特集
自然の前ではすべてが平等ですから、
何に美しさを感じ取るかが大事なんです。

■5ミリの水滴と地球を比べて、
どちらが美しいかを考えてほしい。
●フィルムの他に屋久島の写真塾では、どのようなことを参加された方々にお話しされたのですか?

 まず最初に私の写真を見てもらい、その写真を撮った場所に次の日お連れして写真を撮りますから、どんな写真を撮りたいかを考えておいてくださいとお願いして、イメージトレーニングしていただきました。
 それと自然の見方について教えました。七千二百年も立ち続けている縄文杉にしても、原生林が育んできた造形美や生命の荘厳な様に感動するのであって、単に寿命の長さが素晴らしいわけではないのです。自然の前ではすべてが平等ですから、今生まれた若芽でも、同じ尊い命であることには変わりはありません。カメラを向けてシャッターを押しているときに、実際に写しているのは写真を撮っている本人の気持ち、その被写体の何に美しさを感じたか、ということなのです。ですから、たとえばシダの葉っぱ一枚でも、足下の石ころ一つでも、それが美術品のようだと思えば、縄文杉に劣らない素晴らしい被写体となるのです。
 極端な例ですが、たとえば5ミリの水滴を写した写真を大きく引き伸ばして、その横に宇宙から撮った地球の写真を水滴と同じ大きさにプリントして並べたとします。その二枚の写真を見比べたとき、それぞれがどういう意味を持っているのか、それを一人一人で考えてほしいと伝えました。
屋久杉の上に着生したヒカゲツツジ。まるでいけばなのよう。この大きさになるには200年かかっているという話に驚いた。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:300mm 絞り:f22 シャッタースピード:10秒 フィルム:RVP 撮影地:屋久島
クモの巣にとらえられた霧の粒子が、真珠のように連なっている。気持ち良い朝、僕はうれしい自然の贈り物を見つけた。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:300mm 絞り:f8 シャッタースピード:4秒 フィルム:RVP 撮影地:屋久島
 
 
 
●こうした先生の写真塾という試みは、今後も続けていかれるのですか?

 今のところは具体的な予定はありませんが、何年かに一度くらいは続けていきたいですね。やるとしても、屋久島は今回やりましたので、次回は場所を変えることになるでしょう。

 もし、私の写真塾の話に興味を持たれたのでしたら、今年の2月に雑誌「サライ」別冊で「世界遺産 屋久島の撮り方」という本が出版されていますので、そちらを見てください。この本は私の屋久島に対する自然観や自然の見方、撮り方を解説してあります。撮影のテクニックも初心者に向けたものから、月夜の晩のように撮影する方法やフィルターワークといった高度なものまで、私の撮った作品を作例として解説しています。また屋久島のどこに行けば、どのようなものが撮れるのか、屋久島へ行く方法や利用できる宿の情報などもガイドとして入れましたので、これ一冊で屋久島へ撮影旅行をすることができます。

 私がなぜ、こうした本を出版する気になったかというと、もちろん屋久島の原生林の意味や価値を皆さんにもっと知っていただきたいということもあるのですが、屋久島が風景写真を愛好している方々に、格好の舞台を提供しているからなのです。
 屋久島というのは垂直分布といって、日本の北海道から沖縄までの気候が全部あるのです。ですから屋久島には日本中の植生がある。その屋久島を一通り撮ることができれば、日本中の風景を撮ることができるのです。
苔むした倒木をアップにしてみた。美しい立体のオブジェは、写真にしてみるとまさに美術品といえる。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:300mm 絞り:f32 シャッタースピード:90秒 フィルム:RVP 撮影地:屋久島
桜のように見える沢に落ちたアブラキリの花。5月下旬に見られる。木の下からは大きな葉にさえぎられて、咲いているところは見えなかった。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:210mm 絞り:f22 シャッタースピード:10秒 フィルム:RVP 撮影地:屋久島
 
 
 
 
 
 
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