路上観察紀行
古い町並みというものは、街の進化に
とても重要な役割を果たしていると思うのです。

「路上観察学会」の今回の「奥の細道」でも、藤森氏は路上の様々な景観を建築史家として独特の観点から分析しています。特に古い町並みに着目して、街の進化や、ひいては文化の進化をも観察しているようで、路上観察のお話をうかがっていても、話は自然とそちらの方に向かっていきます。

 深川の同潤会には職人たちの世界がいまだに残っていますし、越谷では古い町並みの一画が残っています。古河にも古い商家がたくさん残っていました。私は古い民家や町屋などが好きなので、そうしたものに興味がいってしまうんですね。再開発のはざ間に古い町並みがあり、その取り残されたような景観にも、その土地土地の再開発状況に差があるために、様々な違いがあるんです。

 鹿沼も町屋が多くて面白い町でしたが、なかでも、ホウキがたくさんぶら下がっているお店があったんです。ホウキなんてたくさん買うものではないし、一本買えば何年も使いますから、そうそう売れるものではない。商売になるんだろうかと、いらぬ心配をしてしまいます(笑)。矢板の町では巨大な蔵を見かけました。それがポツンポツンと残されています。見ようによってはイタリアの田舎町のような風情がなくもない(笑)。桑折の町屋は今でもそこで生活をしている人たちがいます。だから生活臭がある。それが特徴的でした。
白河では祭りに出逢った。ドラエモンを飾っている。祭りも進化(?)しているのだ。(白河)
桑折では見事なナマコ塀を発見。ここは今でも人が住み、生活している。(桑折)
 白河のこじんまりとした町並みも印象的でしたね。松平定信のお膝元で、定信の別荘があった南湖公園があったりします。私は実は王様が好きなので、藩主になってみたいんです(笑)。白河だと少し小さいですけど、もう少し大きくて文化的にも街中にバラつきが見られるようなところがいいんですね。そんな勝手な想像をさせてくれるのも路上観察のいいところではないですか。

 飯坂温泉では鯖湖湯という共同浴場があるのですが、ここでは古い共同浴場の形が残されていて、脱衣所と浴室が仕切られていないのです。昔はお風呂に入っている人たちと服を脱いでいる人たちが同じ空間にいたんですね。鯖湖湯はそれが今でも守られています。ただ、このお湯はやたらと熱い(笑)。

 こうした古い町並みや懐かしい街の景観というのは、再開発の都市計画でどんどんなくなっていて、今では街の中で点のような存在になっています。なんとか、こうした古い町並みを残せないものかと思います。街も進化していくのですから、生物と同じように遺伝子のようなものがあると思うのです。遺伝子を新しいものに入れ替えていくだけでは、生物はどんどん弱くなっていく。弱い生物になってしまうのですね。だから生物学の世界では古い遺伝子を保存して残そうとしています。古い遺伝子を残しつつ、新しい遺伝子を取り込んでいくことで、強い生物になっていくんですよ。街の景観も、古いものがすべてなくなってしまえば、どこか弱々しい景観になってしまうのではないでしょうか。
飯坂でもっとも古い中村屋旅館。中に入ると、江戸時代に作られた区域、明治に作られた区域、大正に作られた区域と、時代の異なる三つの区域に分けられている。(飯坂)
雨樋が屋根からはずれて立っている。雨粒たちは、どうやって雨樋に飛び移るのだろう?(日光)
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