フォクトレンダー ULTRON 27mm F2 Xマウント レビュー|こばやしかをる
はじめに
富士フイルムXマウント用レンズとして、2023年6月に発売されたばかりのVoigtlander(フォクトレンダー) ULTRON 27mm F2 Xマウント。発売に先駆け、事前に作例を撮影させていただいてから半年近く経ちました。改めて愛機FUJIFILM X-E4とのスタイリッシュなコンビネーションで撮影してきたので、その操作性や、描写について魅力をお伝えいたします。
■ULTRON 27mm F2 コシナWEBページ(公式作例をこばやしかをるさんが担当)
Voigtlander ULTRON 27mm F2 Xマウントの特徴
フルサイズ換算40mm相当の画角を持ち、一般的に標準レンズと言われている50mmより少し広い範囲が写せることから、スナップをはじめとし、様々なシーンで活用できるVoigtlander ULTRON 27mm F2 Xマウント。
薄型のパンケーキタイプで、マウントからの全長は23.5mmと非常にコンパクトです。総金属製でありながら、120gという軽さに驚きます。携行性抜群で、首から下げて歩き続けても重さを感じず、小さなバッグに入れて持ち歩いたり、冬のアウターのように大きなポケットの付いたジャケットであれば、そこへ忍ばせておくこともできます。一見、コンパクトカメラにも見えてしまうほどです。
マニュアルフォーカスでありながら、マウント部には信頼性の高い電子接点が搭載されており、ボディ側との電気通信を実現しているのもうれしい点です。Exif情報、フォーカスチェック、撮影距離連動表示に加え、特定の機種ではボディ内手ブレ補正やパララックス補正にも対応しています。
高級感を感じるシンプルでクラシカルなデザインは、フィルムカメラのレンズのような雰囲気を持ち合わせています。鏡筒カラーは2色用意されており、どちらを選んでも、どのボディにもしっくりと馴染んでくれるはず。特に、X-Eシリーズのミニマムなデザインに相応しいレンズデザインになっています。
フジツボ型の付属フードを付けても形状が大きく変化しないので、収納時の出し入れもスムーズです。カメラをスマートに取り出せるだけで、オシャレに感じられます。
滑らかな操作感でピント面がつかみやすいMFレンズ
マニュアルフォーカスによる撮影体験も満足度を高めてくれます。1/3ステップの絞りリングのクリック感は良好。ピントリングはフォーカスノブによってヘリコイドが滑らかに動き、トルクを感じます。オートフォーカスレンズに無い機能美は、まさにフィルムカメラで撮影する感覚を想起させ、焦らずじっくりと被写体に向かう時間の心地よさは格別です。フォーカスピーキングが合焦した際の繊細で美しい描写に息をのみます。写真撮影の醍醐味を感じるひとときです。
純正レンズXF27mmF2.8 R WRを上回るスペック
開放F2、最短撮影距離25cmは、同じ焦点距離の純正レンズXF27mmF2.8 R WRをしのぐスペックです。純正レンズが最短撮影距離34cmであるのに対し、Voigtlander ULTRON 27mm F2 Xマウントは25cmと、さらなる近接撮影が可能です。
Xシリーズのイメージセンサーに最適化された光学系は、画像周辺部まで高い解像を保ち、歪曲収差も十分に補正され、色被りなどの現象も抑制されている印象です。逆光シーンの撮影では、若干のフリンジを感じながらも、嫌なフレアやゴーストはなく、逆光耐性の高さを感じます。
開放F2での撮影時は、被写界深度が深くなりすぎることなく程よいボケ味で、周囲の雰囲気や背景を取り込んで撮影することができます。前ボケはむしろ、広角レンズであることを忘れてしまうほど優しさを感じる雰囲気に包まれます。
また、レンズ自体に手ブレ補正機構はありませんが、開放F2の明るさがあるため、路地裏のような暗所、夜間でもピント面がつかみやすく安定した撮影が可能です。
被写界深度表示を活用したスナップ撮影
広角レンズの被写界深度の深さを利用したスナップ撮影も気持ちのいい写りです。絞りF8で3mの位置より奥は無限遠(∞)になるため、手前から奥までピントの合ったパンフォーカス撮影が可能に。
固定焦点にしておくことで、気になったシーンを撮り逃すことなく、軽快にシャッターを切ることができます。サッと構えて瞬間を捉える、まさにスナップ撮影に最適です。“広すぎず、狭すぎない40mm”という画角も手伝って、歩きながら、ポタリングしながらといった、散歩撮影でスナップレンズとしての本領を発揮してくれます。
質感を写し込む高い描写性能
撮影をしている中で一番グッときたのは、被写体のもつ質感と、その場にいるような臨場感。細部に至るまで解像し、周囲の空気をまといながら写し込みます。
また、私自身は現像ソフトを使用するよりも、カメラ内RAW現像を活用しています。カメラ内現像を行うと、フィルムシミュレーションそれぞれの色の特長を引き出し、深く写し込む力強さ、色のりの良さも感じました。これまで使用してきたXマウントレンズの中で群を抜いて美しい仕上がりです。
おわりに
シンプル&コンパクトなサイズもさることながら、ピントを合わせるたびにどんな画になるのか、ドキドキ・ワクワクしてしまいます。また、撮影を続ける中で、MFレンズであることを忘れてしまうほど操作にストレスを感じません。
優しい雰囲気から、リアルで精細な描写、フィルムシミュレーションの色や、ボディ側の機能との相性まで、「写真撮影体験」を重視して考えられているレンズであることを強く感じられます。手元に置いて長く愛用したい魅力的な1本であることは間違いありません。
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。