特集
被写体とのコミュニケーションが大切なことは、
ポートレートに限ったことではありません。

●それから先生のポートレート写真が確立されていくわけですが、先生が考えるポートレート写真のコツというのを教えていただけますか?

 被写体と気持ちを一つにすることが大切です。そのためにはコミュニケーションが必要ですが、この被写体とのコミュニケーションというのは、なにもポートレートに限ったことではありません。

 私の友人に三十年も富士山を撮り続けている人がいます。その彼が、あるとき富士山が撮れなくなったと言ってきたことがありました。美しい富士山の写真が撮れる気がしなくなったらしいのです。それで私は、富士山を撮る前に、毎日富士山にあいさつをしているかい、と訊ねたのです。撮る前に「ああ富士山、きょうはとてもいい顔をしてますよ、また撮らせてもらいにきましたよ」と一言かけてみてはどうか。そうしたら富士山だって、あなたの方を振り返って笑顔を見せてくれるかもしれないよ、とアドバイスをしてみたのです。するとしばらくして、その友人が「私の言ったことがよくわかった」と言ってきました。何にでもコミュニケーションはあるし、それはとても大切なことなのです。

 コミュニケーションというのは相手への思いやりです。被写体を愛しなさいということですね。被写体に愛情を注げば、相手も安心して心を開いてくれます。その相手が心を開いた瞬間こそ、美しい写真が撮れる最高のシャッターチャンスなのです。
■自然な笑顔を誘い出すのが
大人の知恵です。
●先生の作品の中の女性は、みんな素敵な笑顔を見せてくれています。こうした笑顔を撮りたいと思った場合は、どのようにコミュニケーションをとればいいのですか?

 笑いなさいと言っては駄目です。コミュニケーションをとっていく中で、どういうことを言えば相手が笑ってくれるのか、その笑顔のタイミングを見つけだし、相手から自然な笑いを誘い出します。それを見つけだすのは大人の知恵です。

 私は被写体に無理な注文はつけません。最初にこちらの撮影意図を相手に伝えて、後はたとえば「その動きはいいね」とか「こっちの方がいいね」とか言いながら、コミュニケーションを取っていくわけです。「今朝は何を食べたの?」とか、相手が学生であれば「勉強は何が好きなの?」といった、他愛のないことでいいのです。そういう、何でもないことをたくさん聞くことで、相手が私を理解してくれます。また、相手の返してくれる言葉の端々から、その子の生活環境や背景を把握していきます。
昔ながらの郵便ポスト。沖縄の植物公園の中にあります。花があって、車輪がある、けっこう面白いところでした。
■カメラ:ニコンF4 レンズ:80〜200mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:1/125秒 フィルム:フジRDP・
 
 
 
●ただの笑顔ではなく、自然な笑顔を誘い出すためにコミュニケーションを重ねていくわけですね?

 そうです。笑顔は最高のお化粧なのですね。どんなに美しい服を着ても、どんなに美しい化粧をしても、その子が心を開いてくれた最高の笑顔にはかなわないのですから。そうした笑顔には自然と優しさが出てきます。私は被写体の持っている内なるものが、全身から溢れてくるところを撮りたいのです。

 そのために、いつも楽しい撮影を心がけています。写真というのは撮る側も撮られる側も、楽しくなければいけません。撮影が楽しければ、相手は伸びやかな気持ちになってくれます。ああ、きょう何か嫌なことがあったのかなあと感じられたときでも、別な話にもっていって、せめて私のカメラの前では、ハツラツとしてもらいたいと願っています。そうゆう気持ちに相手を誘ってゆくコミュニケーションがとれることも、大人の知恵ですね。
ひょっと横を向いてもらったら、体の曲線がとてもきれいでした。バックは白い波です。
■カメラ:ニコンF4 レンズ:80〜200mm F2.8 絞り:f5.6 シャッタースピード:1/500秒 フィルム:フジRDP・
写真集のための作品です。応募できた女の子でこれからタレントになる人です。水際の砂の上で横になっているところに、海水がどーっと寄せてきました。ひやーっと悲鳴をあげているところです。演出ではありません。
■カメラ:ニコンF4 レンズ:80〜200mm F2.8 絞り:f5.6 シャッタースピード:1/250秒 フィルム:フジRDP・
 
 
 
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