フォトワールド

「折り紙」を撮る

折り紙「鶴」 千羽の鶴が弧を描いて渡って来る様をイメージし、芝居の舞台屏風のように金雲を配した赤い和紙に折り鶴を並べ、自然光で撮影。

■カメラ:ペンタックスLX レンズ:マクロ50mm 絞り:f32 AE フィルム:コニカLV200 カラー用ブルーランプ使用

 末廣氏の作品を拝見すると、一枚の紙でできているはずの動物や鳥たちが、まるで命を吹き込まれたかのように、豊かな表情や動きをもって見る者を楽しませてくれるとともに、背景の美しさにも思わず目を奪われる。主題である折り紙だけでなく、こうした背景のセッティングも、すべて末廣氏ご自身のアイデアと手技によるものだ。「背景のセットにも、風呂敷やスカーフなど身近にあるごく普通のものを利用しています。私の撮影はまず折り紙を俳優に見立て、作品のテーマに合った舞台を設定する。つまり自分でストーリーを思い巡らして演出するのが楽しいんですよ」。

折り紙「鶴」 束帯装束のような気品と貫禄をもつ重厚な折り鶴。その下から幻想的な光を当て、ライトの熱で敷物のセロハンにも表情を出した。

■カメラ:ペンタックスLX レンズ:マクロ100mm 絞り:f32 AEプラス2 補正 フィルム:フジカラースーパーG200 カラー用ブルーランプ使用

 こうした独自の発想から、面白い撮影手法も生まれてくるようだ。例えば折り鶴が中空を飛んでいるように見せる撮り方がその一例として挙げられる。「私がまだ自分で折り紙をうまく作れなかった頃に、入会している『折り紙同好会』の先生や先輩たちから戴いた作品を写真に撮っていたんですが、折り紙だけに鶴の口ばしが欠けていたりとか、形が崩れてしまっている場合もあるんです。そんな部分をうまく隠して、折り紙を作られた方にはなるべくきれいな写真をお見せしたいと被写体の高さやアングルを工夫しているうち、中空に浮かんだ鶴を下から撮ろうと考えました。

 そこで思いついたアイデアが、透明なガラスのテーブルに載せるという方法だったんです。被写体をガラステーブルごと動かすことで、より多彩なアングルや表現が作り出せるようになりました」。また、実際に糸で折り鶴を吊って中空に浮かせる場合もあるそうだが、この手法だとなかなか思ったところに止まっていてくれなくて苦労するという。「息を吹きかけて揺らし、ちょうどいい位置に来た時にシャッターを切ろうとしたけれどなかなかタイミングが合いませんでした。そこで小さな扇風機を使って揺らそうと考えたこともありますが、これも動きが大き過ぎて、うまくいかないんです。いろいろと試してみると、エアコンから出ている冷暖房の微風を利用する方法が意外と良かったりするんですよ」。

 折り紙の素材選びからセッティングを含めた撮影手法まで、実験的にいろいろと試行錯誤する中から発見してゆくのがご自身のやり方であり、それがまた撮影の楽しみなのだと末廣氏はにこやかに語り続ける。

折り紙「鶴」 形で心模様を、色で厳粛さを表現。バックと折り鶴に同じ小さなキラキラ模様の紙を使い、ライティングで一体化を狙った。

■カメラ:ペンタックスLX レンズ:マクロ100mm 絞り:f32 AEプラス1/2 補正 フィルム:コニカLV200  カラー用ブルーランプ使用

 「折り紙というモチーフによって、作品を見る人の心をなごませてあげたい」と言う末廣氏だが、このテーマはご自身がかつて大学で「家族関係学」を専門に教えておられたことともつながりがあるようだ。「人は悩みを打ち明けるとか、本当に誰かに聞いてもらいたい事がある時は、やはり相手のそばに寄り添って話すものですよね。折り紙の写真でもひとつの画面空間の中で、夫婦であったり、親子であったりという役割を被写体に与えて、そんな心のふれあいを表現したいと思っています。

 私自身の折り紙や写真の技術にしても、作品創りに対するこうした思いにしても、やはり自分ひとりの力で培ってきたわけではなく、写真と折り紙それぞれの師をはじめ、人との出会いやつながりによって得られたものだと思いますから」。

 市販の教本などを見れば、身近にある紙で誰でも簡単に作れる「折り紙」。読者の皆さんも、時にはお子さんやお孫さんとのふれあいを楽しみながら、手作りのぬくもりや夢のある折り紙の世界に、カメラを向けてみてはいかがだろうか。

すえひろ かずこ

1918年東京都生まれ。女子栄養大学教授として在職中の1980年に写真家・上野千鶴子氏に師事。干支玩具や折り紙を題材にした写真に取り組み、退職後の現在まで数々の写真展で発表。「鶴の会写真展」「四字成句写真展」には毎年出品。フォトクラブKC会員、全日本写真連盟会員。写真集『折紙景様−おりがみ みた目のおもしろさ』(光村印刷)。