タムロン 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(Zマウント)レビュー|大口径F2スタートの欲張りポートレートズームレンズ
はじめに
タムロンから2023年9月21日に発売された、ニコンZマウントの「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD (Model A058)」は、広角端で開放値F2という革新的なスペックの、フルサイズミラーレス用ズームレンズです。今回は、ポートレートズームと謳われている本製品で街中ポートレートを撮影してきましたので、その魅力と使い勝手についてレビューいたします。
ナチュラルでグラデーションの美しいボケ味
本レンズの画角は準広角の35mmから望遠の150mmで、ポートレート撮影で筆者が使用することが多い35mm、50mm、85mm、100mmの画角をカバーしています。さらに、広角側の開放値がF2、望遠端の開放値もF2.8と、まるでF2.8通しのレンズの感覚で使えるのも魅力のひとつです。
広域のズームレンズだから描写が雑かといえば、全然そんなことはなく、髪の毛やマツゲの一本一本まで丁寧に描写していて、それでいてクセのないストレートなコントラストは、ナチュラルなポートレートを好む筆者には最適な描写性能でした。
特にハイライト部とその中間の明度部分のグラデーションは、明るさに負けて飛びすぎることもなく、しっかりと粘って被写体を描写しながらも、うるさくないボケを作り出していて、とても好印象でした。
望遠端と広角端の比較
望遠端150mmで撮影
広角端35mmで撮影
こちらは、ほぼ同じ場所で望遠端150mmと、広角端35mmで撮影しました。望遠端の描写は、背景が自然に溶け込むF2.8らしい素直な描写で、モデルとの距離が確保できるのであれば、この画角を固定で使いたくなるほど筆者好みの描写でした。
驚いたのが広角端の描写で、35mmで撮影したとは思えないほど背景のボケが大きく、それでいてわざとらしくありませんでした。35mm画角でこの`作った感`を感じさせないボケの描写は、見事と言うしかありません。普段は動画以外でポートレートを広角側で撮ることはあまりないのですが、このレンズなら広角側のポートレートにハマれそうです。
レンズ構成は15群21枚で、絞り羽根は9枚の円形絞り。望遠端、広角端ともに絞り開放で撮影した、こちらの2枚をご覧いただけばわかりやすいと思いますが、中央付近の丸ボケはどちらの画角でも綺麗な丸い形状をしています。構図四隅のボケはレモン型になってきますが、悪目立ちする雑な描写は感じられません。気になる方は絞りを変えるのも手ですが、筆者はボケ感を重視したいので、これくらいなら絞り開放を使用します。
AFの速さ、繊細な描写性能、近接撮影も可能!
前ボケに葉っぱを利用したこのシーンでは、ちょっとズレれば瞳ではなく、葉っぱにピントが合ってしまいそうな構図でしたが、AFはモデルの動きに追従してくれて、ストレスなく撮影が行えました。
本レンズのAF駆動にはリニアモーターフォーカス機構VXD (Voice-coil eXtreme-torque Drive)が採用されています。これにより、広角端から望遠端まで広い範囲の画角を有しながらも、素速く高い精度でピントを合わせてくれます。瞳が見えにくいようなシーンでも、追従性に難は見られませんでした。
筆者はポートレートでは、白飛びギリギリの描写を取り入れた明るい写真を好んでよく撮るのですが、本レンズはアンダー部のしっとりとした描写が美しく、木陰を利用したこの薄暗いスポットでの撮影がとても捗りました。
本レンズは、光の分散性を抑えた4枚のLD (Low Dispersion : 異常低分散)レンズと、3枚のGM (ガラスモールド非球面)レンズを使用しています。そのおかげでしょうか、髪の毛やマツゲはもちろん、肌の明暗の差が出る部分のグラデーションや、唇の質感などがとてもリアルに表現されています。特にアンダー部は手触りまで伝わってくるほど、繊細に描写していると感じました。
最短撮影距離は広角端35mmで0.33m、望遠端150mmで0.85mと、広角側ではかなりの近接撮影が可能です。ズームレンズの画角の自由さという特性と、近接撮影の距離の短さは団体の撮影会など、モデルとの距離を自分の自由にできないシーンで、大いに役に立つでしょう。
実際の重量を感じさせないデザイン
広角側のポートレート撮影だと、画角の特性を活かして低い位置から撮ったり、壁に貼り付いて撮ったりと、フットワーク軽く動くことが多いでしょう。そんなときに気になるのがレンズの大きさ、重さ、形状です。
ニコンZマウントの本レンズの長さは160.1mm(レンズ先端からマウント面まで)、重さ1,190gです。レンズの画角の広さを考えれば妥当なサイズ感ですが、持ち歩くときはちょっと大きく感じるのも事実。ただ、撮影しているときにはその大きさや重さをそれほど感じないのは、その形状にあるのでしょう。
ズームリングとフォーカスリングの中間、レンズ中央部が少しシェイプされており、握りやすい形状になっているので、レンズを下から支えたときに自然にその位置を持つことができます。収まりがいいというのでしょうか、ストレートに近いデザインながら、ほんの少しの工夫で重さを感じさせないデザインになるのですね。
これ一本あれば撮影会は網羅できる!
そのシンプルな外見からは考えられないような、高い描写性能にびっくりさせられたレンズでした。これからポートレートを始める方は、最初の一本としてお勧めします。これ一本で、団体撮影会も個人撮影会も思うような撮影が可能です。
ポートレート以外では、レンズ交換を頻繁にしたくないような旅行に持っていくと、様々なシチュエーションに対応してくれる万能レンズとして、心強いパートナーとなってくれそうです。
■モデル:蒼乃ありす Xリンク Instagramリンク
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。