より身近な景色を作品に タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD × 木村琢磨

木村琢磨
より身近な景色を作品に タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD × 木村琢磨

はじめに

タムロン90mmマクロは1979年に発売されて以来、タムキューの愛称で親しまれている銘玉だ。マクロと言えばタムロン、そう思っている人もかなり多いのではないだろうか。
私自身も広告写真スタジオ時代に、自分用にマクロレンズを買おうとして悩んでいたら先輩から「マクロレンズ買うならタムロンが間違いない」とアドバイスされMyタムキューを導入した経緯がある。

中望遠のマクロレンズと言えば焦点距離が100mmものが多いが、タムロンは90mmと若干広角寄りで風景写真やポートレートにも使いやすい焦点距離だ。
今回はミラーレス用に最適化された専用レンズとして進化を遂げたタムキューを、自分が普段からライフワークの被写体としている植物や落ち葉をメインに撮影を行った。

外観・スペック

私が広告写真スタジオに勤めていた時に使用していたタムキューは、2004年に発売されたSP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1
[Model 272E]で、今から20年前のモデルで主に料理の撮影で大活躍してくれていたレンズだ。

今回新登場した90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]は外観がよりスタイリッシュになり、絞り羽根はタムロン初の12枚に。

SONY a1に装着した状態。
付属のフードを装着した状態。しっかりした造りで余計な光をしっかり遮光してくれる。
吸い込まれそうになる美しい前玉。フィルター径は67mm。

ミラーレス用と言うことでAFも最適化されており、私が使用していたModel 272Eと比べると(20年前のレンズと比べるのもナンセンスだが…)マクロレンズとは思えないほど速い。
特に今回使用しているSONY α1と組み合わせるとAF-Cの食いつきがマクロレンズとは思えないほど俊敏で想像以上に快適な撮影だった。
フードが付属しており造りもよく、フードの下部には回転式フィルター操作が出来るようにスライド窓がついている。

AFの合焦範囲を制限できるフォーカスリミッタースイッチとその下側にフォーカスセットボタンが搭載されている。
USB Type-Cポートが搭載されている。最新ファームウェアへのアップデートやスマートフォンと繋いでのレンズ操作も可能だ。
フードにはスライド窓がついているため回転式フィルターの操作が可能だ。

作例/小さなものから大きなものまで

そもそもマクロレンズって普通のレンズとの違いは何なのか?凄く簡単に言えば小さな被写体を大きく写すことができるレンズであり、普段「もっとアップで撮りたいな~」と言うシーンで活躍してくれる。特に小さな被写体を大きく写す場合はセンサーサイズが大きなフォーマットより小さい方が有利だ。そんな悩みを解決してくれるのがマクロレンズであり、マクロレンズは小さな被写体を大きく写すレンズなので通常のレンズ以上に身の回りの被写体を主役にすることが可能となる。

葉っぱや花、小物、料理……等、適した被写体は沢山あるが、近くのものだけでなく遠景や景色を撮ってもまったく問題ない。
ちなみにこのレンズは「等倍」撮影が可能で、等倍とは最短撮影距離での撮影時にセンサーサイズと同じサイズの被写体を画面いっぱいに写すことができることを指す。例えばフルサイズのセンサーは36mm×24mmなので横幅に36mmのものが目一杯写るということになる。

36mm×24mのフルサイズでの等倍撮影時は長辺36mmに対して36mmのものが画面いっぱいに写り、短辺24mmに対して24mmのものが目一杯写る。
90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]で等倍撮影をする場合のワーキングディスタンスは約82mm。ワーキングディスタンスとはレンズ先端から被写体までの距離のことでありレンズのスペック表に最短撮影距離が記載されていることが多い。
ちなみにFE 24-70mm F2.8 GM II の場合最大撮影倍率は0.32倍となっており標準ズームレンズの中ではかなり寄れるレンズだが、いかにマクロレンズが通常のレンズより寄れるのかがよくわかる。

タムキューと言えば解像感の高さはもちろん、ボケの柔らかさも特徴的だ。私が勤めていた広告写真スタジオは主に料理を撮影するスタジオだったためボケ味は重要な要素の一つだった。

今回使用しているα1は画素数が約5000万画素と高いレンズ性能が必要とされる高画素機であるが、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]は余裕を持った写りをしてくれた。

