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一見美しいとは思えないものに、
写真を通して美しさを見つけだしてゆく。
その美しさの発見こそが、
オリジナリティにつながってゆくのです。
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■日本の夏の特徴は「熱」だと思います。 |
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●自然の多面性ということでは日本には四季という大きな季節の変化があります。先生はこれからの季節、夏にどのような印象をお持ちですか?
私が生まれ育った長崎では、夏と言ったら精霊流しなんです。その印象が強いですね。長崎では大きいものでは10メートル以上もある大きい精霊舟を作り、親戚一同で海まで引いていきます。そうした精霊舟があちらこちらから出てきて、一斉に海に向かって殺到する。私は小さい頃に、この精霊流しの行事を見ながら、夏になると死んだ霊が戻ってくるという怖れを抱いていました。夜なんか怖かったですよ(笑)。
その影響もあって、私は今、夏になると全国の精霊流しを取材して歩いているんです。隠岐の島では藁で20メートルくらいの精霊舟を作り、新盆のあった方々がその精霊舟に乗ります。沖合まで精霊舟を曳航していって流すのですが、その流すところで精霊舟に乗っていた人たちが曳航してきた船に乗り移り、死んだ霊との最後の別れを惜しみます。その様子を精霊舟を作るところからずっと取材しているんです。
自然風景の写真で言えば、夏の特徴は強烈な光、そして「熱」です。入道雲であれ草原に立ち上るかげろうであれ、熱が起こしているものでしょう。私は精霊流しにも熱を感じるんです。先祖に対する熱い思いですね。盆踊りで夜通し踊ったりするのも、そうした熱い思いのあらわれではないでしょうか。それが日本の夏の特徴だと思います。 |
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もう十年以上、精霊流しを撮っている。民間伝承や、土俗的信仰に惹かれる。これも「自然写真」のひとつ。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール50mm 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:フジベルビア 撮影地:福井県小浜市 |
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夕方の光を浴びながら、港を出て行く精霊舟を、海面に近い目線で撮った。海上では三脚が使えず、手ぶれに細心の注意をはらった。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール105mm 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:フジベルビア 撮影地:福井県小浜市
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■テーマが写真のオリジナリティを
鍛えるのです。 |
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●先生の方からアマチュア写真家の方々にアドバイスいただけることがありましたら、お話しください。
写真撮影の技術は本を読んだり、仲間どうしで教えあったりすればなんとかなります。しかし表現としての写真を求めるのでしたら、短い期間でもかまわないですから、テーマを持って撮影することをお勧めします。
私はカルチャースクールで写真の講師を10ヶ月間つとめたことがありましたが、そのときにも、受講されている方々の撮った写真を拝見しながら、お一人お一人に私の方からテーマを与えまして、そのテーマに沿って撮り続けていただいたんです。
たとえばご自分の家の庭を撮っている方がいたのですが、その庭の写真を拝見すると技術はもう完璧なんですが、その写真に写されていた庭が撮影者ご自身の庭に見えない。写真にオリジナリティが欠けていたのです。そこで私は庭そのものをテーマとして、庭に起こるどんなことでも撮ってほしいと言いました。どこの庭でも撮れる写真ではなく、自分の庭でしか撮れない写真を撮ってほしかったんです。そのためには庭の美しさばかりに目を向けていてはいけない。花が枯れてゆくのも自分の庭で起きた出来事です。ただ美しいものだけにレンズを向けるのではなく、一見美しいとは思えないものにも、写真を通して美しさを見つけだしてほしかった。その美しさの発見こそが、オリジナリティにつながってゆくのですから。
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石もテーマの一つだ。いつか、石の本をつくろう、と思っている。カメラを持って野外へ出たら、些細なものでも、じっくり観察するよう、心がけている。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール50mm 絞り:f5.6 シャッタースピード:1/60 フィルム:フジベルビア 撮影地:岐阜県寝覚めの床 |
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水は永遠のテーマ。水に向かうとき、その流れの早さと、水量と、水温を充分感じてからシャッターを押す。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール50mm 絞り:f8 シャッタースピード:1/125 フィルム:コダクローム64 撮影地:群馬県片品村吹割の滝 |
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また、ある方はある村の自然景観が気に入って、その村に通って写真を撮り続けていました。その方には自然景観だけではなく、その村そのものをテーマにするように勧めました。その村を通る郵便屋さんに至るまで、その村の生活すべてを被写体にしてほしかったんです。それも大きな意味での自然風景なのだということに気づいてほしかったのですね。
中には自分が何を撮っていいのかわからないという方もいました。その方に好きなことをたずねると料理が好きだとおっしゃる。そこで私は鍋をテーマに撮ってもらうことにしました。料理を作っている途中の鍋、作りすぎて料理が余ってしまった鍋、食べ終わって空になった鍋、それを誰と食べたのかを記録しながら、半年間撮り続けていただきました。鍋を通じて自分の生活を撮り続けていることを知っていただきたかったんですね。
このように、テーマを与えられ、束縛されて撮る写真というのは、オリジナリティを鍛えるためには大事なステップなのです。一つの被写体を見つけて構図を探し、アングルを見つけ、シャッターを押す。その同じ被写体を、また撮らなければならないとなると、それとは違う構図やアングルを探そうとする、何とか違う写真を撮ろうとする。すると意識が被写体や撮影に集中します。それがオリジナリティを生み出す想像力をつくり出してゆく。それが表現としての写真の糸口なんですよ。
●最後になりましたが、先生がカメラのキタムラに思うこと、期待されることがあったら教えてください。
写真を文化として捉えるという姿勢を今後も続けていただきたいし、真面目に取り組んでいただきたいと思います。各地にギャラリーを作っていただけるとうれしいですね。今は東京一極集中のようになっていて、地方に行くとギャラリーがないんです。九州にも札幌にも仙台にもほしい。キタムラさんのギャラリーを中心にサロンのようなものが各地に形成されていくといいと思います。それが日本の写真文化の底上げにつながってゆくと思いますので、期待しています。
●お忙しいところを、ありがとうございました。 |
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