る列車を待つ駅の待合室にて。先に出発した南行きの列車に乗った人々が去ったあと、コンビニの店員さんが後片付けをしているところをスナップ。屋内ですが絞りF2.8が使えるので安心して撮影できました。
街のあちこちで見かける花売りの女性。自転車の荷台にこれでもかというほどの商品を積み、よくバランスが取れるものだと感心してしまいます。少し露出を下げた結果、荷台の黄色いお花が浮かび上がるような1枚となりました。
ローカルな食堂は食事をするスペースが歩道に面していることが多いベトナム。その食卓上に薬味としてカゴに山盛りのライムが置かれていました。通りすがりのスナップゆえ立った状態で被写体までは少し離れており、75mmという中望遠の画角がちょうど収まりよく感じられてシャッターを切りました。ちなみに日本では輸入品がほとんどでちょっと高価なことが多いライムを、食事の度に好きなだけ使えるという点は非常に羨ましく感じてしまいました。
まとめ
広角から中望遠までをカバーすることで幅広い撮影に対応でき、普段使いから旅レンズとしてもとてもオススメの1本です。最近ではワイド端が24mmの標準ズームレンズも増えてはいますが、開放F値がズーム全域でF2.8でありながらこのサイズ感は、荷物をコンパクトに抑えたい人にとっては十分、手持ちレンズのラインナップに加えるメリットのあるレンズといえます。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員