フォクトレンダー NOKTON D23mm F1.2 Aspherical(Zマウント)|オールドレンズ好きな人を虜にするレンズ
はじめに
コシナのフォクトレンダー「NOKTON D23mm F1.2 Aspherical Zマウント」は、ニコンDXフォーマット(APS-Cサイズ)のミラーレス機対応の単焦点レンズです。今回は、この大口径準広角レンズの描写性能と魅力に迫るべく、沖縄の街並みをスナップしてきました。
なめらかで優しい絞り開放での描写
絞り開放での描写は、NOKTONらしくなめらかで柔らか。どんなシーンでもオールドレンズで撮ったような優しさと、少しのノスタルジアを写真にプラスしてくれます。フリンジや周辺光量落ちも見られますが、これは味というもの。本レンズに興味を持つ人は、この描写を好むからこそだと、本レンズに魅力を感じる筆者は思います。
ピントを合わせた構図左の青い装飾から、奥に行くに従ってなだらかにとろけていく様子は、撮影していても体感できるほど。明暗の差があるシーンで少しアンダー目の露出がしっくりくる気がして、今回はそのようなカットを多く撮っていました。
写しすぎない、写りすぎない、掴めるような掴めないような、リアルとアンリアルの境目のような、そんな写真を撮りたいときに持ち出したいレンズです。
絞るとキリッとシャープな描写を見せる二面性のあるレンズ
絞りを絞るとキリッとした切れ味の良い描写を見せてくれるのが、このレンズのいい意味の二面性です。夕方の空と雲を心地良い抜け感で描いてくれました。沖縄らしい街路樹も、葉っぱの細かい線が丁寧に再現されています。
こちらの写真は絞りF11で撮影。光の当たったビルも、その谷間で影となっている人々も、絞り開放のふんわり感からは信じられないほどのシャープな描写で、硬軟取り混ぜたスナップを撮影したい筆者にとっては、理想的なレンズと言えます。
被写体の手触りを思い出させてくれる描写性能
レンズ構成は両面非球面レンズ1枚、異常部分分散ガラス2枚を採用した6群10枚構成。最新技術の光学性能が、高い解像力を実現させています。
特に絞り開放時の優しく大きなボケと、ピントが合っている面の被写体のディティールの再現性はとても高く、被写体の手触りを思い出せるほど。質感の記憶を呼び戻してくれるレンズは、なかなか貴重と言えるでしょう。
電子接点のサポート機能でシャッターチャンスを逃さない!
本レンズは電子接点を搭載しているので、対応ボディでしたらカメラのボディ内手ブレ補正(3軸)、ピント合わせサポート機能、Exif情報記録の機能が使用できます。
特にピント合わせサポート機能はとても便利で、ピントが合うとフォーカスポイントの色が赤から緑に変化する枠色変化は、マニュアルフォーカスでピントを合わせているとは思えないほど、シャッターチャンスを逃さない素早いピント合わせを行えます。
絞りによる見え方の変化
同じ被写体を、筆者がスナップでよく使用する絞り値で比較撮影しました。明るさは同じくらいになるように調節しています。
奥の提灯の点光源が丸ボケとなっていますが、F1.2ではボケは大きいものの、画面の隅にあるので丸ではなく楕円形に近くなっています。F2.8まで絞ると、丸に近い形になりました。金属の手摺りの冷たそうな質感や、手前の照明が反射している様子はF4から見て取れるようになり、F8では反射の光の赤い色までしっかりと描写されました。
ムードに合わせて使い分けたいF値
本レンズの絞り羽根枚数は12枚で、絞り開放時は画面中心部の点光源は円形になり、中心部から遠くなるにつれてレモン型になっていきます。絞っていけばボケは丸に近くなりますが、滑らかさは失われます。自分が演出したいムードに合わせて、絞り開放からF2.8くらいの間の絞りにすると、ちょうど良さそうです。
思っているよりも近付ける最短撮影距離
最短撮影距離が0.18mと短いのも本レンズの特徴で、思っているよりもぐぐっと被写体に近付けます。筆者は絞り開放で、露出アンダー目の表現が気に入ったので、今回はひたすら暗めで点光源のある場所を求めて沖縄の街を彷徨っていました。
小さいサイズ、クラシカルなデザイン
スナップ撮影をしていてとても気に入ったのが、小型軽量なサイズとクラシカルなデザインです。F1.2の大口径レンズとは思えないほど小さくて、手のひらにぽんっと乗せてもまだ余るほどのコンパクトさ。長さ45.2mm、重さ240g、フィルター径46mmの数字のスペックよりもさらに小さく感じるので、ぜひ実物を手にとって見ていただきたいです!
デザインも、中古カメラ店の棚から出てきたようなオールドレンズ調のトルクの溝と、懐かしさを感じる数字のフォントは、撮影する楽しみをさらに盛り上げてくれました。
本レンズの魅力とは
明暗の差があるシーンのコントラストがキリッとして美しいのと、アンダー部の描写が丁寧で質感を感じさせてくれるのが、筆者が本レンズに感じた強い魅力でした。23mmの焦点距離はDX機で使用するとフルサイズ換算で35mmになるので、準広角から標準画角がお好みの方は、MFに慣れていない方でも比較的早く使いこなせるようになると思います。
標準から望遠系での撮影が多い筆者は、あらためて35mmの画角の魅力を感じさせてもらえたレンズでした。特に、オールドレンズっぽい質感の演出ができる点に、筆者の心はぎゅっと掴まれました。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。