解像感だけでなく、柔らかいボケ味も健在でいつもより絞りを開けて撮りたくなってしまう。
特にテーブルフォト等はマクロレンズが活躍してくれるシーンのひとつで小物や料理をアップで写したり、通常よりも寄って撮ることで表面のディテールも鮮明に写し取ることができる。

■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/4.0 1/160秒 ISO400 焦点距離90mm
机の上に置いてあった本をクローズアップ撮影。寄って撮影することで被写界深度もどんどん浅くなる。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/4.0 1/50秒 ISO400 焦点距離90mm
先ほどの本が置いてあった机の上の花束にフォーカスを当てて撮影。90mmは望遠寄りの焦点距離だが素直なパース感で自然に見える。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/5.6 1/800秒 ISO400 焦点距離90mm
照明の当たっているドライフラワーを撮影。ピントが合っているところはシャープだがボケは柔らかい。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/5.6 1/250秒 ISO400 焦点距離90mm
晩御飯に食べようと思ってお皿に盛り付けた焼き豚。お腹が空いていたのといいシズル感が出ていたのでグッと寄って撮影。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/8.0 1/100秒 ISO200 焦点距離90mm
晩御飯に作っていたおでんにクローズアップ。温かい料理の場合は近づき過ぎるとレンズの前玉が曇るので注意しよう。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/4.0 1/1250秒 ISO100 焦点距離90mm
おやつに食べようとしていたクッキーを逆光で撮影。クッキーの表面のザクザク感もしっかり写った。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/8.0 1/200秒 ISO100 焦点距離90mm
私が好きなカンボジア産のカンポットペッパーを使った胡椒茶。広告風にコーディネートして撮影。

私がライフワークにしている自然風景の造形美を被写体とした撮影でもこのレンズは大活躍してくれる。特に足元の被写体は90mmという焦点距離が絶妙で近すぎず遠すぎずなのだ。アイレベルからの俯瞰撮影だと少し広めに、屈んで主役の落ち葉にクローズアップも容易だ。100mmと90mmはそこまで差がないのでは?と思われる差だが実際に撮影してみるとクローズアップのシーン、景色を撮る時にその10mmの差は意外と大きい。

■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/4.0 1/80秒 ISO640 焦点距離90mm
マクロレンズだから寄って撮らなきゃいけない…なんてことはなく、風景などの撮影でも活躍してくれる。近接も遠景もバッチリ対応してくれるのが本レンズの魅力だ。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/160秒 ISO640 焦点距離90mm
ピントが合った部分はシャープ、だけどボケは柔らかい。F2.8まで開けると美しいボケの演出を最大限に楽しめる。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/160秒 ISO640 焦点距離90mm
先ほどの一枚に前ボケをプラス。前ボケと後ボケで挟むことで奥行き感が引き立つ。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/5.6 1/125秒 ISO200 焦点距離90mm
風景を撮影するには90mmはちょっと長いかも?と思っていてもファインダーを覗くとしっくりくることが多い。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/8.0 1/125秒 ISO200 焦点距離90mm
F8.0まで絞ることで解像感もピークに。中央から周辺まで見事な写り。私の様なディテールフェチにはたまらない写りだ。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/11 1/125秒 ISO200 焦点距離90mm
人工物も自然風景もしっかり写してくれる。素晴らしい。90mmのこの画角のしっくり感はハマりそうになる。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/200秒 ISO200 焦点距離90mm
散歩している時に見つけたお花を撮影。マクロレンズを持ち歩いていたからこそ目に止まった被写体だ。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/200秒 ISO200 焦点距離90mm
近接撮影はほんの少しアングルを変えただけで仕上がりがガラリと変わる。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/200秒 ISO200 焦点距離90mm
開放F2.8での撮影はピントの位置が非常にシビアだ。撮影している被写体のどこを見せたいのか?まずは被写体の顔を探すところから始まる。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/4.0 1/200秒 ISO400 焦点距離90mm
マクロレンズで撮影するときは構図も大切だ。私は日の丸構図が好きなので被写体を中心に配置して撮影することが多い。日の丸構図とは言え中央に被写体を配置した時にしっくりくるアングル、向き、周りの要素を意識してシャッターを切っている。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/11 1/125秒 ISO200 焦点距離90mm
朝露に濡れる落ち葉をクローズアップで。水滴のリアルさと肉眼ではなかなか見ることができない落ち葉の表面のディテールを鮮明に写した。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/250秒 ISO800 焦点距離90mm
足元に無数に落ちている落ち葉だがその中でも目を引く存在の一枚がある。私にとって落ち葉の撮影は風景写真でもありポートレートの感覚にも近いかもしれない。F2.8で撮影することで主役の落ち葉がより引き立った。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/5.6 1/200秒 ISO200 焦点距離90mm
朝日を受けて立体感が強調されていた瞬間を撮影。質感まで伝わってくる写りだ。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/5.6 1/250秒 ISO200 焦点距離90mm
自然のスポットライト。寄るのではなく、少し距離を置いて撮影することで周りの日陰部分を少し多めに。そうすることで中央のスポットを浴びている葉っぱがより引き立つ。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/5.6 1/500秒 ISO200 焦点距離90mm
このレンズで撮影していて思うことはリアルに写るなということ。本当にその場にある様な写りをしているのでプリント作品として仕上げたくなる。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/11 1/200秒 ISO400 焦点距離90mm
画面いっぱいに葉っぱを写そうとするとフレーミングがシビアになる。フレーミングはカメラとレンズのバランスも重要でα1との相性はかなり良いと感じた。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/8.0 1/160秒 ISO400 焦点距離90mm
落ち葉の隙間から顔を覗かせていた緑の葉っぱ。F8.0まで絞っていてもこの距離感だと意外と被写界深度が浅い。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/11 1/250秒 ISO400 焦点距離90mm
近づけるだけ近づいて葉脈の造形がわかる様に撮影。まさに自然の造形美だ。近接撮影の場合は手ぶれ補正がついていても1/125秒は稼いでおきたい。

