タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD(Zマウント)|タムキューでポートレート・レビュー

水咲奈々
タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD(Zマウント)|タムキューでポートレート・レビュー

はじめに

タムロンのマクロレンズといえば、1979年に発売された初代90mmマクロレンズ「SP 90mm F/2.5 (Model 52B)」が、「タムキュー」の愛称と共に頭に浮かぶ写真愛好家の方は多いと思われます。マクロレンズを接写用途だけではなく、人物撮影にも使用できる最短撮影距離の短い描写性能が高いレンズとして、使用者の用途概念まで変えるほどの革命を起こしたレンズです。

その後、技術進化やデジタル化に合わせてモデルチェンジを繰り返した「タムキュー」ですが、2024年10月、新たにミラーレス版として「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD(Model F072)」が登場しました。今回は、本機の魅力をポートレート作品と共にお送りいたします。

被写体のすべてを高精細に描いてくれる美しい描写性能

■撮影機材:Nikon Z 8 + タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
■撮影環境:f/2.8 1/250秒 ISO400 AWB

シャッターを押してまず感じるのが、画面の隅々まで美しい描写性能です。ファインダーを覗いた瞬間に「わぁ」と声が出てしまうほど。このファインダーから見えている画を、何度も見返せる写真として保存できると思うと、それだけで楽しくなってしまうくらい、被写体のすべてを高精細に表現してくれます。

ボケ味の柔らかさは格別で、ディティールを損なわずに、被写体を立体的にボカしてくれます。ピントが合っている面のシャープさはもちろん、ボケている被写体も立体的に描いてくれるので、構図全体がメリハリのある画として仕上がっています。

■撮影機材:Nikon Z 8 + タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
■撮影環境:f/2.8 1/250秒 ISO500 AWB

今回は、明暗差のあるシーンでの撮影を多めに行ってみました。ポートレートの場合、あまり明暗差を作らないほうが人物の肌は綺麗に見えやすいのですが、ボケの柔らかさと、明暗差があってもディティールを描き切る解像性能に期待して、ムード重視のセッティングで多くのカットを撮影しました。

レンズ構成は12群15枚、4枚の特殊硝材LD (Low Dispersion: 異常低分散)レンズを搭載しています。軸上色収差と倍率色収差は問題なく補正されており、等倍表示しても難色のあるシーンはありませんでした。

筆者が好みの、場所によっては白トビぎりぎりの撮影シチュエーションでも、肌や衣装の布の質感を丁寧に描いてくれました。暗部となる日の当たらない髪の毛も、一本一本丁寧に描写されているのが印象的でした。

もっと近付きたい!を、叶えてくれるレンズ

■撮影機材:Nikon Z 8 + タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
■撮影環境:f/2.8 1/250秒 ISO400 AWB

マクロレンズなので、もちろん被写体にかなり近付いて撮影ができます。本レンズは等倍の撮影が可能で、最短撮影距離は23cmと、ポートレートでは充分すぎるほど近付けます。目元を主役にぐっと寄ったり、唇の艶感に注目したカットにしたり、ネイルを主役にしてみたりと、ポートレート撮影でマクロレンズを使用すると、撮影のバリエーションがぐっと広がります。

強い逆光にも負けない解像性能

■撮影機材:Nikon Z 8 + タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
■撮影環境:f/2.8 1/200秒 ISO800 AWB

画質低下を引き起こしやすい強い逆光や、レンズフードをつけていてもレンズに光が当たってしまうようなシーンでも、クリアーな画を得られました。

こちらの撮影状況は、モデルの背景をレースのカーテン越しの窓にしています。つまり、レンズは光をほぼ正面から受けている状況です。露出をモデルの顔に合わせているので、背景のレースのカーテンはヒダが白トビして、白い背景紙を背負っているような写真になります。

こういった撮影状況ですと、レンズによってはピントを合わせた主役の被写体が、ピントは合っているのになんだかむにゃっとした描かれ方・・・いわゆるネムく描写されてしまうことがあるのですが、本レンズは抜け良く、かつシャープに描いてくれました。

F2.8なら充分なコンパクトサイズ

■撮影機材:Nikon Z 8 + タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
■撮影環境:f/2.8 1/250秒 ISO500 AWB

Zマウントの本レンズの長さは128.5mm、最大径はΦ79.2mm、重さは640gです。今回使用したカメラボディNikon Z 8とのバランスも良く、動き回ることの多い筆者のポートレート撮影でも軽快に動き回れるほど、コンパクトなサイズです。

サイズについてはもっと小さく!もっと軽く!と、欲を言い出すとキリがありませんが、前玉の美しさを見てしまうと、この描写を得るためにはこのサイズが必要なんだと納得させられて、もうこのサイズで充分ですと言ってしまいます。サイズ感から話が逸れますが、それほど前玉が綺麗なんです。お手に取られたら、ぜひご覧いただきたいです。

気の利いた小窓付きレンズフード

■撮影機材:Nikon Z 8 + タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
■撮影環境:f/2.8 1/250秒 ISO400 AWB

今回は使用しませんでしたが、気が利いているなと思ったのが、付属のレンズフードにスライド窓が付いている点です。PLフィルターやNDフィルターなど、回転させて効果を調整させるフィルターを使用する場合、通常でしたらレンズフードを外さないといけないのですが、この小窓のおかげで、フードを付けたままフィルターを使用できます。この一本で色々なものを撮影してもらいたい!という、メーカー側の意気込みを感じます。

マクロレンズを一本持つなら絶対にこのレンズ!

■撮影機材:Nikon Z 8 + タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
■撮影環境:f/2.8 1/250秒 ISO400 AWB

今回のレビューで、90mmの中望遠画角は、ポートレートではモデルに声が届く距離ながら大きなボケを得やすい、使い勝手のいい画角だと再度認識しました。APS-Cサイズのカメラに装着して、135mm(35mm判換算)で使うのも楽しそうです。今からマクロレンズを一本購入しようという方には、絶対的にこのレンズをお勧めしたいです!

 

■モデル:沙倉しずか
https://x.com/shi_saaa
https://www.instagram.com/sakura_shizuka/

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。

 

 

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