私のライフワークの撮影は若干マニアックに思われるかもしれないが、身の回りの小さな景色にもさまざまな美しいものが潜んでいると思っている。マクロレンズが一つあることでその小さな景色を作品として残すことができるのだ。

まとめ

マクロレンズは小さなものを撮るためだけのレンズという考えは間違っていないが、あくまで通常よりも近づいて撮影ができるレンズという考えで問題ない。

いつもの撮影に一本マクロレンズを持ち出すことで広い景色から足元の景色まで撮影フィールドが大きく広がる。
テーブルフォトもいつもよりグッと寄ることができるのでよりインパクトの強い写真を撮影することができる。
特に初めてマクロレンズを使うときはいつも以上にアップに撮れるのが楽しくて自分の手のしわや、小物や本、野菜の断面などなんでも撮ってみたくなるのだ。

■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/160秒 ISO100 焦点距離90mm
昼寝をしている飼い猫の「えむ」。90mmの距離感は猫のポートレートを撮るのにもちょうどいいのかもしれない。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/8.0 1/ 125秒 ISO1600 焦点距離90mm
マクロレンズだからやはり寄りたくなる。猫の鼻はこんなディテールなんだ…と思いながらシャッターを切った。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/8.0 1/ 60秒 ISO1600 焦点距離90mm
目のクローズアップ。瞳に撮影者の自分がしっかり映り込んでいるのがわかる。マクロレンズは造形に注目して撮影するとすごく楽しい。好奇心を大切に撮影したい。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/ 640秒 ISO1600 焦点距離90mm
もう一匹の飼い猫の「はち」。カメラをあまり意識させない距離感で猫のバストアップが撮れる焦点距離ということが今回判明した。ボケ味が良いのでぼかす背景にもこだわりたいところ。
■撮影機材:SONY α1 + TAMRON 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD [Model F072]
■撮影環境:f/2.8 1/ 1600秒 ISO1600 焦点距離90mm
静岡にあるお花屋さん「はなまど」で購入した立つ花束。いい光がさしていたので窓辺で一枚撮影。ハイライトからシャドウまでしっかりと階調が残った状態で写っている。この階調表現がリアルさを感じる要因の一つかもしれない。

私のライフワークにしている足元の落ち葉のある景色もその好奇心の延長線上であり、風景写真の一つとしても成り立っている。
足元の落ち葉にスポットを当てることで、この落ち葉は一体どこからやってきてどの様な道を辿ってきたのだろう?と一枚の葉っぱのストーリーに思いを馳せながら毎回作品制作をしている。

遠くに行かなければ風景写真は撮れないのではなく、足元にも小さな風景が広がっているのでマクロレンズを使って覗き見るのも楽しい。
是非一人でも多くの人にマクロの世界を楽しんでもらいたい。

 

 

■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。

 

 

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